手を合わせて　命を乞う
手を合わせて　死を乞う
そんな者はいるのか

９０を超えた老女は
ぼくに向かって
なかなか死ねないね　私はいつ死んでもいいんだけど
そう漏らす

彼女は本当に死を望むのか
違うだろ　ちがう
生ある限り　生き続けたい
それが本能　本音
命を自ら断ち切る人びとも　確かにいる
彼らとて　生ある限り　その限りの部分を
生きたいのだ
生きたい　生きたい　イキタイ

この夏　病院で２晩すごした
部屋の外から　長々と　老女の声が聞こえた
帰りたい　帰してほしい
と
ずーっと言うのである
決して　死にたい　殺してくれ　ではない
生ある限り　生ある限り
生き続けよ
それはそれで苦しみである
だが
それを断ち切ってはいけない