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社会を変える教育

 みなさん「社会を変える教育」と聞いて、何を頭にうかべますか?

 何もうかばない人、あれもこれもうかんでくる人、??がいっぱいの人…
みなさんそれぞれの反応かなと思います。

 イギリスでは、2002年に中等教育で「シティズンシップ教育」というものが導入されました。
 市民の「シティズン」に、スポーツマンシップの「シップ」(意識、権利、気質、などなど)がついた「シティズンシップ」は、市民の意識、市民権、市民性などを表す言葉です。

「リーダーズ英和辞典」では、「citizenship」の訳語を下記のように記しています。


【citizen・ship】
1. 市民権; 公民権; 公民の身分[資格](cf. →CITIZEN); 《大学などの》 共同社会の一員であること.
2. 《個人の》 市民性, 市民的行動; 共同社会性

 このようなシティズンシップを育む教育カリキュラムが「シティズンシップ教育」なのです。

 この教育カリキュラムの導入に向けた諮問委員会の答申書(クリック・レポート)では、「我々は国家全体でも地域でも、本国の政治文化を何より変えることをねらいとしている。つまりそれは、公共生活に影響を与える意思、能力、素養をもった能動的な市民として、人々が自身について考えられるようにすることである。」と述べられ、社会に積極的に参加し、責任と良識ある市民を育てるための教育をうたっています。

 日本の公民教育(Civic Education)では、政治や経済の仕組みを学習するのにとどまるのに対して、イギリスのシティズンシップ教育(Citizenship Education)では、そのシステムに参加するスキル、考え方、コミュニケーションなどについても学習します。
 たとえば、社会の問題を解決するために、どこから情報を仕入れ判断し、どのような手段(政治・ボランティアなど)を用いるのか、どのようにして他者と合意形成を行うのか、どのようにして相手を説得するのか、といった、より実際的な社会参加・政治参加を学習するのです。

 これらは、教科の枠を超えて、生徒会活動や課外活動などともリンクして進められます。 ファンドレイジングや市民活動に関する事例としては、生徒たちが自ら募金を集めるプランを考え、地域を20マイル歩くイベントを開催し、「完走したら寄付をしてください」と、地域に宣伝した事例があります。集められたお金は、津波の復興支援に寄付されました。 
 また、栄養学を学んだ学生が、小さい子ども・お年寄り・偏食がちの人々に、少ないお金でどうバランスのよい食事を採れるかをアドバイス、支援、買い物につきあい、料理を手伝う活動なども進めています。

 政治や司法については、Hansard Society(民主主義教育振興を目的とするチャリティ団体)と連携し、議員を学校に呼んだり、Citizenship Foundation(シティズンシップ普及のためのNPO)の協力のもと模擬裁判を行ったり、裁判官から法律についての話を聞いたりしています。
 多文化共生の視点から、シナゴーグ(ユダヤ教礼拝施設)での学習を進めている事例も見られます。

 これらの活動は、外部の評価団体をとおして、コースワークという位置づけで評価されます。単なるイベントとしてでなく、アカデミックな知識のもとに活動しているかどうかが評価され、報告も写真やレポートなどさまざまな形での提出が可能です。

 日本の総合的な学習でも、ずいぶん近い実践が見られるようになってきましたが、シティズンシップという理念を柱としたシステムとして考えると、まだまだ英国の事例にかなわないように感じます。

 ここまで述べてきたように、市民活動から政治参加まで、日本の公民教育よりも裾野が広く身近な事例まで扱っているのが特徴です。

 今回の記事のタイトル「社会を変える教育」は、この「シティズンシップ教育」を指すものとして、今回ご紹介させていただきました。

 くわしくは、拙著『社会を変える教育 Citizenship Education ―英国のシティズンシップ教育とクリック・レポートから―』をごらんいただければ幸いです。( https://amzn.to/3tbnmqz )

 またnoteでも、ご紹介していきますね。お読みいただき、ありがとうございました。✋

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