ショートショート 水族館

イカのイカした一回転を
もう一回見てみたい俺は、
水族館の水槽をを力強くバンバン叩き、
イカに対して、
「早くもう一回やれよ」
と言っていく。

そしたらイカにも従業員です
みたいな奴がやってきて、
「やめてください」
とイカりの声を上げてきた。

それに対し、
「はぁ?」
なんて思う俺たち一人組は、
「誰に言ってんだ!」
とイカり、
「俺はドナー登録者だぞ!
とやかく言われる筋合いはない!」
なんて言っていき、
持っているドナーカードを振りかざす。

そうすると従業員は、
「何を振りかざしてきてるんですか!
やめてくださいよ!
反則でしょう!
それはもう二度と
振りかざさないでくださいよ!」
と言ってきて、
「あと水槽も二度と
バンバンしないでください!
次、水槽バンバンしているのを見かけたら
警察か行方不明者を呼びますからね!」
とも言い、
「ったく、イライラしちゃうな!
今日もタコいじめだ!」
とかも言って去っていった。

俺と俺は、
「俺のせいでタコが……」
なんて思ったものの、
よく考えれば、
「行方不明者が帰ってくるのか」
とも思い、
じゃあ水槽バンバンしてやろうか
って気持ちになったんだけど、
その時ふとイカを見てみたら、
イカした一回転をしていた。

なので、俺はもう満足だ。
イカしたものを見れて良かったよ。
もうこれで
水槽バンバンしようという気持ちはない。
故に行方不明者が帰ってくることもないだろう。
第一、警察か行方不明者だからな。
警察呼ばれたら何の意味もない。
まぁしかし満足したとは言え、
折角水族館に来たんだから
他の水族たちも見ていくか。

そう思った俺という一人称の僕は、
カサゴらしき魚を見つけたので、
その魚の近くに行ってみる。
行ってみると、
やっぱりその魚はカサゴだった。
なので、テンションの上がった僕は
そこそこ大きい声を出し、
「おいこれ、カサゴじゃねーか!」
なんて言っちゃう訳だ。

そしたらまぁ周囲という周囲が、
「なにコイツ?」
みたいな視線を浴びせてきたので、
僕はその視線に恥じることなく、
それ相応に恥ずかしがってみせた。
まぁ生きていれば誰しも恥ずかしい思いをする日はある。
今日がその日だっただけだ。
切り替えよう。

そうして切り替えた僕と僕の瞳は、
まじまじとカサゴを見つめる。
やはり良いなカサゴは。
雰囲気がある。
世界観がある。
緊張感がある。
そんな思いを抱えてしまえば、
僕と僕のお喋りなお口は近くにいる人に、
「やっぱりカサゴですよね」
とお喋りしていく。

だけども近くにいた人は、
「断然ラッコだと思います!」
と主張し、それを真っ向から否定してきた。

そこで僕改め俺は、
「んだと!」
と突っかかっていくことはせず、
「あ~そうですか」
と素直に引き下がる。
まぁ別に完全否定されたからと言って、
噛みつく気や食いかかる気はない。
ラッコという意見に鼻で笑うといった失礼な態度を取ることもない。

ただ俺は純粋に、
「なるほどね」
と思っただけだ。
人それぞれ好みはある。
しかし残念だけど、
この人とは友達ではなく、
赤の他人のままで終わる関係だな。
でもまぁとりあえず、
「貴重な意見ありがとうございます」
と俺はお礼を言い、
「よろしければこのあと
一緒に見て回りませんか?」
とお誘いした訳だが、
それは丁重にお断りされた。

そして近くにいたその人は、
「しりとり、りんご、ゴリラ、ラッパ、パンツ、積み木、キツネ、ネコ、コアラ、のあとにくるのも断然ラッコだと思います!」
などと主張してきたので、
俺は、
「なるほどね」
と思い、
「確かにゴリラのあとはラッパが幅利かせてる気がするし、それくらいのところでラッコかもな。なんかあそこでラッコって言っちゃいけない雰囲気があるのは感じてた。
ラッパって言わなきゃいけない空気が確かにある。完全に因習だよな」
となんだか考えさせられた。
これからは、しりとり、理科、カサゴ、ゴリラ、ラッパ、の流れを俺は作りたい。

と、そんな野望を抱いた中、
「イルカの読者ショー」
なるものがこれから三十分後に行われるというアナウンスがあった。

なので、
ああじゃあ、
どうせだから見ていくかと思った俺は、
その三十分後の今、
そのショーを見ているのだけど、
見る限り、
イルカ調教師のお姉さんが
本を黙読しているだけだ。
イルカはただただ静観している。

いやこれ何してんだ。
せめて音読しろよ。
本当何してんだ。
そうして、
俺の困惑と苛つきが心の中で駆け巡る中、
一時間をかけ本を読み終わったお姉さんは、
「この本は」
なんてまず口を開き、
呼んだ本について熱く語り出していく。

語り終わったら最後に、
「是非、手に取って読んでみてください」
と締めくくり、
ショーが終わったという訳だけど、
俺と俺の手以外はちゃんと拍手をしていた。

なもんで、なんで、
「いや、え? なんで?」
なんて俺は思った。
まぁ、そう思った俺ではあるものの、
一応帰りに
あの本買ってみようかなとは思うよ。
熱意は伝わったからね。
是非、手に取ってやるよ。
イルカも拍手していたしね。

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