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【エッセイ】乙女の絶望

私は女子特有の、グループになって行動する習性が苦手だ。
特に学生時代は女子が一人で行動していると冷ややかな目で見られるのだ。
私は垢抜けた見た目をしていたし、性格も明るいので、そんな女子が一人でいることは尚更許されなかった。

女子たちは、
"もちろんこのグループに入るよね?"
といったような無言の圧力をかけてくる。
彼女らのことは別に好きでも嫌いでもないから、突っぱねる理由もないので曖昧な態度をとっていると、自分でも気付かぬうちにどこかのグループに所属してしまっているのだ。

高1のときには、知らぬ間にクラス1のギャルグループに所属していた。
教室移動のときなど、一人で行こうとのんびりしていると、大体グループの誰かが、
「まりなー!早く来なよ!」
と言ってくるので行かざるを得ない。
しぶしぶそのグループの連中に付き合っていたが、自分とノリが全く違うので、一緒にいても何も面白くないし、常に気をつかっていないといけない。

私は高校生のとき、勉強はろくにせずにバイトに明け暮れていたので、私にとって高校とは”寝に行く場所”だった。
そのためグループの連中と話をしている暇などない。
私はバイトに備えて睡眠をとらないといけないのだ。

その日も私は前日のバイト疲れでいつも通り自分の机で爆睡していたところ、鬱陶しいことにギャルグループのこずえとれいみが話しかけてきた。

私は寝ていたところをいきなり起こされたもんだから、びっくりして飛び起きた。


そしてびっくりしたと同時に、とんでもなく大きな屁をこいてしまったのだ。

一瞬、辺りは静まり返った。

その後、こずえとれいみが必死に笑いをこらえながら走って去っていった。
やがて廊下にでた2人は、盛大な声をあげて大笑いしていた。

私は笑われたことよりも自分が屁をこくという失態をおかしてしまったことがあまりにもショックで、思考が停止した。


『死ぬべきか。生きるべきか。死ぬべきか。それとも生きるべきか。』

停止した思考は、たかがおならごときで”生きるか死ぬか”という究極の選択を迫ってきた。
しかし思春期の女の子にとって、おならとはそれほどの死活問題なのである。

高校に入学してまだ3ヶ月だし、普段から寝るばっかりで人との交流をあまりしてこなかった私は、この切実な悩みを相談できる人が身近にいなかった。
こんなことならちゃんと友達を作っとくんだったと後悔してももう遅い。

私は藁にもすがる思いで制服のポケットから携帯を出し、あや(長女)にメールした。


私「今学校でとんでもなく大きな屁をこいちゃった…。もう本当にどうすればいいのかわからない…。死んだ方がいいのかな……?」

なんとも切実なメールだ。

返信はすぐに来た。


あや「なにそれちょーうける!!!爆笑!!!みんなに言おーっと!!!」

私「………」


そうだ、そうだった……。
あやはこうやっていつも人を馬鹿にするやつだった。そんなの当たり前のことで、みんなが承知の事実ではないか。そんな当たり前のことさえ、パニック状態の私はすっかり忘れてしまっていた…。

結局あやは何の助けにもならず、私は残された時間、ただ呆然と虚ろな目で窓の外を眺めて過ごすしかなかった…。
私はその日どうやって帰路についたか覚えていない。その日のバイトは仮病をつかって休んだ。とてもじゃないけど働いてなどいられない。
次の日学校に行こうとした時、なぜか学校で履いている上履きが玄関にあったので、きっとショックのあまり上履きのまま電車に乗って帰ってきたのだろう。

あやに話してしまったせいで、家に帰ったら家族中に私の失態が知れ渡っていた。
みんなおもしろがって散々質問攻めにしてきたが、私は答えられるような精神状態ではない。
ただ虚ろな目で、
『これからどうやって生きよう……。』
という言葉を唱えることしかできなかった。
そんな私の様子がさらに家族たちのツボにハマったようで、人の気も知れずに大爆笑していた。
ひとしきり笑い終わると、「人の噂も七十五日だよ!」となんの慰めにもならない言葉をかけてきた。
思春期の女の子にとって七十五日はあまりにも長すぎる…。

結局私は『大きな屁をこいてしまったときの対処法』を見つけることができず、高2のクラス替えまで一匹狼を貫く羽目になった。
ギャルグループの連中と私の関係は、”とんでもなく大きな屁”によって消え去ってしまうくらいの価値しかなかったようだ。

私は自分の心の中で、
「まぁ無理に仲良くもない人と一緒にいるよりも、この方が良かったのかもしれないな…。”とんでもなく大きな屁”に感謝だな…。あの屁が、私に一匹狼になる勇気をくれたんだ……。」
と、精一杯強がりながら、何とか高1をやり過ごしたのであった。
そして高2になった私は、人前で”とんでもなく大きなゲップ”をできるまでに成長していた。
めでたしめでたし。

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