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学校の話。

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子供たちの間で行われていたのは本当に「いじめ」だったのか。 大人の目線で描く学校の話。
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【小説】学校の話。<起>

【小説】学校の話。<起>


1)

小渕沢 丈二は、教員生活二十二年目となる今年度、とある町の小学校に赴任した。
児童や同僚たちは、彼を「丈二先生」と呼ぶ。
 
三学期現在、3年3組の雰囲気はかなり砕けたものになっている。

「ウチ、あの子キライ」

漢字の書き取りノートの山に目を通しているとき、その声を聞いた。

(やれやれ)

赤ペンを走らせながら、小渕沢は嘆息した。
金縁眼鏡のブリッジを押さえて声の方向を見遣ると、廊

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【小説】学校の話。<承>

【小説】学校の話。<承>

▼前話

1)

問題が起きたのは、二月に入って間もなくのことだった。

「こんな手紙が落ちていました」

3年1組担任、学年主任の及川が声を張り上げた。
朝の会の時間帯に急遽、学年集会が開かれている。児童たちは、狭い廊下でぎゅうぎゅう詰めになって並んでいた。

手紙は二通。
1組付近の廊下に落ちていたものを及川が拾い、問題視した。

手紙はいずれも自由帳を破って折り畳んだもので、次のようなことが

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【小説】学校の話。<転①>

【小説】学校の話。<転①>

▼前話

1)

「3年3組の笹木 凛音さん、欠席です。
体調不良ですって」

翌朝の職員室。
電話を受けた事務員が伝えに来た。
凛音といえば、昨日の昼休みに叱責された三人組のうちの一人である。

「昨日のことが関係してるのでは?」

瀬尾は胸騒ぎがした。

「体調不良と言ってるでしょう。まだ寒いですからね」

「丈二先生。あの手紙、もう一度見せてもらえませんか。
私、気になることが……」

「瀬

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【小説】学校の話。<転②>

【小説】学校の話。<転②>

▼前話

1)

「困ったことになったねぇ」

畠山教頭が力なく溜め息をついた。
細面の神経質そうな男で、あと数回溜め息をつけば魂が抜けるのではといった様子である。

職員室に隣接する小部屋で、小渕沢と畠山教頭は向かい合って座っていた。
来客を通したり、ちょっとした打ち合わせを行う多目的な場所だ。

(どこで間違えた──?)

小渕沢は、拳を握り締めて自問を繰り返す。

いじめの証拠を見つけたと思

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【小説】学校の話。<結①>

【小説】学校の話。<結①>

▼前話

1)

先週木・金と欠席した笹木 凛音は、週が明けて登校してきた。
久しぶりに顔を合わせた三人組は、初めこそ少々ぎこちなかったが、時間を追うごとに打ち解けていく様子が窺えた。

三人が揃うのは、先週問題を起こして以来だ。
そのための気まずさだったのだろうと、小渕沢は考えた。

(これに懲りて、大人しくしておいてもらいたいものだな)

眼鏡のズレを調整し、計算プリントの束を手に取る。

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【小説】学校の話。<結②>

【小説】学校の話。<結②>

▼前話

1)

ノックの音が沈黙を破る。
畠山教頭が「はい」と応じると、校長室の重いドアが開かれた。

「千乃ちゃん」

及川が驚いて腰を浮かせる。入り口近くに座っていた瀬尾は千乃に歩み寄った。オリバーが、守るように千乃の背中に手を当てている。

「お話、長くなっちゃってごめんね」

瀬尾が椅子をすすめると、千乃は泣きそうな顔で首を横に振った。

「実咲先生、悪くないよ。
”何があったの?”って

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