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マルジェラの生まれやブランドを去った経緯が本人の口から明かされる『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:162/237
   ストーリー:★★★☆☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【要素】

ドキュメンタリー
ファッション

【元になった出来事や原作・過去作など】

・人物(ファッションデザイナー)
 マルタン・マルジェラ(1957~)

【あらすじ】

公の場に一切登場せず、撮影・対面インタビューにも応じない。型破りでエレガント、突然の引退から10年以上経った今も大きな影響力をもつ謎の天才デザイナー、マルタン・マルジェラがついに沈黙を破る。

本作の監督のライナー・ホルツェマーは、難攻不落と思われたマルジェラ本人の信頼を勝ち取った。「このドキュメンタリーのためだけ」という条件のもと、ドローイングや膨大なメモ、初めて自分で作った服など、プライベートな記録を初公開し、ドレスメーカーの祖母からの影響、ジャン=ポール・ゴルチエのアシスタント時代、ヒット作となった足袋ブーツの誕生、世界的ハイブランド、エルメスのデザイナーへの抜擢就任、そして51歳にして突然の引退――これまで一切語ることのなかったキャリアやクリエイティビティについてカメラの前でマルジェラ自身が語る。

【感想】

マルタン・マルジェラについて知ることができる貴重なドキュメンタリーでした。ファッション好きは特に観ておいて損はないかもしれません。

<ファッション業界の重鎮>

ファッション好きでなくとも聞いたことぐらいはあるであろうその名前。
「ファッション業界における最後の革命児」
「19世紀にまでさかのぼっても10本の指に入る」
インタビューを受けた人から出る彼への言葉は絶賛の嵐でした。

彼がファッションデザイナーになったのは、祖母の影響が大きいと言えそうです。幼い頃のマルジェラは、仕立て屋だった祖母の仕事を間近で見て、将来の夢は「パリでファッションデザイナーになること」と言っていたそうな。

とはいえ、彼には才能があったのも事実です。そうでなければ、ファッション学科における世界の御三家のひとつ、アントワープ王立芸術アカデミーに入れるわけがないですし、そこで"アントワープの6人"と並び称されるほどないと思うので。

この手のドキュメンタリーは、対象となる人物がいかに革新的で、歴史を変え、多くの人々を魅了したのかが重要になってきますよね。もちろん、マルジェラもその要素はありました。日本に来て影響を受けた足袋にヒールをつけた靴のデザイン。モデルの顔を覆うことで、服や動きを際立たせるショーの作り方。服のタグを見て、「これは〇〇の服だ」と言われるのが嫌で、あの四隅にステッチをつけたタグにしたこと、など(まあ、あのタグは今となってはそれをつけているだけで、「マルジェラの服だ!」ってすぐわかるぐらいには有名になってしまいましたけどw)。

<徹底した秘密主義>

数々の功績を残してきたマルジェラですが、彼が他のファッションデザイナーと最も異なる点がありました。それは、公の場に姿を現さなかったことです。なんか、ファッション業界にいる人って、「表に出ることが好き」っていうイメージが強いんですよね。だって、ファッションって人に見られてナンボみたいなところもがあると思うので。しかも、取材も対面では行わず、FAXが多かったのだとか。そんな彼のスタンスは、とても意外に映ります。

ただ、それは「自分を守るため」でもありました。辛辣な言葉を浴びせられることも多いこの業界は、彼の性格には合わなかった部分もあったようです。若い頃に傷ついたこともあってか、人前に姿を見せることはなくなり、
取材も受けなくなりました。彼が言うには、取材などで自分が作ったものについて逐一説明するのが嫌だったそうなので、それも関係してそうですけど。

また、作品づくりに集中する意味合いもあるようです。インタビューの予定を組んだら、それだけでスケジュールが埋まってしまいます。彼はあくまでもファッションデザイナー。創作こそが本分なのですから、他のことに時間を費やしている場合ではなかったんでしょう。

<ファッションデザイナーとしての本分を大事にした>

だからこそ、オンリー・ザ・ブレイブ(ディーゼルを持つイタリアのアパレルメーカー)に買収されたあたりから、彼は自身のキャリアに悩み始めます。本職はファッションデザイナーとして服を作ることですが、だんだん立場が上がり、アーティスティック・ディレクターというポジションにまでなってしまいました。こうなると、自分で何かを作ることは難しいですよね。作ることよりも、全体を見渡すことが仕事になってきますから。だから辞めたんです。まさに、モノ作りとビジネスの狭間で、前者を取った形ですかね。

もちろん、自分のクリエイティビティはそこそこに、まわりの人ともうまくコミュニケーションを取り、いい給料をもらって、ブランドを守っていくこともまたひとつの在り方だとは思います。でも、マルジェラは自分で手を動かして作ることが好きだったんでしょう。それが彼の魅力でもあります。

<その他>

ところで、この映画を観て、しきりに出てくるひとりの日本人の名前があることに気づきます。それが、川久保玲です。ご存知の通り、『コム・デ・ギャルソン』の生みの親ですね。ここまで海外の有名ファッションデザイナーに影響を与えていたのかと改めて痛感すると共に、同じ日本人として誇りに感じました。

これまで謎に包まれていたマルタン・マルジェラ本人が、自らの人生や創作活動について語る貴重な映画ですので、ファッションに興味のある人にはオススメしたいです。なお、作中でも顔は一切出ません(笑)


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