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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の十五

※其の十四からの続きです。気軽にお付き合い下さい。



 先鋒戦が始まった。1回戦、2回戦と全く危なげなく勝ち進んできた総武学園女子うちの高校だったが、相手の強さは予想を遥かに超えていた。

「メェーーーン!!!」

試合開始直後に1本取られてペースを崩された藤咲ふじさきが、なにも出来ず2本目も簡単に取られて敗戦。武蔵女子学院むさしじょしがくいん高校の大応援団の拍手と攻めた際の「オォォーー!!!」という歓声が後押しして審判をも味方につける。

「あ、あっ~……」

ひかりが声を呑み込み、あまりにも次元の違う強さにつられて試合を見入ってしまう。私たちも拍手と歓声を送り、後押ししたいが防戦一方の展開は応援をも封じ込める。

「コテーーー!!!!!」

次鋒の菅野かんの先輩のひと際際立つ気合の声だけが響き、しかし、それはほとんど相手にダメージのない空打ち。菅野先輩も2本取られて先週の個人戦の雪辱を晴らせず、結局は返り討ち。後がなくなった中堅の西澤にしざわ先輩も綺麗な胴を簡単に抜かれて1本を取られる。

(これは、だめだ……)

力差がありすぎて応援をも忘れてしまった私たちはただただ、無残にやられる先輩たちを見ているだけ。西澤先輩が2本目を取られて、ここでチームはジエンド。2年生の先輩方はため息と、ガックシ肩を落とす。チームは負けても残りの副将、宮本みやもと先輩が得意の軟派な技で相手の様子を伺いながら試合を進める。だが、試合展開に慣れると相手は仕掛け技を変えてきて、その展開についていけなくなった宮本先輩も攻め手を欠く。結局、2本取られて敗戦。

(どうやっても、総武学園女子うちが勝てる気しない……)

大将の高橋たかはし先輩に一矢報いてもらいたいと願うが、インターハイチャンピオンの大将となれば一番信頼があり強い選手が出てくる。それでも高橋先輩だけは食い下がり、唯一2本負けを食い止めた。強烈な突き技を食らえば相手側の応援団も盛り上がり、完膚なきまで叩きのめされた総武学園女子うちのレギュラー陣も肩を落とした。

(これは、この高校に勝つのはまず無理だな……)

終わった後の感想だ。周りを見渡すと、応援していた仲間たちも意気消沈。あまりにも見せつけられた試合展開に全員言葉も出なかった。

「……凄いね」

私は光に言う。

「……うん」

一言だけ返ってきた。

「……こんなに差があんのか。総武学園女子うちと……」

八神やがみが言うと、日野ひのも今度ばかりはフォローしなかった。

「でも……」

光がなお、何かを言いたそうで顔を向ける。

「中学の時の雪代ゆきしろさん……。もっと強かったかも……」

小さな声で言われて、私は固まる。

「あ! ううん、なんでもないよ! 気にしないで!」

光がいつもの笑顔に戻る。その後、琴音ことね先生とミーティングをしていた四天王せんぱいたちは、みんな泣いていた。あの試合展開後だけに、レギュラーで出場していた人たちに今はどのように声をかければ良いかわからない。遠目にミーティングを眺めていた私たちは一旦、応援席へと戻る。「オォォーー!!!」と会場が湧く。気づけば決勝戦が始まっていた。

(……相手は、東第一あずまだいいいち高校か)

東第一高校も強いが、試合展開は武蔵女子学院が優勢に進める。副将戦が終わった時点で3勝0敗。これで勝負あり。最後の大将戦が始まろうとしていた時にドカッと着替えを終えた藤咲が隣に座ってきた。

「……藤咲」

思わず名前を呼びかける。

「……笑いたければ笑え」

藤咲こいつも泣いていたんだろう。目が真っ赤に晴れている。

「笑わないよ。よく、戦った、と思う……」

これしか言えなかった。こんな表情をした藤咲は見たことない。会場が再び湧く。結局、大将戦も武蔵女子学院が勝利して、4勝0敗で都大会優勝。前年に続き、これで団体戦13年連続インターハイ出場が決まった。武蔵女子学院のスコアを収集し回っていた半田はんだ先輩と村松むらまつ先輩にノートを見せてもらった。

「……先輩。これ、今大会、武蔵女子学院の選手は先鋒から大将まで誰1人負けてないじゃないですか……」

スコアが正しいとすれば、1回戦から決勝戦まで、悪くて『引き分け』か『1本勝ち』。5人の選手がいて、誰1人敗戦者はいない。半田先輩たちも渋い声を出す。

(どんだけ強いんだ、この高校は。おかしいだろ。誰も負けない団体戦なんて……)

総武学園女子うちがベスト8に勝ち進むという目標や話はどこへやら。結局いつもどおりに都大会は武蔵女子学院の話で持ち上がり、1日を終えるのだと言う。

「……おい。雪代ゆきしろ。明日から私の特訓に付き合え」

急に突拍子もないことを藤咲が言い出したので、私は面食らうと。

「……プッ。なんだその顔。私の面あり1本だな」

藤咲が笑う。そのやり取りを見ていた光が。

「あっ! わ、私もその特訓、混ぜてもらって、良い、かな?」

ジトッとした目で藤咲が光を見るが。

「……好きにしろ。月島おまえのことだ。ダメと言っても雪代についてくるに決まっている」

光が満面の笑みで私を見る。

「おい! あたしは眼中になしか?」

今度は八神が絡む。

「好きにしろと言っている。雪代の次に力があるのは八神おまえだしな」

八神が鼻を鳴らすと。

「ふ~ん、負けて学ぼうとする姿勢。やっぱり、超一流なんだね、藤咲は」

ヒョイと藤咲の顔を日野が覗き込む。

「わたし、蓮夏れんかと試合すると、結構勝つこと、多いよ!」

明らかにワザとらしく日野が藤咲の顔に自分の顔を近づける。

日野おまえが一番よくわからん。……というかなんだ! お前らいつの間に4人で話し合っていたかのように」

別にそんなことはないのだが、試合後の藤咲の表情を見て全員が共感したのか5人で顔を合わせる。それを少し遠目で2年生の先輩たちが見て笑っていたのは、私だけが知っていることだ。


                 続く

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