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80年代アイドル映画の魅力

ここ数年、若者を中心として昭和ブームが続いている。

インスタントカメラ、純喫茶、クリームソーダ、カセットテープなど、昭和を感じる品々が流行している。また、西武園ゆうえんちは、昭和をテーマにしたテーマパークとしてリニューアル・オープンした。

これらは、今の若者にとって「エモい」ということになるらしい。

そんな昭和ブームの中で、根強い人気なのが80年代アイドルである。1980年代はアイドル黄金時代と呼ばれ、アイドルの歌はヒットを連発、そして、主演映画も数多く作られた。

実際、80年代アイドル映画は、かなり特異な作品群で占められている。今だったら作られそうにない作品ばかりで、今の若者たちにとっては、まさに、これまで見たことのない新鮮な世界だろうと思う。

これら80年代のアイドルが主演した、特に女性アイドル主演映画を振り返ってみたい。

80年代アイドル映画とは?

80年代アイドル映画の元祖とされるのが、薬師丸ひろ子主演・大林宣彦監督の『ねらわれた学園』(1981年)である。

実際、『ねらわれた学園』には、その後多く作られる80年代アイドル映画の要素が詰まっている。

80年代アイドル映画の特徴

アイドルの可愛さが主役
『ねらわれた学園』の主人公は、超能力を身につけた女子中学生となる。その女子中学生を演じるのが、薬師丸ひろ子である。

彼女が、学園制覇を目論む謎の男と戦うという単純なストーリーとなるが、この作品から得られるのは、「面白い」とか「感動」とかでなく「薬師丸ひろ子が可愛い」である。

80年代アイドル映画は、アイドルの可愛さこそが主役であり、主題となる。主演アイドルを可愛いく撮ること。これに成功していれば、映画としては首をかしげる出来だったとしても、アイドル映画としては良品となる。

ファンタジーである
前述したように、『ねらわれた学園』は、超能力を手に入れた女子中学生が主人公の話であり、つまり、ファンタジーとなる。キラキラ輝いているアイドルが主演の映画で、暗い人間ドラマや政治ドラマは不要である。

そのため、80年代アイドル映画では、SF、ホラーを含め、どれだけ荒唐無稽な話だったとしても、現実離れしたファンタジーな作品が多い。

チープな特殊効果
『ねらわれた学園』の見せ場となるクライマックスは、ズッコケてしまいそうな合成画面のオンパレードである。これは当時の技術水準の問題と、大林宣彦というヘンテコ映画の巨匠の組み合わせが成せる技だったものの、その後の80年代アイドル映画では、こういったチープな合成映像が多用されていく。

それはまるで、アイドルが歌番組で着飾る、今だったら恥ずかしい、可愛らしさを全面に押し出したド派手衣装のようである。つまり、80年代アイドル映画のチープな合成映像は、アイドル達を引き立てる衣装としての役目を担っている。

演技が下手
『ねらわれた学園』の薬師丸ひろ子は、お世辞にも演技が上手とは言えない。自然な演技、迫真に迫った演技とは程遠く、常に台本を感じさせる。

近頃の若いタレントは、上手い下手に関わらず、すぐに本格的な演技が求められる。

しかし、80年代アイドル映画では、アイドルに演技力は求められない。アイドルはアイドルであり、女優ではない。演技が下手でもいい。歌が下手でもいい。可愛さが何より重要なのである。

サービスショットがある
アイドル映画の客は、アイドルを見たい人々、つまり、アイドルのファンである。小難しい評論家などではない。そのため、ファンに向けたファンサービスともいえるショットが挿入される。

『ねらわれた学園』の薬師丸ひろ子は、制服姿、私服姿ときて、さらにネグリジェを着たシーンが登場する。まさに、ファンに向けたサービスショットである。

80年代アイドル映画の紹介

もっともらしく書いてみたものの、アイドル映画というのは、明確な定義があるわけでなく、個人の感覚に大きく左右される。

例えば、『Wの悲劇』(1983年)は、大人気アイドル薬師丸ひろ子主演作であるものの、この作品をアイドル映画と呼ぶことはできない。『Wの悲劇』は、上記アイドル映画の特徴いずれにも当てはまらず、また、一人の女性の成長を描いた優れた人間ドラマである。しかし、この作品こそ80年代アイドル映画の傑作という人がいるかもしれないし、それについて批判する気もない。

このように個人的感覚への依存が大きいだろう80年代アイドル映画であるが、その中で、優れたアイドル映画と感じる作品を紹介したい。

星空の向こうの国(1986年)

80年代アイドル映画といったら、まずこの作品が思い浮かぶ。

ジュブナイルという言葉がこれほど似あう作品はなかなかない。パラレル・ワールドを舞台に、少年が病弱な少女との約束を果たすストーリーで、ラストは爽やかな感動を与えてくれる。

有森也実の映画デビュー作でもあり、可憐で純粋な少女を演じ、抜群の輝きを見せている。

時をかける少女(1983年)

80年代アイドル映画となると、この作品をあげないわけにはいかない。

原田知世演じる中学生を主人公としたタイム・リープ物で、監督は『ねらわれた学園』の大林宣彦となる。

『ねらわれた学園』と同様、特殊能力を身につけた少女が主人公となるストーリーであるものの、『ねらわれた学園』での奇抜でエキセントリックな作風から、ノスタルジー強めな作風へと変貌したことが、この作品が長年、アイドル映画の金字塔として愛されている理由と感じる。

そして、原田知世の見事なまでの棒読み演技は、アイドルに演技力は必要ないということを改めて教えてくれる。

セーラー服と機関銃(1981年)

大林監督の『時をかける少女』をあげるなら、80年代アイドル映画を牽引した二大巨頭として、相米慎二監督の『セーラー服と機関銃』もまた、避けられない作品である。

ただ、この作品を果たしてアイドル映画としてよいのかは迷うところである。なぜなら、この作品は、優れた青春映画だからだ。

ある日突然、女子高生がヤクザの親分になるという、現実離れしたある意味ファンタジー的なストーリーではある。しかし、一人の少女が、出会いや別れを通して成長していく様が、センチメンタルな雰囲気とともに丁寧に描かれている。

それでも、ラスト、新宿西口をロケ地にした薬師丸ひろ子のサービス・ショットで、ああ、この映画はアイドル映画だったんだな、となるのである。

満月のくちづけ(1989年)

現在、NHKの連続テレビ小説『カムカムエブリバディ』で、49歳で18歳を演じるという凄技を見せている深津絵里が、本当の10代の時に10代の女子高生を演じた作品である。また、深津絵里が高原里絵名義で出演した貴重な作品でもある(深津絵里はデビュー当時、複数の名前を使い分けており、他に水原里絵名義での出演作品もある)。

おまじない好きな女子高生たちが、恋のおまじないに失敗し、悪霊に襲われるホラー作品で、スモークと原色の光源を使った幻想的画面、さらに、バレーボールがポーンポーンと跳ねるシーンは、イタリアのホラー映画『呪いの館』(1966年)を想起させ、大林宣彦も愛した映画監督マリオ・バーヴァの影響を感じる。

さらに、深津絵里(高原里絵)の競泳水着シーンやパンチラすれすれのシーンなど、サービスショットもしっかり盛り込まれている。

ドン松五郎の生活(1986年)

人間の言葉がわかる犬と、西村知美演じる少女を描いたコメディで、西村知美の映画デビュー作となる。

ストーリーは荒唐無稽であり、作品としての評価は難しいところではある。

しかし、この作品の主役は西村知美の可愛さであり、この作品が描いているのは西村知美の可愛さである。吹っ切った潔さがある。アイドル映画とはかくあるべし、を学べる作品だ。

恋する女たち(1986年)

前年にドラマ『スケバン刑事』に出演し、人気絶頂期の斉藤由貴が主演したのが『恋する女たち』だ。斉藤由貴の他に、高井麻巳子と相楽晴子も出演、アイドル3人が同時出演した作品でもある。

斉藤由貴は、文学好き少女を演じ、文学的な語り口調のモノローグでストーリーが進行する。それはまるで、斉藤由貴がこの作品を観るファンに向け、画面越しに語りかけているようにも聞こえる。

3人のアイドルが演じる女子高生3人の恋の悩みが描かれるが、やはり中心となるのは斉藤由貴で、彼女の可愛さは際立っている。

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