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ダブルの歓喜

あれから二週間。

私は高校受験よりも勉強に励んでいた。

高校受験より必死だった。

絶対に這い上がる、と。

そして、夏休みを迎える。

今年もまた暑いらしい。

あー、また玄関前に生きてるか死んでるか分からないセミが転がってて、立ち往生する季節だなー。

周りの友人が夏休みを満喫している頃、

私は全ての誘いを家族旅行と言って断り、

勉強に明け暮れた。


そして、編入試験当日。

3つの公立高校を受けて、

初日は第二希望の公立高校。

編入試験のルールは、

最初に受けた高校が受かっていた場合、

その高校に入らなくてはならない。

つまり、この第二志望の高校を受けて受かれば、第一志望を受ける前に入学が決まる。

私の中で、第一と第二は特に大差なかったので、気楽に受けた。


試験中は、夏休みで誰もいない学校で、

何故か理科室で試験を受けた。

(教室だと忘れ物を取りに来たり、補講を受ける生徒が来るらしい)


試験の手応えはまずまず。

公立の試験だからか、

変なクセもなく、解きやすい問題ばかりだった。


結果は1週間後らしい。

軽く面談を済ませ、待っていた母と帰宅する。


そして、あっという間に一週間。


結果は合格。

合格の文字を見る前に、

入学手続きの書類を見てしまい、

あっ、受かったんだ、という何ともあっさりした瞬間だった。

しかし、母を見ると、目に涙を浮かべ、何度も何度も頷いていた。

「ほんっとに、よく頑張ったね。えらいよ、れいちゃん。今日はお祝いね!!」


よかった。母が喜んでくれた。

一先ずこれで、安心。


また、楽しい高校生活が送れる。

高校の編入生って、みんなどんな反応するかな。

経緯とか色々聞かれるのかな。

そんな不安と期待を胸に、ふと携帯を見ると、着信が残っていた。


…あきとさん。


着信は3時間前。

すぐに折り返した。


「れいちゃん?ごめん、電話して。」

「いえ、こちらこそすみません!どうしましたか?」

「いや、用事はなかったんだけど、なんとなく。元気?」

「はい!あきとさん、私、編入試験受かりました!下期からまた高校生です!あきとさんのおかげ!」

「おぉ!良かったじゃん!おめでとう。お祝いしなきゃな。」

「母と同じこと言ってる。笑」

「れいちゃんにとっては、お兄ちゃんみたいなもんだろ、俺は。笑」

「まぁ…そうですかね…。そういえば!前のお礼させてください!私今、夏休みなんで時間間ありますから!」

「前…?あー、いいよ。お礼されることしてないよ。笑 でも夏休みかー。じゃあ、どっか行こうか。俺も来週くらいならゆっくりできそう」

「はい!いつでも!日程メールしてください!」

「メールね!苦手だから電話しちゃうと思う!じゃあ来週の水曜日は?」

「大丈夫です!!!」

「じゃー、こないだ下ろしたところまで迎え行くね。時間は前日電話する。」

「分かりました!楽しみにしてます!」


ーやっと、逢える。

なんだろう、この気持ち。早く会いたい。

会いたいよ、あきとさん。


でも、今あきとさん忙しいんだなぁ。

バイトとかしてるのかな。声も疲れてる感じだったし。

夜勤とか…?

わざわざ時間作ってもらって悪いなー。

バンドマンってお金なさそうだし…

お弁当とか作って行った方がいいのかな?

いや、時間わからないし…


高校合格の歓喜から一転、

あきとさんに逢える歓喜にすり替わっていた。


その水曜日が、忘れられない日になること。

気づいて、私。

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