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短編「冬の終止符」

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或る雪の降る夜だった

彼からの別れの電話
もう繋がることはないことを
悟ったあの日の夜

それ以来
ひたすら仕事をすることで
彼のことを忘れようとしていた

オフィスに独り__
時計を見ると22:00

外の寒さは厳しそうだと
ふと窓ガラスの霜をそっと手で拭うと
凍りついた窓に雪の華が咲いている

(すっかり遅くなってしまったようね。)

いつもの帰り道は
すでに銀白色の雪化粧を終え
おぼろげな月明かりが
頼りなげに寂しく光っている

まばらに点在する街燈の周りだけが
蒼白く仄かな明るさを宿していた

降りしきっていた雪も止み
少し先にある街燈をつたうように
物想いに耽りながら
家路に辿り着く

辛い恋をしていた

けして__
叶うことは許されなかったのに

いつの間にか
好きになってしまっていた

あの人の居る方角の空を見ては
ため息まじりの想いは募る

果てしない夜空を見上げる
降り注ぐ星の光を眺めては
指でなぞるトライアングル

(まるで私たちみたい . . . )

玄関を開けると
愛犬が佇んでいる


「ワンッ!」

おかえりのあいさつをしたかと思うと
無垢な瞳が語りかけてきた

(お前、元気ないな?大丈夫か?)

無言の声が聞こえてきた

いつの間にか
愛犬を抱いたまゝ
嗚咽交じりに泣いてしまっていた

頬を蔦う涙を
愛犬がペロリと舌で拭う

「クゥーン . . . . 」

恋に終止符ピリオドが訪れて一緒に泣いてくれた冬の夜

きっとこの先も
埋まることのない距離だったのかも知れない

冬の大三角は冷たく光っている
わたしはそっと指先でなぞってみた__

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