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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の十七

其の十六からの続きです。気軽にお付き合いください。



 1学期の期末試験が終われば、いよいよ夏休みだ。初めて迎える高校生の夏休みは楽しみであるものの、剣道部に所属している私には練習、合宿、試合のトライアングルローテーションが組まれており、この夏もほとんど剣道漬けで終わりそうなのが目に見えている。そんな中、最近校内で良くない噂を聞く。

「ねぇ、ひかり雪代ゆきしろさんたちも聞いた?」
「喧嘩だよ! 喧嘩!」
「ヤンキーだって! それも今は令和の時代なのに、昭和時代のようなヤンキーの喧嘩!」

お昼ご飯を教室で食べていた私と光の元に、クラスメイトが話しかけてきた。まぁ、喧嘩なら剣道部でも毎日のようにしているが。

「あ~、うん。私もチラッと聞いたけど。でも、目に見えないところでやっているらしいから、先生方も詳細が掴みづらいって言ってたね」

光がクラスメイトと話しつつ、私も聞き入る。どこのどいつだ。進学校でもある総武学園そうぶがくえん高校でそんなことをするやつは。呆れつつもそんな話を聞いてから数日後。

「雪代さん、今日は天気も良いしお昼ご飯は屋上で食べようよ!」

光に誘われて屋上のバルコニー席で昼食を食べることにした。

(中学の時はボッチ飯だったのに、友達がいるってありがたいな)

そんなことを考えながら屋上のバルコニーの席へと着席する。

「おかしいね。いつもは屋上席は人気で人がいっぱいいるのに、今日は私たち以外は誰もいない」

光が周りを見渡す。

「まぁ、そういう日もあって良いじゃん。食べようよ」

私は特に気にすることもなく、持ってきたお弁当を開ける。すると。

「てめェー! いいかげんにしろよ!!」
「舐めてんのか!」
「ざけんなよ!!!」

甲高い声が突然響いてきたので、ビックリして何事かと視線をずらして横を見る。

「……ッチ。毎回毎回絡んできやがって」

私と光はその場で固まりながら見ていると、1人が胸ぐらを掴まれて端まで追いやられ、ガシャンと大きな音を立てる。

「おい! 私の彼氏に、な~に色目使ってんだよ。あぁ?」

女同士の喧嘩か。今の時代に珍しい。先日クラスメイトが言っていた例の件か。

「誰もお前の彼氏になんか興味ねぇ。……いちいち絡んでくんな!」

掴まれた胸ぐらをねじるように後ろに回し、1人を突き飛ばす。

「イテテッ……。コノヤロー」

胸元を直して真っ向と対峙する。顔が整っていて凛とした姿。

(こいつ、1年か)

直感的にそう思った。すると物陰からもう1人出てきた。

「おいおい~。私の彼氏にこの間もちょっかいだしてきたくせに~、もう~他の男を選りすぐりかー? お前の神経どうなってんだぁー? あん?」

4対1。事情はわからないにせよ、状況も雰囲気も最悪だ。出ていくにしても出入口を塞がれてしまい、その場で見ているしかない。

「……相馬そうま。またお前の仕業か」

やられていた奴が凄い形相で睨む。

「お前の男好きも呆れるよな~。一体何人とヤッてんだよ? これだからビッチはタチが悪い。なぁ、四日市よつかいちさんよ!」

並々ならぬ雰囲気でにらみ合う。

「……ゆ、雪代さん。本物の喧嘩だよ。私、怖いんだけど……」

ヒソヒソ声で光が耳打ちしてくる。もうお弁当を食べている所ではない。

「相馬! もうやっちゃっていいだろ! こいつ、うぜんだよ!」
「毎回毎回気に入らねぇ目しやがってよ!!」
「さっき捩じられた腕の代償、覚悟しろよ!」

取り巻き3人が一斉に騒ぎ出す。

(あいつ。相馬って奴がこの中のリーダーだな)

その相馬が下卑た笑いでつぶやく。

「好きにしろ。ただし、最後だけ私にやらせろ。あと、ここは総武学園内だ。ほどほどにしないと、一発退学になるからな」

その一言で一斉に3人が詰めて飛び掛かる。しかし、スカートのポケットから細長いペンケース?のような物を取り出した四日市と呼ばれる女が距離を見切って、1人1人叩いていく。

「く、くそっ」
「痛って……」
「ごほごほっ……」

眉間、目、喉、小手。人間の急所と呼ばれるところを的確に叩いていく。動きにも無駄がなく、ただ掴みかかろうとするだけでは捕らえられない。

(……こいつ)

そして、私が悟った時には既に遅し。距離を取りつつ、徐々に後退してきて、私や光の方に取り巻き3人を引き込む。私や光が囲まれるのを見るや否や、後は出入口に向かって猛ダッシュ。

(やられた!!!)

その場を完全に見ていた私と光に後は押し付け、当の本人は逃げ出した。妙な空気感だけがその場に残る。

「……なーに見てんだよ! おい!!」

喧嘩中はアドレナリンが全開に出る。まして、やられっぱなしでいた連中は面白くない。標的が私や光へと向けられる。掴まれそうになった私が咄嗟に箸入れケースで小手を叩く。

「痛って! こいつも似たようなことしやがって」

一瞬、その場の雰囲気が固まる。私は光を連れて出入口へとダッシュした。相馬と呼ばれる奴とすれ違った際に目が合う。

(……なんだ)

鋭い眼光に何かを感じつつ、とにかく今は光と一緒に逃げるのが精いっぱいだった。


                 続く

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