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自分の知識を人生と置きかえる詩

12月22日から赤坂の書店双子のライオン堂にて「自分にてわたす詩の教室」を始めます。



これに先立って、自分にてわたす詩とはどんな詩か、改めて考えています。

けして多くの人に見せるために書かれていない詩。自分のために必要な言葉で書かれた詩。ここにはいないかもしれない、わかってくれる人に見せるために形にされたもの。
わかってくれる人の一人として自分を数えたくなる詩です。

私が思い浮かべるのは西郷隆盛です。

今年の大河ドラマの主人公、西郷隆盛は200首ほどの漢詩が現代に伝わっています。その一首一首に漢詩の伝統である教養や、歴史の知識が積み重なっています。

私が印象に残っている詩はいくつかありすが、ここでは明治4年引退生活を終えて東京へ向かうときに残した詩です。

失題

去来朝野似貪名
竄謫餘生不欲栄
小量応為荘子笑
犠牛繋杙待晨烹

朝野に去来するは 名を貪るに似たり
竄謫の餘生 栄を欲ほつせず
小量  応に荘子の笑と為るべし
犠牛 杙に繋がれて晨烹を待つ

(適当な訳)
宮仕えをしたりやめたりを繰り返すのは
名前を売るためだって言う人もいらっしゃるけど
島流しされてまで生き残ってしまった私は
人にもらえる栄誉が無価値だと知っています
そんな了見は荘子に笑われるしかありません
とうの昔に彼は言っているじゃないですか
綺麗なおべべを牛に着せてあげるのは
お宮でいけにえにするためだって

ーーーーー

この詩は、奄美大島で西郷と親交をむすんだ木場伝内へ送った手紙に書かれたもの。
明治四年の西郷の経歴を考えると、並の人なら政治に関わるのはゴリゴリだったと思うからです。


彼よりも古い志士のほとんどは、安政の大獄や薩摩の内ゲバで亡くなっていました。有名どころでは例えば橋本左内や有馬新七です。
内ゲバを見ぬふりをして出世した人も友人にいました。大久保利通ですら友人を見捨てて出世した一人でした。
 

橋本左内が死に、西郷が生き残ったのは、1858年から1864年まで奄美、そして沖永良部島へ島流しされたから。
そして政治の表舞台に帰ったときに彼は死ねないくらい有名で、死ねない立場になったからでした。

明治二年、戊辰戦争中に薩摩に帰ったときは新政府から反乱を疑われました。
明治三年には彼よりもはるかに年下の横山安武が時勢を非難する遺書をのこして自殺しました。
樺山の死にショックをうけた西郷は、彼の作った新政府から、薩摩の人々を引き払わせようとしました。

その中で新政府の一員になるのは生半な決意ではないと思います。
ブラックだと知りつくした職場に役員として乗り込み改革するというのは、少なくとも私は尻込みします。


小量  応に荘子の笑と為るべし
犠牛 杙に繋がれて晨烹を待つ


という後半の2行は漢学の教養の深さをチラ見せしています。

この二行は周の時代、宮仕えを求められた荘子が、それを断るために言った言葉だそうです。

牛がきれいな服を着て美味しいご飯を食べられるのは、朝、杭に繋がれて生贄にされるため。

書いた西郷本人も冗談半分な気持ちがあったと思いますが、もう半分の本気で行ったのは以下のこと。すべて明治四年から六年で行いました。

西洋的な君主を目指した天皇への教育
全国から大名を消し去った廃藩置県
強兵を模索した徴兵令

国のトップから国民までを作り変えるこれらの施策は郵政民営化なんて霞んでしまうほど、強い意志が必要です。

正直に生贄になるくらいなんでもないと思わないとやれなかっただろうなと思います。そして彼と働く人はかなりやりにくかったと思います。
将来の年収増を目指して入ったベンチャーのトップが、自分なんてどうでもいい人で、しかも毎日改革なのですから。

自分を生贄にしてもやることはやる、その心がけを西郷につくったのが、漢学の古典の教養であり、その教養を我が身として復唱する、漢詩だったのだと思っています。

私は西郷のようになりたい、とは言わないまでも、西郷が詩に自分を託せるほどには、自分を詩に託したいと思っています。

西郷隆盛の詩には、西郷と同郷、鹿児島大学名誉教授の松尾先生による二つの論文が容易く読めるしわかりやすいと思います。
漢詩は古典知識が必要・・・と尻込みしてしまうかもしれません(私もそう)
わからないところはとりあえず飛ばして読む、が読むコツです。


また、維新を迎えた時の西郷の心について知るには、渡辺京二さんのコレクション「維新の夢」がオススメです。これを読んでから松尾さんの詩の解説を読むと、西郷の深さがもっと理解できること、請け合いです。


──

「自分にてわたす詩の教室」では、作品を作ること、そして作品に至るまで様々なことを話すことで通じ、ご自身に「てわたす詩」を作れたらいいなと思っています。


お申込み、お待ちしております。

■自分にてわたす詩の教室 概要




<日程>

第一回 2018年12月22日(土)19:00〜21:00

第二回 2019年01月19日(土)19:00〜21:00

第三回 2019年02月16日(土)19:00〜21:00

第四回 2019年03月16日(土)19:00〜21:00


<費用>

通しチケットは、16,000円

お申込みは以下のページからとなります。
お申込みお待ちしてます!

https://liondo.thebase.in/items/14754811


<定員>

8名(最低開催人数:4人)


<場所>

双子のライオン堂 (東京都港区赤坂6-5-21)


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