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花咲くインドブーム

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インドのお土産と言えば、必ず上位にランクインするのがショールである。質・デザイン・色・大きさ・形と、選び出すときりがないほどだ。とりわけ細かい独特のデザインは見るだけでも面白く、最近では有名ブランドの最新ファッションにも取り入れられているほど。そして、その独特な柄。「伝統的」に見えるが、実は少しずつ形を変えて、その時代の人々の心をしっかり掴んでいる。


私たちが知る「エスニック」はイギリスが作ったものだった?

エスニックな柄:ペイズリーは確かにペルシア起源だが、イギリスの機械織工業の町「ペイズリー」が由来。

ショールに描かれているエスニックな柄といえば、我々に馴染みの深いペイズリー柄が代表的だ。その不思議な形のモチーフは、花、マンゴー、魚、松かさ、蕾、水滴など諸説あるものの、カシミールの織物のButa(花・蕾)柄がペイズリー柄のお手本といっても良いだろう。さらに、その起源はサファビー朝(16~18世紀)のペルシアで生まれた繊細華麗なBoteh(草花の繁茂)柄まで遡る。Boteh柄は、交易や文化交流によってインドへと伝えられ、そこでムガール朝(16~19世紀)中期の文化に見られる自然描写が加えられたのだ。幾何学模様に近いBoteh柄は、柔らかく曲線を描く茎をもった、優美でスッキリとした草花の模様へと変化した。18世紀中頃になると、根元に花瓶やひとつの太い茎として描かれるようになり、その頃にはButa柄として定着していた。では、何故、ペイズリーというイギリスの都市の名前が付いているのか。

カシミール産ショールっぽくみせる苦肉の策。

18世紀中頃、イギリスではちょうど機械織工業が発展している時代であった。エジンバラやノーウィックがその工業拠点として栄えていたが、18世後半から次第にペイズリーが拠点として頭角を現してきたのである。当時、イギリスでも人気があったのはカシミール産のインド・ショールであった。東インド会社の社員や貿易商、軍人が、インドから美しく上質なカシミール産ショールをイギリスに持ち帰っては貴重な品として珍重していた。その人気にあやかって、インド・ショールに「似せた」ジャガード織りの安価なショールが大量に生産され始めたのである。その際、ペイズリーに住むスコットランドの職人が、イギリスの婦人の好みに合わせ、インドのデザインとして有名で、かつ刺繍のしやすいButa柄に、独自の工法で色彩豊かな花々のモチーフを加え、コロンとした可愛い柄をショールに描き始めた。これが、私たちのよく知るペイズリー柄の誕生である。つまり、ペルシアからインドへと伝わった模様に、イギリス嗜好を加えたものが、オシャレなエスニック柄の代表として我々の目に映っているのだ。

柄は真似できても、山羊はイギリスに適応できず。

視覚的な「インド風」ショールは、ヨーロッパ女性の心を掴み、安さも手伝って瞬く間に広まっていった。しかしながら、肌触りだけはカシミール産のショールからは程遠く、再現する事はできなかった。そこで、19世紀初頭から東インド会社の許可を得て、イギリス本土にカシミール産ショールの「原毛」である山羊の輸送が始まったのだが、船の難破や長旅で山羊は次々と命を落とし、イギリスにたどり着いても風土が合わずにすぐに死んでしまったのだ。こうして原毛だけは、ついにイギリスで生産する事が叶わず、これが今でも「カシミヤ」「パシュミナ」として珍重される所以でもある。

リバティで有名なリバディ百貨店も原毛・シルクはインドから輸入し、デザインでインドっぽく加工していた。

当時、東洋文化の発信地だったロンドンのリバティ百貨店(1875年創業)では、「ウルミツァル=カシュミア」や「マイソール=シルク」というショールがヒットしていた。実はこれもインドから原毛・シルクを輸入し、独自に染色やインド風デザインをほどこした商品だった。

「インドらしい」デザインは、これからも…。

そして現在。おしゃれなレストランやファッション・ブランド店、雑貨店などに行くと、インド独特の模様が現代風にアレンジ・コラージュされている。何百年も前から受け継がれ、何人もの商人たちの手に渡ったインドのデザイン。それぞれの時代の好みが反映された「インドらしい」デザインが、世界の舞台でも魅力のあるデザインなのだとインドの人々も気づき始めたのではないだろうか。

当分は続くであろうインド・ブーム。近い将来、ペイズリー柄を越える、新しい世代による新たなデザインが誕生するかもしれない。

コルカタのアートフェアにて(筆者撮影)

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