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「地に足をつけて」

哲朗は、今年の2月で45歳になる。
未だに、アルバイトで生計を立てていた。
物心ついた頃から、親に言われ続けている言葉がある。

〝地に足をつけなさい〟

どう言うことなのだろうかと、哲朗は、ずっと考えていた。
アルバイトの休憩中や、休みの日になると、ふと頭の中に浮かんでくる。
何を言いたいのか、何を伝えようとしていたのか、どうなって欲しかったのか、
親が他界した今となっては、想像すら出来なくなっていた。
哲朗なりに解釈すると、地=地面だから常に足はついているはず。
あとは、つける=立つor歩くことなのだろうか。
しっかりと歩くことなのだろうかと、思い思いの解釈をしていた。
アルバイトが忙しい時は、集中しているので考える余裕はないのだが、
ふと気を抜くと他のことを想像するより、優先的に頭の中に入ってくる。
不思議なことに、親に言われ続けたシチュエーションまでもが、
哲朗に押し迫ってくるように、脳裏によみがえってくる。
言われたあの時のこと、一つだけ哲朗には思い当たる節があった。

あれは、大学を卒業して就職活動をしていた23歳の頃だった。
就職活動が一向に上手くいかずに、フリーターになる決意をした。
筆記試験や適性検査を受ける度に、不合格の通知を受け取っていた。
その哲朗の姿を見て、親は、勢い余って哲朗の頭を掠るように、
触りながら「地に足をつけなさい」と強い語調で言い放っていた。

あの時のシチュエーションを思い出しながら、哲朗の解釈が、始まった。
なるほど、〝地に足をつけなさい〟とは、
〝早く就職を決めなさい〟と言うことなのだろうか。
待てよ、試験に受かるように、もっと事前準備をして勉強しなさい。
…と言うことなのかも知れない。
いずれにしても、今となっては確認出来ないこと。

哲朗の思考回路は、過去の経験の少なさが影響しているのか、
ぐるぐると回っては、元に戻るような感じになっていた。
日頃のルーティーンワークが、少なからず影響しているに違いない。

思考回路が最も影響を及ぼすのは、プログラミング。
GO TOで行きっぱなしでは、プログラミングは成立しない。
哲朗の場合、行って戻ってくるサイクルが人より早いのが致命傷。
過去の上手くいかなかったこと、その際に親に言われ続けてきた言葉。
その意味を、この先もずっと自身に問い掛け続けることになるのだろう。

はてさて、地に足をつけるって、どう言うことなのだろうか。
正直、WEB検索してもよくわからなくなってきた。
幾つになっても、浮足だった考え方や、夢を諦めきれずに追いかけがち。
世の成功者と言われる人たちは、
常に地に足をつけて、歩き続けているのだろうか。
はたまた、ジェット機に飛び乗って、人生の目的地まで向かっているのか。

月夜が綺麗な冬空の下で、
哲朗と一緒に、思いを巡らしたくなった。
哲朗が働くコンビニの、温かいおでんでも食べながら…


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