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『世に棲む日々』吉田松陰が灯した火は、革命の炎となって、長州藩を燃え上がらせた。

 今年は、司馬遼太郎生誕100周年ということで、『世に棲む日々』について書こうと思います。話の前半は、幕末の長州藩士で勤王の志士、吉田松陰が主人公。後半からは、松陰の弟子の高杉晋作が主人公です。

 司馬遼太郎は、革命には3段階があると語っています。1段階は、革命思想が産まれて啓蒙活動家が現れる期間。1段階に活動する者たちは、だいたい弾圧にあって亡くなります。吉田松陰がこれにあたります。

 2段階は、革命の火の手を拡げて、旧制度を破壊する期間。その手段は多岐にわたります。議論や交渉や政治工作、暗殺等のテロリズムや武装蜂起等の実力行使。この2段階の時期でも多く活動家は亡くなります。高杉晋作の世代がこれにあたります。

 3段階は、革命の総仕上げとして、新しく生まれ変わる国家の諸制度を整える期間。まず軍事制度や外交等、国の安定基盤を創ります。それから法制度や経済の整備。教育や国土行政等々。

 司馬遼太郎の『世に棲む日々』は、幕末の長州藩を描きつつ、革命の1段階と2段階を描いてます。さらに司馬遼太郎は『花神』という作品で、革命の3段階を担った人物、大村益次郎のことを取り上げました。この2作品は、長州藩から目線での明治維新になります。

 吉田松陰は、心の底から純粋で、そのため世の中の常識に捕らわれず行動できる人でした。狂気と言ってもいいくらいのメチャクチャなことをしてるようで、全てに筋が通っている革命思想の志士でした。
 
 松下村塾で松陰から教えを受けた、高杉晋作や同志たち。彼らも師匠ゆずりのメチャクチャな尊王攘夷活動をします。やがて長州藩は藩を上げて狂騒状態となった末に、朝廷から迷惑がられて京都を追放され、幕府と諸藩による征伐軍が長州藩に攻め入ろうとしました。そこへ、下関沖にイギリスフランスアメリカオランダの4カ国艦隊が現れ、長州藩下関の砲台を攻撃します。4カ国は、前年に下関沖を航行中の商船が砲撃を受けていて、その報復として砲台を破壊して占拠したのでした。

 これは、身から出た錆、というしかないですね。

 長州藩は反動で、藩内の幕府恭順派が優勢となり、勤王派は次々に粛清されます。勤王思想による革命の火は、完全に消えてしまった。そう誰もが思っていました。高杉晋作を除いて。

 起き得ないことは起きないし、この世に起きることの全ては、原因があって結果になるはずです。だから、奇兵隊を率いて戦う高杉晋作の反転攻勢は、まるで奇跡のような勝ち方をしましたが、そこには高杉達が勝利を得られる要因があったのだろう、と思います。
何か歴史の流れのようなものがあって、なぜかうまくいってしまう。歴史の節目にはこういうことが起こります。でもそれは、奇跡とかでなく、たくさんの要因が積み重なっているのだと思いました。

 高杉晋作のことを思うと、なんとも言えない気持ちになります。行動は過激に見えて、慎重な人だったのかも知れません。人生を賭けて長州藩による勤王革命に捧げましたが、どこかふざけ半分みたいなところもあって。『世に棲む日々』を読んで、人間の運命の謎を思いました。 

 

 

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