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その日は風が強い日だった

その日は風が強い日だった

何もかもが吹き飛ばされていく

そんな日だった

看板や新聞紙にビニール袋

傘に空き缶に買い物籠

シャツにズボンにタライにトタン屋根

気が狂った風に抗えるものなんて

この世には何もないのだと

思わせるそんな日だった

いっそのこと僕自身も一緒に吹き飛ばして

くれないものかなと思えてしまうくらいだ

風に乗ってどこにいこうかと

悩んでも風は気ままに

荒れ狂うばかりで

こちらの思いなんて

微塵もくんじゃくれない

雲の上の死者の都までと頼んだところで

ブラジルはサンパウロで

路地裏でたむろする野良犬の

足元に放られるのがオチなんだ

なんだったら

どこに行きたいかなんて

思わずに気ままに

流れるままに

風に乗って楽しめる

余裕だけを持ち合わせて

その境遇を楽しんでしまえば

世はこともなく素晴らしい

気持ちを得られるかもしれない

風は気が狂った様に吹き荒んでいる

赤点を取った我が子をしかる

ヒステリックな親の様な調子で  

びょーびょーとがなりたてていく

あぁ空を見上げれば舞い踊る

ビニール袋の乙姫たち

シャツが絡まり迷惑そうな顔をした電信柱

熱烈なる新聞紙の愛に圧倒された尻餅をつく男

次に吹き飛ばされるのはそろそろ僕の番かな

受け入れる準備はできている

耳元では風がゴウゴウ唸ってる

僕は両手を広げて

風を全身で受けとめる姿勢をとった

そうして身体がふわりと浮き上がるのが

僕には分かったんだ

どこへ連れて行ってくれるのだろう

風は何も言わない

気の向くまま

流れるままに

行く末は風のみが知っている

そういう訳で

僕はあるがままを受け入れて

風と共に旅に出たと言う

そういう訳なんだ

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