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2022年11月【Wakanaの本キロク】

見つけていただきありがとうございます。
ここでは、私が読んだ本を月毎にまとめて紹介しています。皆さまの本選びの参考になれば幸いです。

こんにちは、Wakanaです。
1週間前くらいに10月のキロクを投稿したばかりなので変な感じがするけれど、11月の分が本来の投稿の時期であって10月の分は遅すぎたんだよ私、と言い聞かせている。
11月の本キロク、楽しんでいただけますように!


今月読んだ本

今月読んだのは全部で9冊。『群像』に載っていたものをまとめると8冊かな。②、③はまとめて紹介します。
①島口大樹『光の痕』(『文學界』12月号より)
②高瀬隼子『お返し』(群像12月号特集「小さな恋」より)
③偏愛ラブレター(上に同じ)
④山本兼一『夢をまことに』
⑤今村夏子『星の子』
⑥吉田篤弘『という、はなし』
⑦夏川草介『本を守ろうとする猫の話』
⑧堀辰雄『風立ちぬ・美しい村』
⑨石沢麻依『貝に続く場所にて』



①島口大樹『光の痕』


『文學界』12月号に掲載されていた。島口大樹さんの作品はこれまで読んだことがなかったけれど、良い機会だ!と思って買った。これ以外の作品をまったく読めていないので少しずつ読みたい。とりあえず。

はじめての島口大樹さん、すごく良かった。
一文が長くて二度三度読み直すものがあったかと思えば、短くテンポが良い部分もあって、なんだか全体的に「波」を感じる文体だったし、そういう話でもあったのかもしれないな、と読み終わって感じる。
全体的には淡々と進んでいく、劇的なところもどこか殺風景に感じられて、この主人公のように「色」が見えにくいなと思った。鮮やかさは無いなと思う。

あとは、主人公の感じている「寂しさ」とか「孤独感」が伝わってくる話だった。生まれつき色が見えなくて、周りと自分の見えている世界が違っていることへの孤独感に、両親を物理的に失ったことの寂しさが上乗せされているような。生きづらさとも言える?のかな。純粋過ぎるからこそのままならなさというか...

多くが好むもの、求めているものが、人によってはその存在が苦しく辛いものになるんだな...と感じた話だった。



『群像』12月号


特集の「小さな恋」に惹かれて、というか、高瀬隼子さんの短編の読みたさに買ったようなもの…②、③の感想をここでまとめます。

②高瀬隼子『お返し』

子どもがバレンタインのチョコレートをもらい、自らのバレンタインのことを回顧していく物語。

「好き」という気持ちの行き着く先が「両想い」になるとは限らないっていうのが刺さった。

自分が好きな人に、自分のことを記憶に留めてもらえるように、何かの拍子に思い出してもらえる対象になれるように、みたいなのってたしかにあったなぁ、と思う。
でもその人に自分のことを思い出してもらえているかどうかは自分は知らないわけで、でももし向こうが自分のことを思い出してくれているとしたら、それは自分にとってはお返しを図らずももらえているってことで。自分はそれには気づかず、また誰かを好きになって嫌いになって、と生きていく。

恋って形がない時点で掴みどころが無くて難しいのに、こんな格言みたいなこと言われたら更に自分の恋を拗らせそう、でもそれにたんまりと時間を使えることに至高を感じるところも否めないので控えめに言ってとても好きなお話だった!

③偏愛ラブレター

6人の作家による「ラブレター」。一味違うのは、その「ラブ」の先がそれぞれ「偏愛」というべきものであること。そんなモノに愛を込めた文章を書けるのか!とびっくりされっぱなし。

なんだかそれぞれの作家さんの好きなモノを好き勝手語っているのを聞いているような感覚だった。面白かった。



④山本兼一『夢をまことに』


文庫本で出てるの知らなかった。図書館で借りたのは単行本

日本初となる反射望遠鏡や筆ペン「懐中筆」、照明器具「玉燈」を作ったのは、江戸時代の鉄砲鍛冶・国友一貫斎だった! 従来の火縄銃づくりにとどまらず、空気銃や弩弓も製造、さらには空を飛ぶ船や潜水艦の建造まで思いを巡らせたという一貫斎はいかなる人物だったのでしょうか? 
物語は村の訴訟に関わったため、一貫斎が近江国友村から江戸にやってきたところから始まります。好奇心旺盛な一貫斎は、江戸で大名をはじめ各藩の鉄砲方や職人たちと交わり、見分を広めます。そして創意工夫の精神に富み「仕事が生きる楽しみ」の一貫斎は、鉄砲鍛冶の矜持を保ちながら、度重なる失敗にもめげず、発明家としての才能も発揮してゆきます。やがて長くなった江戸の滞在を終え、村へ帰った一貫斎は、疲弊した村を救おうと、あらためてものづくりのことを考えるのでした――。
どうすればものづくりを通して「夢をまことに」することができるのか? 仕事とものづくりの喜びを国友一貫斎の生涯を通して描いた、山本兼一最後の傑作長編小説。

文藝春秋BOOKSより

「自分の五感でたしかめなければ、なにごとも本当のことは分からない」
「自分で考え、自分の歩幅で歩くべし」

「負けず嫌いの人柄が、冴えた技を生む」

 「愚かだから真っ直ぐやっているだけです」

国友一貫斎の勉強熱心な姿、どこまでも愚直で諦めない姿に、背筋が伸びる思いで読んだ。良い結果に満足することなく、さらに良いものを追い求めていく向上心が詰まっている。前向きに努力を惜しまない男の奮闘ぶりは読み応えがあった。なかなかのページ数がある小説かつ時代小説だったけれど楽しく読めた!



⑤今村夏子『星の子』


林ちひろは中学3年生。
病弱だった娘を救いたい一心で、両親は「あやしい宗教」にのめり込み、その信仰が家族の形を歪めていく。
野間文芸新人賞を受賞し本屋大賞にもノミネートされた、芥川賞作家のもうひとつの代表作。

Amazonより

大学から家に帰るまでで怒涛の一気読み。

とある宗教を信じ込んで信仰していく家族と、その娘を描く話。あまりにも今、この時期?がタイムリーで、逆に今読まなきゃ一生読まないだろうなと。

この本を読んで、救われたり報われたりする人がどれくらいいるんだろう。というか、そもそもこの本はそういうことを目的に書かれたわけでは無いのかもしれない、と思う。

特定の宗教を信じる両親のもとで生きる娘を中心に、色んな意見を持つ人々が周りで様子をうかがいながら動いているイメージ。

「怪しく無いよ」「大丈夫だよ」、「やめた方が良いよ」「変だよ」
周りからは色んな言葉を言われて、それでも娘は家族が大好きで、普通の女の子なのだ。

文章が一貫してひっそりとした怖さを持っていて、ラストの描写に私は結構ぞっとした。



⑥吉田篤弘『という、はなし』


私たちは、いろいろなところで本を開く。電車で、ベッドで、公園のベンチで、縁側で、喫茶店で、お風呂で…。なぜそこで本を読んでいるのか、何を読んでいるのか、何を感じているのか。そこには、ひとつひとつ異なる物語がある。そしてもちろん、開いた本の中にもまた別の物語があるだろう。フジモトマサルが描いた読書の風景から吉田篤弘が紡いだ物語が24。星空を眺めるごとく味わえる物語集。

Amazonより

フジモトマサルさんの挿絵から、吉田篤弘さんがお話を膨らませたものが24も!すごくライトに読めるけれど、どれも少し考えさせられるものが多くて密度が高い。

人間のように動くことのないものたちに命を吹き込み、私たちが想像もしていなかったような展開にまでお話を持っていっているのがすごい。最後はその絵の種明かし的な終わり方になっていて、小さな謎解きというか絵解きをしている気分。
「何ひとつ変わらない空」というお話が特に好き。アンテナが喋る(?)お話で、今の時代をこんな風に表現できるのか...!とびっくりした。

図書館で借りたのだけど、これは自分の手元に置いておきたい!と思った。



⑦夏川草介『本を守ろうとする猫の話』


夏木林太郎は、一介の高校生である。幼い頃に両親が離婚し、さらには母が若くして他界したため、小学校に上がる頃には祖父の家に引き取られた。以後はずっと祖父との二人暮らしだ。祖父は町の片隅で「夏木書店」という小さな古書店を営んでいる。その祖父が突然亡くなった。面識のなかった叔母に引き取られることになり本の整理をしていた林太郎は、書棚の奥で人間の言葉を話すトラネコと出会う。トラネコは、本を守るために林太郎の力を借りたいのだという。

Amazonより

「本にはたくさんの人の思いが描かれています。苦しんでいる人、悲しんでいる人、喜んでいる人、笑っている人・・・・・・。そういう人たちの物語や言葉に触れ、一緒になって感じることで、僕たちは自分以外の人の心を知ることができるんです。身近な人だけじゃなくて、全然違う世界を生きている人の心さえ、本を通して僕らは感じることができるようになるんです」

「”人を思う心”、それを教えてくれる力が、本の力だと思うんです。その力が、たくさんの人を勇気づけて支えてくれるんです」

本が私に伝えてくれること、教えてくれること。
ちょっとライトノベルっぽくもあり、青春小説のような文章の語り口なのに、内容は今もある本に関する問題、課題に切り込んで書かれている。色んな楽しみ方ができる1冊だと思った。

本が好きな私にとって、主人公の「本が好きな気持ち」故に伝える言葉たちは本当にその通りだなと思ったし、本を愛する気持ちが更に増した。

もっと色んな本を読みたい。本を通して考えられることがたくさんあるし、出会えることがある。
私はこれからも本を両手いっぱいに抱えて生きていくんだ、生きていきたいんだと強く思わせてくれた小説だった。



⑧堀辰雄『風立ちぬ・美しい村』


風のように去ってゆく時の流れの裡に、人間の実体を捉えた「風立ちぬ」は、生きることよりは死ぬことの意味を問い、同時に死を越えて生きることの意味をも問うている。バッハの遁走曲(フーガ)に思いついたという「美しい村」は、軽井沢でひとり暮しをしながら物語を構想中の若い小説家の見聞と、彼が出会った少女の面影を、音楽的に構成した傑作。
ともに、堀辰雄の中期を代表する作品である。

Amazonより

『風立ちぬ』だけ先に読んだのでそれの感想を。

授業で『風立ちぬ』の映画を観る機会があったので読んだ本。原作は『菜穂子』もあるからまだ読めていないけれど...

結核を患った妻の看病から、彼女を看取ったその後を生きる男の物語。主人公の男の心の内に秘めた思いがつらつらと日記のように書かれていて、悲しさと、その悲しさを覆うような強がりが共存しているような印象を受けた。

はじめは妻と男の心が通っているように見えるし、通わせようとしているのが分かるのに、妻が死に近付くにつれてだんだんと妻の心が遠くへ離れていくような感じがして。それに主人公は静かに、でも確実に焦っているのがどことなく感じられた。

全体を通して文章がすごく静謐で、厳か。心ががさついているときにまた読み返したいと思った。あとは『美しい村』をまだ読めていないので12月のうちに読む!



⑨石沢麻依『貝に続く場所にて』


第165回芥川賞受賞!第64回群像新人文学賞受賞のデビュー作。
コロナ禍が影を落とす異国の街に、9年前の光景が重なり合う。ドイツの学術都市に暮らす私の元に、震災で行方不明になったはずの友人が現れる。人と場所の記憶に向かい合い、静謐な祈りを込めて描く鎮魂の物語。

Amazonより

どこの文章を取ってきても美しさが桁違いで、同じ日本語なのにこうも洗練された描写ができるのか...と感嘆しっぱなし。純文学的で幻想文学っぽくもあって、少しディストピアらしさもあり。比喩や表現が高尚というか、誰も真似のできないようなものばかり。一見すると関係のないようなふたつの物を巧みに繋げている印象。

ドイツと日本の「地震」という現象に対する見方の違い。
ドイツ語では「地震」と「苺」のスペル・発音がほぼ同じで間違えやすいらしく、それを面白がるドイツ人と、それに対して複雑な気持ちになる「私」。

惑星の小径に関連したところ。
距離の遠さを、昔の記憶を思い出すことと関連づけているのかなと思った。

それが起こった場所からの距離が遠ければ遠いほど、実感を伴った記憶にはほど遠くなるし、同時に、その場所から限りなく近かった人の気持ちも慮るには限界がある。私が記憶するその場所は、他の人が記憶するその場所とは異なる様相になる。

「過去は誰かの顔や姿を借りるものよ。それがぼやけているのなら、顔が見えるまで思い出すことに時間をかけなくてはならない。」

全体的に文章の美しさに圧倒されすぎて話の内容がきちんと理解できなかったところがあるから、たぶんもう一回読む。



キロク後記

もう2022年が終わってしまう。こわい。時の流れが早すぎる。
なんだかんだこの投稿も毎月続けることができていてうれしい限り。もっと序盤で挫折するかと思っていたけれど、意外とできてる。

12月は、いつもの読んだ本の投稿にプラスで「2022年私的ベスト本」を10冊くらいでまとめてみたいな~(と思っているだけなので本当にやるかは未定。どうしようかな)。


お読みいただきありがとうございました!☀







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