【2024年5冊目】夜明けのはざま/町田そのこ 

いきなり5冊目からスタートする読書記録です。

地方都市のさびれた町にある葬儀社「芥子実庵」。
仕事のやりがいと結婚の間で揺れる中、親友の自死の知らせを受けた葬祭ディレクター、元夫の恋人の葬儀を手伝うことになった花屋、世界で一番会いたくなかった男に再開した葬儀屋の新入社員、夫との関係に悩む中、元恋人の訃報を受け取った主婦…。

「夜明けのはざま」帯から引用

去年の秋に発売された町田そのこさんの新作です。
本棚を見てみると、文庫本がほとんどの中に町田そのこさんの作品がハードカバーで3冊。
文庫化まで待ちきれないほど好きという証拠。

友だちに紹介するなら…


・大切な人を亡くした人
・恋人と仕事どちらかを取らなければいけない人
・他人の意見を優先しがちな人
に勧めたい。

心が動いたフレーズ

「……認めるよ。おれが、真奈の仕事を受け入れられないんだ。だから、仕事を辞めてほしい。でも、おれが望むのはそれだけなんだ。仕事くらい……それくらい譲ってくれたっていいだろ」
「それくらい、って言わないで。自分がそうやって簡単に言い捨てたことが、相手の大切なものだったりするんだよ」
「自分の中の『それくらい』を相手に押し付けちゃだめだよ。理解しないと、いつか後悔することになる」

私たちは本当にいつも自分の気持ちで精一杯だ。
自分が辛いとき、自分の感情に気を取られて相手の感情を疎かにしてしまう。
最近小説を読んでいて、こういったことで人間関係が崩れてしまう場面はよく描かれているし、実際よくあることなのだろうなと思った。
「それくらい、って言わないで。自分がそうやって簡単に言い捨てたことが、相手の大切なものだったりするんだよ」は、肝に銘じたい言葉。
大切な人の大切にしているものを一緒に大切にでいる人でありたい。


次は、主人公の友だちの楓子が恋人に自分の意見を言っても否定され、結局釣り堀にばかり連れていかれていた時にもう1人の友だちのなつめが楓子にしたアドバイスです。

なつめ「海が見たいって言え。その反応で別れるかどうか決めな」
主人公「海って言って、連れて行ってくれなかったら別れるの?」
なつめ「そう。海釣りができない男なら、付き合う価値はない」
なつめ「状況を整えてもらわないと釣りもできないってことでしょ?そんな男、たいした奴じゃない」

実はこのシーンは回想で描かれていて、アドバイスをしているなつめはすでに自死で亡くなっている。
「海釣りができない男なら、付き合う価値はない」というユーモア溢れる極論に笑ってしまう。けど、なつめがもういないことを思い出して切なくもなる。
こういう時の女友達ってすごく心強いよね。
この短い会話になつめの人間性が表れていて、主人公たちと一緒に懐かしさと心の痛みを感じる。

「あんたは昔からそうでしょ。文句言いながら、最後は気を遣って相手に従う。それで、ひとりでこそこそ悔やむのよ。あれはほんとうは諦めたくなかったー、妥協したくなかったー、とかって」

私のことかと思った。
主人公の母が主人公に言った言葉。
正直このお母さんは言葉足らずだなと思ったけど、ちゃんと主人公より人生経験があって、ちゃんと娘のことをわかっていた。
「わかってもらえない」とあきらめ諦め、考え方の古い母を心のどこかで見下していた主人公と一緒に少し恥ずかしい気持ちになりました。

気を遣って相手に従った時って、結局「相手のせい」というモヤモヤが残ってしまうんだよね。勝手に諦めて譲るよりも、傷ついたとしてもぶつかれるようになりたい。

私はまだ学生で、主人公とライフステージが違うし、身近な人を亡くした経験がないから共感できない部分もあったけど、それでも大事な1冊になった。




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