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短編 「雲は散る 空に儚き 夢の跡」

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【擬似科学】
科学としての、社会的認知のないまゝ、
科学の周辺領域の事象を取り扱うことの総称

わたしはあの日の出来事が脳裏に焼き付いて
離れることがない。

少年の瞳を持った男
Rと言う人物の生涯について、
わたしが見た出来事を筆にしたためる__ 。




それは__
青い光で激しく動いていた。

肉汁から作り出した培養基に
眩く光る物体が見える。

目に突き刺さるような放射が広がる。
Rはついに発見したのだ__ 。

内側を金属とし、外側に木の板を貼り付けた
箱に入れる。

しばらくして、箱を開けてみると
培養基ごと青く光っている。

培養基を取り出した後も
箱の中に光る粒子が見えた。

得体の知れない物質を観察を続ける内に
恍惚とした快感が全身を駆け巡るのだった。

Rはこのエネルギー体を
自然界に遍在・充満するオルガスムス性的絶頂から
"オルゴン"と名づけた。

そして__ 。
"オルゴン"を効率的に集積・放射する装置
"オルゴン・アキュムレーター"として
設計、製作した。

これで、不治の病であった癌治療に有効である
とRは信じて疑わなかった。

世のため人のために役立てようと
夢見ていたに違いない。

だが、この研究は世間やマスコミに嘲笑され、
「セックス・ボックス」と揶揄された。




Rの研究は続く__ 。
この素晴らしい"オルゴン"を利用するという
彼の情熱は止むことがなかった。

彼はこの世の穢れ__ 
原子力発電所、電波塔、軍の地下施設から
遠く離れた僻地で"癒し"が効果的であること
を立証するために"オルゴン"を発生させる
"オルゴナイト"を配置した研究所を設立し、
生物における「正の浄化作用」に
癒しの効果があることを発表した。

だが、事件が起こる__。
ラジウムの放射線を中和するものと期待して
オルゴンの実験を続けたが
多くの被験者が死に絶えてしまった。

実験に立ち会った研究員は
吐き気や頭痛を訴えて研究所を退去した。

このとき発生した物質は
"オルゴン"と対照的に人体に有害な
「負のエネルギー」を生み出してしまう。

Deadly Orgone
(死のオルゴン、略してDOR)
に変質してしまったと考えた。


"DOR"はひとに不快感を催させ
研究所には人が入れなくなった。

このとき、1ヵ月もの間
黒い雲が研究所の上空にあり続けた。

DORが空に充満しているのだと考えた。 
 
そこで、オルゴンを集中的に放射する投射機を作成し、
これを使い上空の黒雲を消すことを試みる。
 
グラスファイバーと糸状の細い金属を合わせた
蓄音機のような構造を持ったこの機器を
クラウドバスターと命名した。
 
クラウドバスターを雲に向けて引き金を引く。

すると__ 。
放射されたオルゴンによって
上空の雲が霧散するように消滅した。

Rはわたしの顔を見て
「見ろよ!俺はついに成し遂げた!」
とクラウドバスターの機上から微笑んだ。
 
その時にわたしは見たのだ。
Rの目に宿る透き通った蒼き炎を。

それは鬱屈とした心のもや
自らの手で払い除けた
会心の一撃であったに違いない__ 。




あの日からずっと__
Rは今日もクラウドバスターを操る
機上の人となっていた。

Rは宇宙から迫り来る
侵略者を乗せているUFOを探し出していた。

(死のオルゴンでUFOを撃退してみせる__ 。)

改良を重ねたクラウドバスターは
死のオルゴンを放射出来るように工夫が
重ねられていた。

しかし__
Rは世間から危険人物と見做されて
司法裁判の業務停止処分が下されいた。

だが、Rは世間のルールには従わない。

(俺には世界を変え得る力がある。)

Rは自らの信ずる道を進み続けた。

悲しくもその想いは届かず
司法によって留置所に連行されていった。

そして__
老境に差し掛かって
獄中の人となるRであった。

Rの記した著書や研究結果は
全て焚書され、その軌跡は葬り去られる。

それでも、なお__
Rは研究の実証を発表する夢を
失わなかったに違いない。




幸運の女神は彼には微笑むことはなかった。

仮釈放の申請したその日の内に
Rは冷たい檻房の中で
息を引き取ったのだった__ 。

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参考:
ヴィルヘルム・ライヒ(Wilhelm Reich)Wikipedia
 
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ケイト・ブッシュ Story
"Cloudbusting"

この物語はフィクションであり、
科学者へのオマージュであります。

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