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外国人だけ笑いすぎで世界との温度差を感じたけど、ぶっ飛んだ世界観の中で女性としての生きづらさを訴え、男性の愚かさをいじり倒したジェンダーとアイデンティティと真剣に向き合った映画『バービー』

【個人的な満足度】


2023年日本公開映画で面白かった順位:32/112
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★★★★★★
     映像:★★★★☆
     音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:Barbie
  製作年:2023年
  製作国:アメリカ
   配給:ワーナー・ブラザース映画
 上映時間:114分
 ジャンル:ブラックコメディ
元ネタなど:玩具「バービー」(1959-)

【あらすじ】

すべてが完璧で今日も明日も明後日も《夢》のような毎日が続くバービーランド!バービー(マーゴット・ロビー)とボーイフレンド?のケン(ライアン・ゴズリング)が連日繰り広げるのはパーティー、ドライブ、サーフィン。

しかし、ある日突然バービーの身体に異変が!原因を探るために人間の世界へ行く2人。しかし、そこはバービーランドとは勝手が違う現実の世界。行く先々で大騒動を巻き起こすことに─?!

彼女たちにとって完璧とは程遠い人間の世界で知った驚きの〈世界の秘密〉とは?そして彼女が選んだ道とは─?予想を裏切る驚きの展開と、誰もの明日を輝かせる魔法のようなメッセージが待っている─!

【感想】

宣伝のやり方が炎上して何かと注目を浴びている本作。確かに宣伝に対しては日本人として悲しさと怒りを感じましたが、映画自体はとても面白かったです。がしかし、予告から想像するような気軽に観れる映画ではなく、意外にも社会の役割における"女性らしさ"と"男性らしさ"というジェンダーやアイデンティティといっだ真面目なテーマを前面に出した大人向けの内容でしたね。

<バービーとは>

そもそもですが、バービーって日本の今の若い子たちは知っているんですかね。僕が子供のときはテレビCMとかやっていたような気がしなくもないですが。まあ、簡単に言ってしまえば着せ替え人形です。アメリカのマテル社が作った人形で、日本で言うとリカちゃん人形みたいなものです。とにかく種類が多いんですが、個人的にはアメリカほど、日本で人気があったようには思えません(世代にもよるのかもしれませんが)。今回の映画は、そんなバービー人形を題材にした初の実写映画なわけです。

<人形を通じてジェンダーやアイデンティティを浮き彫りにする秀逸さ>

この映画、設定がややわかりづらくてモヤモヤするんですが、人間の住むリアル世界とバービーたちの住むバービーランドがあって、手順を踏めば行き来可能なんです。一部のバービーやマテル社の人間は知っているようなので、劇中ではバービーが人間の世界にやって来ること自体は、そこまで超常現象みたいな扱いではなさそうですが。で、その設定が今回の映画の騒動の発端となるわけです。ちなみに、これまたわかりづらいんですが、バービーは同じ名前でいろんな型があるので、劇中でもいろんな人が同じ"バービー"の名前で呼ばれていますし、それはケンも同様です。

訳あって人間の世界に行くことになったバービーとケンですが、そこで彼女たちは驚愕の事実を知ることになります。バービーは今まで自分が人間の世界を幸せにしていると思っていたんですが、若い世代には女性らしさの押しつけだと思われていてショックを受けるんですね。逆にケンは、人間の世界が男性社会であることを知り、自分が今までバービーのお飾りでしかなかったことを踏まえて、男が支配する社会に感銘を受けます。

そこに人間のグロリア(アメリカ・フェレーラ)やその娘のサーシャ(アリアナ・グリーンブラット)も交じっててんやわんやになるんですが、その中で、人間社会でいかに女性が生きづらいかをグロリアが話すシーンがあるんですよ。ここがね、同じ女性なら大きく頷ける部分もあるんじゃないかなと思うわけです。ややうろ覚えですが、「痩せないとダメだが、痩せすぎるのもダメ」、「男の勝手を許すなと言われ、指摘すると怒られる」、そんなことを言われ続け、まわりに好かれるために心をすり減らすのはもうたくさんだと嘆くんですよ。女性っていうだけで無理ゲーすぎる人生だと。

また、同時に男性の愚かさをいじり倒しているシーンもあるんですが、ここは同じ男性から観ても耳が痛いと思いつつ笑えるところでしたね(笑)物語後半で訪れるバービーランドの危機を救うために、住人の男性たちを罠にハメる必要があるんですが、そこがもう「男って本当にバカだな」って思えることの連発で。"男は頼られることに弱い"とか"男は儲け話が好きだ"とか、そういう習性を逆手に取って油断させていくんですけど、僕が一番笑ったのは、“男は語りたがり"というのを利用して、映画『ゴッドファーザー』(1972)について語らせるところですね。特に映画好きには刺さるシーンだと思うんですが、一歩間違えれば批判されかねないいじりを、こうやって誰も傷つけずに「男あるある」をうまい具合にコメディに仕立てた秀逸さが、僕がこの映画の中で一番気に入ったところです。

こうやって、女性であることの辛さや男性特有のアホらしさなど、生物学的な男女に囚われない、社会生活の中でのそれぞれの属性や特性を浮き彫りにしているのがこの映画の特徴のひとつなんですよ。また、ネタバレになるので詳細は割愛しますが、バービーやケンが「自分の存在意義」について葛藤するところなんかもあって、まさか人形を通じてジェンダーやアイデンティティを描くとは思ってもみませんでしたね。

<日本では海外ほどウケなそうと思うワケ>

今回の映画で僕が最も特徴的だなと感じたことがあります。僕が観た映画館は土地柄、外国人(特にアジア系)が多いんですが、彼らだけがメチャクチャ爆笑しまくっていたんですよ。もしかしたら日本人でも笑っている人はいたかもしれませんが、とにかく外国人の笑い声がデカいのなんのって。いや、笑うところだってのはわかるんですが、「そんなに笑う?」ってぐらい笑ってましたね(笑)もちろん、笑いのツボが違うってのもあるでしょう。他の映画でも、誰も笑っていないところで外国人だけが笑っているなんてケースは時々ありますから。

でも、この映画に関してはそれだけじゃないと思うんですよね。やっぱり、バービーに対する愛着と知名度が日本とは違うってのは大きいんじゃないでしょうか。みんながよく知っているあの着せ替え人形がこんなことしてるっていうギャップってのはあると思うんですよね。だから、そもそもバービーで遊んでないとそこがわからないんですよ。あと、ジェンダーについての考え方の違いも関係しているのかなと思います。完全にイメージでの発言で恐縮ですが、海外の方がそういう議論は活発な気がします。となると、海外の人の方が、「自分たちがよく遊んでいた国民的おもちゃが、ブラックジョークを交えながらジェンダーやアイデンティティと向き合っている」っていうことを理解できるので、日本人で過ごしてきた人とはその深さが違いますよね。だから、これがアメリカでメチャクチャヒットしてるのは何となくわかるものの、同じ熱量で観れる人は日本の方が少ないかもしれないなと思いました。

<そんなわけで>

頭を使わずに気軽に観れるファンタジー映画だと思ったら大間違いで、ジェンダーやアイデンティティと真剣に向き合った、テーマ自体はクソ真面目な映画です。そんなクソ真面目なテーマにも関わらず、オールピンクな色使いでぶっ飛んだ世界観を構築してしまうのが、さすがハリウッドだと思いました。これはぜひ映画館で観ていただきたいです。シーンが変わるたびに衣装が変わるマーゴット・ロビーにも注目です。一体どれぐらいの衣装を用意したんだってぐらいコロコロ変わりますし、そのどれもがかわいいですから。


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