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WARBY PARKERから学ぶMarketingのポイント

当方、アメリカのビジネススクールでいわゆるMBAを取るために学びにきているのですが、Marketingの授業というのは、他のカテゴリー(Finance, Data Science etc.)などに比べると非常に観念的で、なかなか学びが実感しずらいジャンルであります。

そんなこともあり、学びのアウトプットとして、日本ではまだあまり知られていない企業のMarketingについて、ここでまとめて書いていきたいと思います。


Vol.1 WARBY PARKER

https://www.warbyparker.com/

WARBY PARKERはアメリカで2010年に創業されたオンライン販売をベースとする眼鏡屋さんです(実店舗もあります)。創業者はいわゆるTOP SchoolであるWharton出身の4名で、そのうち2名が現在もco-CEOという形で経営の最前線に立っています。2016年度の売り上げは$100M以上、Fundingは$215M、Valuationは$1.2B、創業以来すでに300万セット以上の眼鏡を販売しています。


本noteの要約
・WARBY PARKERはアメリカの眼鏡業界のDisruptive Company
・徹底的な顧客目線の戦略とSocially Conscious Businessの両輪で唯一無二の
 ブランドを構築
・WARBY PARKERの強みはBranding, Customer Experience Management,
 Measurement


業界分析
まずは業界分析をさらっと。もともとはオンライン販売でスタートしたWARBY PARKERですが、いまや全米+カナダに65の実店舗を構えています。なので全米での実店舗とオンラインでの眼鏡市場(コンタクト含む)を見ると、実店舗が$11.9B(約1.3兆円)オンラインが$465M(約511億円)と非常に巨大な市場となっています。日本はというと、国内アイウェア市場が4,939億円+コンタクトレンズ市場が2,147億円、合計7,086億円ということで、アメリカのおよそ半分の市場規模になっています。


競合分析
ではこの業界のメインプレイヤーは誰か?それはLuxotticaという企業です。あまり聞きなれない企業ですが、実はこの会社、下記にあるようなRay BanやOAKLEYなどの眼鏡ブランド、CHANELやD&Gなどのハイブランドの眼鏡ライン、そしてSunglass hut, Target opticalなどのRetailerまで保持している巨大企業です。アメリカにおいて処方箋を必要とする眼鏡の45%、サングラスの15%のシェアを誇ります。Luxottica含む限られた巨大企業が市場を独占しているがゆえに、処方箋を必要とする眼鏡の価格は高く、また、店舗でしか買えないという顧客のPain Pointが存在したわけです。そして、それがWARBY PARKER創業の理由にもなりました。

Source


WARBY PARKERとは?
ではWARBY PARKERとはどんな企業なのでしょうか。
ベタに4P分析で見てみましょう。

Product
WARBY PARKERにとってProduct=Solutionです。質の高い眼鏡を自ら作り、中間業者を介さず、直接カスタマーに届けることがコアコンピタンスになっています。

Price
WARBY PARKERのPriceは顧客への最大のValueのひとつです。$95からスタートするシンプルかつリーズナブルな価格設定。オンライン販売上、非常に重要な送料無料(返品含む!)。中間業者を排除することによる価格の適正化。ゆえに不必要な値引きやセールは行いません。

Place
主にオンラインでの販売をメインにしているものの、近年は急激に実店舗も出店しています。やはり店舗で試したい、というカスタマーに対してAccessを提供しています。

Promotion
WARBY PARKERにとってPromotionとは単なる広告ではなく、Customer Experienceそのものである、と言えます。自宅で5つまでのフレームを実際に試すことができる”5 pairs, 5 days, free trial”はその代表的なもののひとつで、常に顧客目線に立った施策が客が客を呼ぶ状況を作りだしています。

こちらのブログに詳しい情報が載っておりましたので、さらに知りたい方はご参考まで。


前置きが長くなりましたが、ここからWARBY PARKERのMarketingについて、下記3点を分析していきます。

1)Branding
2)Customer Experience Management
3)Measurement


Branding

WARBY PARKERのBrandingにおいて特徴的なのは、彼らが明確にBrandingの優先順位をつけていることです。具体的にいうと、下記のようにBrand Hierarchyというものを設定しています。

一文でBrand statementを表すと
"A Lifestyle Brand offering Value and Service with Social Mission"
となりますが、
1) A Lifestyle Brand 2) offering Value and Service 3) with Social Missionと優先順位をつけているところがユニークです。

Brandingにおいて成し遂げたいことを同時に行うのではなく、何が自社のBrandにとってCriticalかを吟味し、垂直型でBrandingを行っていく。WARBY PARKERの場合は、まずLifestyle Brandとしての自分たちが最も重要で、ゆえに洗練された商品・オンライン・店舗デザインが肝になります。次にカスタマーに対するValueとService。これはわかりやすくお手頃な価格設定、非常に質の高いカスタマーサービス(送料無料、Home Try-on、店舗での接客など)に見て取れます。そして、上記の2つが成し遂げられて初めて、3つ目のSocial Missionが活きてくるのです。WARBY PARKERのSocial Missionとは”世界にある視力に関する問題を解決すること”です。具体的な取り組みとして、”Buy a pair, Give a pair”という活動を創業以来続けています。詳しくはこちら

Buy one, Give oneアプローチが優れている点は、それが倫理的に素晴らしいからだけではなく、その取り組みによりカスタマーがWARBY PARKERを支持し、BrandのRoyal customerとなりえるのです。ニールセンの調査によると、全世界の46%のカスタマーが社会に貢献している企業の商品に対し、いくばくかの付加価値(この場合お金ですね)を払ってもよい、と考えています。そしてそのうち約60%強は40代以下のカスタマーで、彼らは商品を選ぶ際、SNSを使って情報を集め、また世界の環境・教育・食料の問題により関心を持っています。WARBY PARKERのカスタマーデモグラフィックデータは公開されていませんが、想像するにおそらく40代以下のカスタマーがボリュームゾーンではないでしょうか?その意味でも彼らのおこなっている活動はカスタマーとマッチしていると言えると思います。


Customer Experience Management

WARBY PARKERから学ぶべきは、その優れたCustomer Experience Managementにあります。多くの企業が謳うように、WARBY PARKERもまた顧客第一主義であり、「自分たちがもしお客さんだったらこういう風に扱ってほしいな」という観点でサービスが設計されています。前述の送料無料のHome Try-onサービスのほかにも、カスタマーからの問い合わせへの対応が秀逸です。電話やメールでの対応はもちろん、FacebookやTwitterでダイレクトにカスタマーとやり取りをしています。特にユニークなのが、その返答の仕方でわずか1分足らずのビデオをYouTubeにアップする形で、そのURLをTwitterのダイレクトメッセージやFacebookのコメント欄に張り付けて、個人の問い合わせに返答しています。下記のビデオでも「Hey John」と問い合わせをしてくれたカスタマーに対して、名前を呼んでスタートしています。

ではなぜこのような取り組みをしているのでしょうか?WARBY PARKERでオンラインでのカスタマーエクスペリエンスを担当するTim Rileyによると、カスタマーサービスは「単なるカスタマーサービスではなく、マーケティングのひとつの形である」からです。それぞれのビデオの再生回数は数百回から数千回と大したことはありませんが、この活動自体がWARBY PARKERがカスタマーをどのように捉えているのかを如実に表しています。そして、Tim RileyはYouTubeを単なる動画プラットフォームとしてではなく、世界で2番目に大きいサーチエンジンとして捉えているのです。


Measurement

ではWARBY PARKERが自らのMarketingを評価する指標とはなんでしょうか?それはNet Promoter Score(NPS)です。

NPSとは「Net Promoter Score(ネット・プロモーター・スコア)」の略で、顧客ロイヤルティ(企業やブランドに対する愛着・信頼の度合い)を数値化する指標です。NPSが上位の企業は高い事業成長率を保っており、NPSを導入することで収益向上を実現しようとする企業が増えています。

Source

WARBY PARKERは創業以来、NPS85以上をキープしています。高いNPSは彼らがカスタマーに提供している体験への評価であり、もっとも重要な評価指標であるとco-CEOのNeil Blumenthalも述べています。高いNPSは口コミや紹介を呼びます。実際、WARBY PARKERの新規カスタマーのうち、半数以上は既存のカスタマーからの口コミ、紹介がきっかけで商品を購入しています。

もちろんオンライン上での販売を評価する指標(コンバージョン率やサイト滞在時間など)は日々のビジネス上、トラッキングされていると思いますが、TOP自らが最も重要な指標を明確に設定し、それをオープンに発信していること自体も非常に重要ではないでしょうか。


まとめ

WARBY PARKERでは、正直ここでは語り切れないほどのMarketingの取り組みがあり、紹介したのはあくまでも一握りの活動でしかないのですが、特に重要だと思う点をいくつかピックアップしてお伝えしました。

今回のTakeawayです。

1)Brand Hierarcyを設定して、達成したいことに順序をつける
2)カスタマーサービスこそ重要なMarketing toolである
3)BrandやCustomer Experienceを図る明確な指標を持ち、
  全社で共有・効果測定を行う

お読みいただき、ありがとうございました!

広告会社を経て、Los AngelesにてBusiness School在学中(現在2年目)アメリカ企業のMarketing関連のことをまとめていきます。