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キツナ月。
2023年11月15日 18:29
1)小渕沢 丈二は、教員生活二十二年目となる今年度、とある町の小学校に赴任した。児童や同僚たちは、彼を「丈二先生」と呼ぶ。 三学期現在、3年3組の雰囲気はかなり砕けたものになっている。「ウチ、あの子キライ」漢字の書き取りノートの山に目を通しているとき、その声を聞いた。(やれやれ)赤ペンを走らせながら、小渕沢は嘆息した。金縁眼鏡のブリッジを押さえて声の方向を見遣ると、廊
2023年11月15日 18:36
▼前話1)問題が起きたのは、二月に入って間もなくのことだった。「こんな手紙が落ちていました」3年1組担任、学年主任の及川が声を張り上げた。朝の会の時間帯に急遽、学年集会が開かれている。児童たちは、狭い廊下でぎゅうぎゅう詰めになって並んでいた。手紙は二通。1組付近の廊下に落ちていたものを及川が拾い、問題視した。手紙はいずれも自由帳を破って折り畳んだもので、次のようなことが
2023年11月15日 23:03
▼前話1)「3年3組の笹木 凛音さん、欠席です。体調不良ですって」翌朝の職員室。電話を受けた事務員が伝えに来た。凛音といえば、昨日の昼休みに叱責された三人組のうちの一人である。「昨日のことが関係してるのでは?」瀬尾は胸騒ぎがした。「体調不良と言ってるでしょう。まだ寒いですからね」「丈二先生。あの手紙、もう一度見せてもらえませんか。私、気になることが……」「瀬
2023年11月15日 23:17
▼前話1)「困ったことになったねぇ」畠山教頭が力なく溜め息をついた。細面の神経質そうな男で、あと数回溜め息をつけば魂が抜けるのではといった様子である。職員室に隣接する小部屋で、小渕沢と畠山教頭は向かい合って座っていた。来客を通したり、ちょっとした打ち合わせを行う多目的な場所だ。(どこで間違えた──?)小渕沢は、拳を握り締めて自問を繰り返す。いじめの証拠を見つけたと思
2023年11月15日 23:42
▼前話1)先週木・金と欠席した笹木 凛音は、週が明けて登校してきた。久しぶりに顔を合わせた三人組は、初めこそ少々ぎこちなかったが、時間を追うごとに打ち解けていく様子が窺えた。三人が揃うのは、先週問題を起こして以来だ。そのための気まずさだったのだろうと、小渕沢は考えた。(これに懲りて、大人しくしておいてもらいたいものだな)眼鏡のズレを調整し、計算プリントの束を手に取る。放
2023年11月15日 23:44
▼前話1)ノックの音が沈黙を破る。畠山教頭が「はい」と応じると、校長室の重いドアが開かれた。「千乃ちゃん」及川が驚いて腰を浮かせる。入り口近くに座っていた瀬尾は千乃に歩み寄った。オリバーが、守るように千乃の背中に手を当てている。「お話、長くなっちゃってごめんね」瀬尾が椅子をすすめると、千乃は泣きそうな顔で首を横に振った。「実咲先生、悪くないよ。”何があったの?”って