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Culture|moiさんに教わる、フィンランドのコーヒー文化 〈01. 暮らしに溶け込むカフェと器〉

深まる秋、コーヒーがより美味しく感じられるこの季節。ラプアン カンクリ 表参道では、「秋に愉しむコーヒー時間」をご提案しています。そこで今回は、コーヒーやフィンランドに詳しい moi・岩間さんを迎え、フィンランドのコーヒー文化について、お話しいただきました。

はじめまして。「フィンランドをもっと好きになる|moicafe.com」というポータルサイトで、フィンランドを日本で楽しむための情報を紹介している岩間といいます。その前には、カフェ「moi」というフィンランドカフェを2002年から2019年秋まで東京の荻窪、そして吉祥寺で経営していました。

そんな公私共々フィンランドとコーヒーにどっぷりなぼくが、これから2回にわたって、フィンランドの人びとの暮らしになくてはならない「カハヴィタウコ(Kahvitauko)」についてお話しさせていただきます。

カハヴィタウコとは、直訳すると「コーヒー時間」。いわゆる「コーヒーブレイク」を意味するフィンランド語です。日本では仕事の手を休めてお茶やタバコを「のむ」ことを「一服する」などと言いますが、フィンランド語でこの「一服」にあたるのが「カハヴィタウコ」というわけです。

だから、「コーヒーが飲めないので、私にカハヴィタウコは無関係」なんて言わないで、どうか最後まで、できればあたたかい飲み物でも片手にのんびりとおつきあい下さい。


たくさんのコーヒーを飲むひとたち

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まずはぜひ、アキ・カウリスマキの映画『愛しのタチアナ』を観ていただきたいのです。この映画には、典型的なふたりのフィンランド人男性が登場します。ひとりは、常にウォッカのボトルを手放さない酒飲みの男。そしてもうひとりは、コーヒーメーカーのサーバーを抱え込むようにしてコーヒーをガブ飲みするコーヒー中毒の男です。おそらく、映画史上「最もたくさんのコーヒーを飲む人物」が登場する作品。

さすがに、まだコーヒーサーバーを抱えている人にフィンランドの街中で出くわした経験はありませんが、実際にフィンランドの人たちが毎日たくさんのコーヒーを飲むということについては間違いないようです。

ある調査によると、フィンランドでは国民ひとりあたり年間12キロほどものコーヒー豆を消費しています。杯数に換算すると、ざっと毎日3.5杯ほど。しかも、この数字には赤ん坊や体質的にコーヒーが苦手なひとも含まれますので、実際のところは、毎日4杯以上のコーヒーを飲んでいる計算になります。どうですか?多いですよね。これは世界でも1、2位を争う消費量です。ちなみに日本人は1杯弱といったところ。相手になりません。


フィンランドのカフェいろいろ

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これだけ日常的にたくさんのコーヒーが飲まれている国ですから、街のそこかしこにコーヒーを楽しめるカフェや喫茶店が点在しているのも頷けます。

ウィーンやパリを思わせるオーセンティックなカフェや、下北や高円寺あたりにありそうなキッチュな雰囲気を醸し出すカフェ。日本でいうところの「純喫茶」といった感じのカハヴィラは、一歩足を踏み入れれば、しばし地元民の仲間入りをしたような気分を味わうことができます。

もちろん、「ロバーツコーヒー」に代表されるセルフ型カフェもたくさん見つけることができますし、ここ最近はこじんまりとしたコーヒースタンドも増えつつあるようです。ちなみにスターバックスのフィンランド進出は意外に遅く、2012年のこと。すでにたくさんのコーヒーショップがひしめき合っているため、足がかりを築くのに手こずったのかもしれません。

北欧らしさが感じられるのは、短い夏を満喫するための屋外のカフェ。公園のキオスクや、海辺や湖畔にたたずむテラス式のカフェ、郊外の由緒あるマナーハウスを改装した夏季限定のカフェなどは、明るい太陽の光を求める人たちで常に賑わっています。

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テラス席のあるカフェでは、日本とは逆に、たいがい外からテーブルが埋まっていきます。夏のカハヴィタウコはまた、貴重な日光浴の時間でもあるようです。テラスは満席なのに、店内はガラガラといったこともしばしば。

一方、手がかじかんでしまうような寒い日、ふらっと立ち寄りたくなるのはマーケット広場に立つテント小屋のカフェです。なかには、デカデカと書かれた「+20℃」といった文字で道行くひとの誘惑を試みる店もあります。そこなのか。


カフェは日々の暮らしの一部

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こうしたカフェや喫茶店では、早朝から老若男女さまざまな人びとが思い思いのスタイルでコーヒー片手に「カハヴィタウコ」を楽しんでいます。そしてそんな光景に、ぼくは心底感銘を受けてしまうのです。

というのも、はじめてフィンランドを訪れた20年以上前、日本でも「カフェブーム」などと言われ、洒落た店が雨後のタケノコのごとく出来ていましたが、そうした店の多くは客席の大半を若者が占め、友人と誘い合ってわざわざ行くような特別な場所だったからです。

それに比べて、フィンランドのカフェはより日常の延長線上に、人びとの日々の暮らしにしっかり溶け込んでいる印象を受けます。ひとり客も多く、こだわりとか趣味といった特別さよりも、コーヒーはもっと身近で、大げさに言えば人生の一部になっているように感じられました。


うつわのデザインとコーヒーの関係

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同じことは、フィンランドのコーヒーカップのデザインにも反映されています。カイ・フランクがデザインした「ティーマ(Teema)」は、1953年に「キルタ(Kilta)」という名前でアラビア製陶所から世に出て以来、今日までずっと愛され続けてきた、いわばフィンランドのコーヒーカップの代名詞的存在ともいえるプロダクトです。

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使うひとを選ばないそのデザインの「潔さ」は、まさに「フィンランドデザインの良心」と称されるカイ・フランクの面目躍如といったところ。初めて宿泊したヘルシンキのホテルのダイニングで、無雑作に積み重ねられた大量の「ティーマ」を目にしたとき、ぼくはこの器の本来あるべき姿を理解した気がしました。そして、この北国の人びととコーヒーとの気のおけない友人同士のような関係を思い、やけに眩しく感じられたのでした。


次回は、フィンランドのコーヒーの味や抽出方法、楽しみ方などを日本と比べつつ、「カハヴィタウコ」が日々の暮らしにどんな特別な変化をあたえてくれるのか、そうしたことについてお話ししたいと思います。


moiさんプロフィール

フィンランドをもっと好きになる
喫茶ひとりじかん
サークル nuotio|takibi
twitter:@moicafecom

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