STORY for SONGS

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ノート

去りゆく日々に(小説)

女の柔らかく白いふくふくとした手が自分の頬を打ち付ける音を聞きながら酒井田がまず気にしたのは、女の涙でもなく女にたたかれる己の世間体でもなく、女がこの飲食代を払うだろうか、ということだった。パチンとし響いた音も、まるで三文芝居の一場面のようだったが酒井田は何も感じない。ただ、己の懐は寒いので、どうにもここの飲食代ばかりが気になるのであった。酒井田の逡巡を読み取ってか、女はますます涙をその瞳に盛り上

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君のいない黄昏(小説)

「別れましょう」

紅茶のように綺麗な茶色をしているね。そう言葉をかけようとする前に瞳がまるで水面のようにふるふると震え、にじみ、綺麗な涙がこぼれた。ティーカップに入った紅茶の水面も、ふるふると震えていた。綺麗だな、と素直に思うと同時に、言葉の意味がやっと胃の腑に落ちてきたようだった。

「別れる? 君と僕が?」
「他に付き合ってるカップルがいても、私興味ないわ」
「そりゃそうだね」
「別れましょ

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