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読書メモ:ポピュリズム 世界を覆い尽くす「魔物」の正体

基本情報

『ポピュリズム 世界を覆い尽くす「魔物」の正体』
薬師院 仁志
2017年3月20日発行

批判的な使われる「ポピュリズム」という言葉に関して、どういう意味なのか?また、正しく理解できていないと思い、手に取った一冊。
今年は世界的な選挙イヤーと言われており、すでに台湾、ロシアでそれぞれ選挙が行われた。特に11月に予定されるアメリカ大統領選では、「もしトラ」という言葉が使われるようにトランプ前大統領が大統領選に出るのか、出たら選ばれるのか世界的に注目されている。
本書は、2016年に書かれており、当時トランプが当選した時の書かれている。「ポピュリズム」に関して、ミル等の過去の政治思想から「民主主義」に関して、定義を行い、21世紀におけるポピュリズムに関して、解説している。

構成

序章  ポピュリズムの危うさを実感するために
第1章 民主主義とポピュリズムの不可分な関係
第2章 現代型ポピュリズムとはどういうものか
第3章 民主政治を不安定化するもの
第4章 右派、左派?それとも極右?
第5章 二一世紀の民主主義
終章  ポピュリズムの危うさを確認するために

感想

 大学時代に「政治学」を専攻をしていて、当時「民主主義」に関して、講義で聞いており、「民主主義は熟議」であるということだけは記憶の片隅に
残っていたが、本書を通して改めて民主主義に関して考えさせられた。
 歴史的に民主制を振り返ると当初の原理は、「全員による統治」であった。但し、それは、コミュニティの単位が小さく全員が参加できることが前提であったため、時とともに現在のような選挙で選ばれた代表による「間接民主主義」が出てきた。この時点で、全員ではなく選ばれた代表、つまり一部のエリートによる統治を間接民主主義は前提としている。

 そして、ポピュリズムである。ポピュリズムの定義は、非常に曖昧であるが、「敵(現実には存在しなくてもよい)を設けて、不安を煽り分断を持ち込むことで大衆を煽動する」ものと言ったところであろうか?例えば、前回のアメリカ大統領選挙でいえばトランプが、メキシコからの移民やワシントンのエリートを批判することで票を伸ばしたということである。そして、まさにこのような手法を取るトランプこそまさにポピュリストなのである。
 
 ポピュリストに関して、もっとも注意しなければならないのは、第二次世界大戦を引き起こしたナチスのヒトラーもトランプも、元々は民主主義の下で行われた「選挙」によってその地位・権限を得ている点である。特にヒトラーは、最初から独裁体制だったわけではなく、用意周到にデマで大衆を欺き、ユダヤ人を利用して不安を煽り選挙で勝利してその地位に就いたのである。
 
 本来の民主主義は、「全員による統治」であることを考えれば、悪戯に不安や対立を煽り、多数決で物事を決めていくのは民主主義の破壊そのものである。(議論を尽くしてもどうしても妥協点が見つからない最後の手段として、多数決を行うというのは解決策の一つでしかない)

 本書では、2016年に執筆されていることもあり、日本国内の例は、「橋下徹」であげられることがほとんどである。橋本徹の政治手法に関しても、確かに対立を煽り(市役所は税金を食うシロアリ、目的のよくわからない大阪都構想)、徹底的に敵をつぶす方法であった。(橋本徹本人は、現実の政治はそんなに甘いものじゃないと言いそうだが)
 橋下徹・維新の会に限らず、日本国内もテレビを利用し、不安や対立を煽り、煽動する動きは、ここ20年ぐらいずっと続いているように思う。選挙の時に考えることももちろん重要だが、民主主義の一員として普段から政治・行政に興味を持ち、人に任せっきりにするのではなく自分で考えられる行動できるようにする必要があると思える一冊だった。


 


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