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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の十四

※其の十三からの続きです。気軽にお付き合い下さい。



 翌日。いよいよ今度は女子団体戦だ。藤咲ふじさきは1年生ながら、2年生の先輩を実力で退けて先鋒で先発出場する。

「頼むよ! 藤咲! 2年生全員の想いもぶつけてくれ!」
「今年の1年生は5人ともレベル高いから」
「本当本当~。まぁ、しょうがなし。頑張ってくれ!」

2年生の実力者、青木あおき先輩と渡部わたなべ先輩は補欠に回り、今里いまざと先輩はレギュラーから外れた。

「ありがとうございます! 先輩たちの気持ちも背負って挑んできます!」

力強く藤咲が宣言する。私たち1年生とは軋轢?あるような関係も、藤咲は中学時代に剣道で思い悩み、その時に大徳だいとく先生や琴音ことね先生に総武学園そうぶがくえんへと誘われ入学を決めたらしい。藤咲ほどの実力ある者が総武学園ここにいるのも珍しく、他の強豪高校は引き抜きに失敗してガッカリだったようだ。

(私たちとはともかく、藤咲こいつの剣道に対しての姿勢は尊敬に値するしな)

実際、私も子供の頃から何度も対戦してきた相手。少しは藤咲のこともわかっているつもりだ。その藤咲がギンとした眼で私を睨む。

「……なんかないのか、雪代ゆきしろ!」

間を詰めて藤咲が迫ってくる。

「あ、あぁ……。頑張って、な」

それしか言えない。

「ほらっ! 残りの1年生!」
「あんたたちの同級生のデビューでしょ!」
「こんな時には険悪な雰囲気作らないの!」

残りの2年生の半田はんだ先輩、村松むらまつ先輩、西尾にしお先輩も他の1年生に一言促す。

「頑張って、藤咲」
「お、応援、しているよ!」
「……3年生の足、引っ張んなよ」

日野ひのひかり八神やがみも短く伝える。

「もう時間だ! 行くぞ!」

3年生の高橋たかはし先輩を先頭にレギュラー陣は会場へと入っていく。私たちは2年生の先輩方と応援席へ移り、上の階から見守る。

(さて、どうなるか……)

女子は2回戦まで勝てばベスト16入り。今日はもちろん、それ以上を狙っていくつもりだ。

「おう。どうだった? 3年の先輩方や藤咲あいつの様子は」

先に席の陣取りをしてくれていた2年生男子の宮崎先輩と徳本先輩。私は宗介そうすけの隣へと座る。

「……別に。いつも通りすんごい眼で睨んできただけですよ」

適当に話を流して試合会場を眺める。先週の個人戦、昨日の男子団体戦を見て、私も少しずつ試合の感覚を戻しつつある。

(団体戦は個人戦と違ってチーム戦だからな。まぁ、それでも強い高校はいくつか頭に叩き込んつもりだが)

今は中堅レベルとは言え、総武学園女子うちはもともと伝統ある古豪高校。そうそう負けることはない。事実、1回戦は5勝0敗で、2回戦も同じく5勝0敗と(相手高校の名前は忘れた)危なげなく勝利。藤咲の高校デビュー戦も上々だ。

「うわぁー! やっぱり総武学園女子うちの先輩たちは強いね! 藤咲さんも、とてもデビュー戦とは思えない」

光が素直な感想を言うと。

「……ッチ! 悔しいが月島つきしまの言う通りだ。藤咲あいつはやっぱ1年でも頭一つ抜けてやがる」

悔しそうに八神も言う。

「でも、蓮夏れんかだって藤咲いなければ、たぶん今日は先鋒だよ? 周りが言うほど実力差、あるかなぁ?」

日野がそう言うと八神も少し嬉しそうにする。

「たしかに……。ベスト16までは総武学園女子うちは問題ないね……」

相手高校との実力差から見て私も安心して見ていたら、ふと疑問と違和感がつかえる。

(……んっ??)

ふと顔を動かすと

「「「あっ!!!」」」

日野と八神と光も同じように感じたらしく4人で目が合い、1年生わたしたちは自然と会話していた。全員、サッと目を離すが、光だけは嬉しそうにしていた。

「うわぁ~~。今里~、次の相手ー、ヤバいよ~」

村松先輩が会場の電光掲示板を指さす。ベスト16まで勝ち進むとわかりやすく表示される。

「あちゃ。調子の良い今日に限って、ベスト16ここで当たっちゃうんだよな」

全員で電光掲示板を見る。相手は武蔵女子学院むさしじょしがくいん高校。先週の個人戦で菅野かんの先輩が敗れた高校。

「たしか団体、個人、共に12年連続インターハイ出場、でしたっけ?」

八神が今里先輩に尋ねる。

「そう。……ちなみに去年のインターハイチャンピオン」

1年生全員でギョッとする。

「えっ!? 連続出場だけでなく、インターハイのチャンピオンなんですか? 日本一の高校なんですか? 武蔵女子学院って」

光が裏返った声を上げる。

「そんなに、強い、の?」

日野も驚きを隠せない。

「なんだよー、1年は実力者揃いだから、てっきりこれぐらいは知っているかと思ったよ。雪代も知らないの?」

少し呆れたように今里先輩に言われる。

「……し、知りませんでした。都大会チャンピオンの常連ぐらいには知っていましたが」

剣道辞めたくてしょうがなかった私が、高校の実力事情など知りもしない。

「で、でも! 今日の四天王の先輩方や藤咲あいつもいれば、少しは良い勝負! いや、勝てるかもしれませんよ!」

八神が2年生の先輩方に言うが、先輩たちの表情は沈んでいる。

(……そんなに? 先週、個人戦見てたけど。まぁ、菅野先輩の1試合だけだったが)

試合コートに並んで礼を済ませた総武学園女子うちの高校は、ベスト8をかけて昨年のインターハイチャンピオン、日本一強い武蔵女子学院に挑む。


                 続く

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