見出し画像

檸檬読書記録 『あの子とQ』 『事件は終わった』

今日の本は
万城目学『あの子とQ』

吸血鬼ということを隠して暮らしている高校生・嵐野弓子は、ある日目が覚めると目の前に得体の知れな黒いトゲトゲのばけもの「Q」が現れた。
どうやら「Q」は、弓子が人の血を吸わないで生きられるかを確認するための監視役であり、17歳の誕生日を迎える10日前、吸血鬼が血を我慢できなくなる10日間を一緒に過ごさなくてはいけなくなった。
今や吸血鬼は人に溶け込み、あらゆることが大丈夫になった。それは勿論血を吸わなくても。だからそんなこと必要ないと、思っていたが…。
ある事件が起きて、物語は急展開を迎える。


といった感じで、万城目学作品は、エッセイ『べらぼうくん』は読んでいたものの、小説は初めてだったけれど独特な世界観というか、個性があって、楽しめた。
テンポが軽く、スラスラ読める。
そして何より、弓子と彼女の友達のヨッちゃんとの会話がなんともシュールで、面白かった。
お互いに想う気持ちがあって、強い友情にジーンとさせられた。

物語は、最初から不思議な雰囲気がただよっている。そもそも得体の知れない「Q」が突然現れるのもそうだが、現れて弓子が騒いでも、両親は気にした様子もなく、日常を続けていく。
1人だけ正気なのに、他は正気な雰囲気だけど異質な感じが、話に惹き込んでくる。もどかしさが、ページをめくる手を止まらなくする。

設定もいい。
吸血鬼という、ありふれた、たくさん同じ題材の本が出てる中で、吸血鬼の本質を上手く使いつつも、現代風になっていて興味深い。
日は眩しいけど平気とか、ニンニクも臭いけど問題はないとか、血は1度も吸わない限り大丈夫、とかとか。
十字架も平気で、寧ろカトリック系の学校に通ってるというのも面白くてよかった。
何より「Q」の存在!
「Q」とはいったいなんなのか。
事件が起きるのだが、その真相とは。
なんとも惹き込まれる作品だった。


もう1冊は
降田天『事件は終わった』

地下鉄で殺傷事件が起るのだが、物語はその後の人々を焦点にした話。
例えば、その場から逃げ出してしまった人の話だったり。
例えば、被害にあった人の話だったり。
例えば、事件の日に階段から落ちて負傷した人の話だったり。
例えば、勇敢に犯人に立ち向かえなかったけど、逃げ惑う人たちを誘導した人の話だったり。
例えば、殺傷事件で最初に被害にあった妊婦を庇うように立ち向かい、亡くなってしまった人に、亡くなる前に酷いことを言ってしまったと後悔する人だったり。
例えば…。

と、6人の視点でえががれている。
最終的にそれぞれに前を向こうとする話なのだけれど、全体的に少し切ない話だった。
事件自体はよく取り上げられる話題だけれど、その後を書いたものはなく、考えさせられた。立ち向かえなかった人にも、立ち向かった人にも、勿論被害者にも、それぞれに想いがあるのだと。
欲をいえば、事件の全貌をカメラに収めてた人や、加害者視点も読みたかったな、なんて思ったり。


降田天さんの作品は、結構…というか1作以外全部読んでいるのだが、個人的にはデビュー作『女王はかえらない』が1番だと思っていて、どの作品もどこかほの暗い印象。
けれど最後はあっと驚かせてくれる。
今作も、ミステリ要素は薄めというかあまりないのだけれど、ある意味で驚かされた。

少し不思議な気分に浸りつつ、今回は閉じようと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ではでは。




この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?