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雪国の西村晃─『越前竹人形』【勝手に西村晃映画祭⑦】

北海道は札幌生まれの西村晃、ご本人が雪国生まれだから……というわけではない。たまたま雪国が舞台の西村晃出演作品のうち好きな作品や思ったことを書きたい作品がいくつかあるので、一気に紹介しようとしていた。でも、今の集中力を欠いたわたしの頭では、どうもとっ散らかってしまった内容になってしまう。リサーチ不足で納得できないものもあったので、いっそ1作品ずつに分けてしまうことにした。
紹介するのは主に北陸〜東北が舞台の作品だ。こう書くと「あの作品もくる?」なんて、ピンとくる方もいらっしゃるかもしれない。
まあ焦らずに読んで、そして気長にお待ちいただけると大変幸いです。


西村晃は西村晃でありながら物語のパーツとして十二分に機能するすぐれた役者さんで、だから主役も脇役もいける。それって、全体のムードや物語の構造、シーンの意味を理解している(つまりホンが読める)ということだな…と、出演作品を追っているうちにわかってきた。

その仕事ぶりをはっきりと感じられたのは、最近観たなかでいうと五社英雄監督作品の『御用金』。序盤で登場する西村晃は「こいつ、なんか只者じゃないっぽい…!」と思わせる面構えで芸人たちを挑発し、孫五郎(仲代達矢)をおびき出す。出演シーンはわずかだけど、西村晃の個性が物語を邪魔することはない。むしろ、捨象されてなお残る個性が物語を盛り立てる。
この「勝手に西村晃映画祭」シリーズの第1回で取り上げた『幕末太陽傳』でだって、西村晃は序盤に少ししか登場しないけれども、フランキー堺のキャラクターを際立てる重要な役割を担っていた。慎ましくも確かにそこで役割を果たすひとがいなければ、作品は色彩を欠いてしまう。

さて『越前竹人形』は、父のなじみの芸妓(若尾文子)の境遇に同情して彼女を身請けした純朴な青年喜助(山下洵一郎)の奇妙な愛情と夫婦関係をめぐる物語だ。
お人形のようにかわいい若尾文子と闊達なかわいさが光る中村玉緒、そして宮川一夫キャメラマンの撮影と西岡善信の美術、池野成(映画コムの表記は誤り)の音楽など見どころが多い。わたしなどは福井の親しみのある地域が舞台であることにもおお!となって何度か観たけれど、毎回「やっぱ暗いな…」って思ってる気がする。

https://moviewalker.jp/mv21017/gallery/

西村晃は、喜助の留守中に昔馴染みの玉枝と会い彼女を襲う番頭・崎山役を演じている。山奥でひっそりと保たれていた二人のバランスが彼の登場で崩れてしまうのだからかなり重要な役割だ。しかし、崎山というキャラクター自体は重要ではなく物語の一パーツとして機能すればよいので、本作での西村晃は俗っぽくしかし脅威にもなり得る小人物の役に徹している。

https://moviewalker.jp/mv21017/gallery/5/


向き合い方の違いこそあれ、玉枝という人間を見ていない2人の男。彼らに起因する玉枝の苦悩がクライマックスを迎えた直後、流れた子供を人知れず川に棄てたと伝える本作の中村鴈治郎の存在が救いのように思える。川の神(あるいは三途の川の船頭)と言われても納得してしまいそうな、人ならざるもの感さえ漂わせている鴈治郎。ただ、この安心感は鴈治郎の役者としての底力だけがもたらすものではない。
本作で登場する男たちは、みな玉枝の味方にはならなかった。しかし鴈治郎演じる船頭は、見ず知らずの玉枝の窮地を救う。損得勘定なし、ゆきずりの親切が物語に登場して初めて、玉枝の人生に欠けていたものがはっきり示されるのだ。

なお、この脚本を書いた笠原良三は成瀬巳喜男の『秋立ちぬ』や須川栄三の『君も出世ができる』も手がけているひとで、かなり良いホンも書いている。わたしもこれからもうちょっと観てみるつもり。

今日はこのあたりで。
それではまた、ごきげんよう!

https://moviewalker.jp/mv21017/gallery/3/

『越前竹人形』(1963)
原作:水上勉
監督:吉村公三郎
製作:永田雅一
脚本:笠原良三
撮影:宮川一夫
音楽:池野成
美術:西岡善信
出演:若尾文子、山下洵一郎、中村玉緒、二代目中村鴈治郎、殿山泰司、浜村純、西村晃、寺島雄作
アスペクト比:アメリカン・ヴィスタ(1.85:1)
上映尺:102分

おまけ:能登の大地震について。
被害がとても大きかった石川県や新潟県に比べればニュースで取り扱われてないけど、福井でもやはり被害を受けた地域もあるとのこと。福井って過去に何度も大きな地震が起きた土地でもあるので、結構気にかかってます。

とりあえず現実的な支援には繋がるかなと思い、福井の物産館のサイトを紹介してみる。
可能なひとは福井へ遊びに行ってみてね。食べ物が美味しくていいところだよ。

最後に、被害に遭ったすべての方々にお見舞い申し上げます。どうぞ心と体をいたわってください。
あたたかい春をいち早く迎えられますように。

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