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【感想】Netflix映画『終わらない週末』

常に土日を待ちわびながら仕事をサボる方法を考えて日々を過ごし、将来の夢は窓際族な私は本作のタイトルを見た瞬間「サイコーじゃん!」と飛びついた。

あらすじはこんな感じ。

のんびり週末を過ごそうと、豪華な別荘を借りた一家。だが到着早々、サイバー攻撃により携帯やパソコンが使えないという不測の事態が起こる。そして、玄関口に見知らぬ男女2人が姿を現す。

https://www.netflix.com/jp/title/81314956

全然楽しいストーリーじゃないw

原作は同名の小説。

「オバマ元大統領も絶賛」の謳い文句で全世界27ヶ国で翻訳されたベストセラー。

ちなみに今回のNetflix映画版にはオバマ夫妻が製作総指揮として名を連ねている(!)
単に資金を出す名義貸しではなく脚本にもアドバイスしたそう。

「草稿の時点では、実際に撮影した映画より挑戦的な内容だった。でも、オバマ元大統領が自らの経験をもとに、現実ではどのように事態が展開する可能性があるのか教えてくれたことで、考え直すことができたんだ」

https://eiga.com/news/20230930/2/

『シン・ゴジラ』が官僚への取材を経てリアルになっていった話みたいなw
終盤のアメリカ政府に関する言及・描写はこのアドバイスの賜物なのかな?

監督兼脚本はサム・エスメイル。
海外ドラマの名作『ミスター・ロボット』のクリエイターとして知られる人。
やはり本作の紹介時にも『ミスター・ロボット』はよく出てくる。
ハッキングやサイバー攻撃などITがテーマという共通点もあるし。

ただ、ジュリア・ロバーツとの関係性も踏まえれば本作はAmazonオリジナルドラマの『ホームカミング』の延長線上でこそ語るべきかと思う。

サム・エスメイルとジュリア・ロバーツを引き合わせた作品。
当時のインタビューによればロバーツはエスメイルの仕事にかなり惚れ込んでいた模様。

「Homecoming」の監督と脚本家を務めるサム・エスメイルによると、ロバーツは、すべての回をエスメイルが監督することを主演に承諾する条件に挙げたとのことだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/59893c83e16962f3c39b3ce37bc617bc9d45912b

個人的にエスメイルの演出力(特にアングルとカメラワークといった撮影)は『ミスター・ロボット』以上に『ホームカミング』で覚醒したと思っている。

過去と現在で画面のサイズが異なる、アルフレッド・ヒッチコックが『めまい』で使った撮影技術「めまいショット」ほか、『殺しのドレス』『カプリコン・1』など過去のカルト作から45もの曲を使用するなど、凝りに凝った映像&サウンドが迷宮へと誘う。

https://madamefigaro.jp/culture/190425-creators.html

ヒッチ・コックだけでなくブライアン・デ・パルマの影響に言及している記事やインタビューも。
(エスメイル本人が発言している1次ソースは見つけられず)
この演出スキルは本作でもいかんなく発揮。
過去作の引用という作風も某有名ドラマの引用という形でしっかり引き継がれている。

念のため書くと自分は『ミスター・ロボット』が嫌いなわけではなくて、何ならCES 2017に出張で行った際にカーリー・チャイキンがゲスト登壇したセッションを生で見ているくらいであるw

セキュリティーの議論では、特別に女優のカーリー・チャイキン氏が登場しました。彼女は米国のテレビドラマシリーズ「ミスター・ロボット」でハッカーのダーリン役を演じました。

https://www.businesswire.com/news/home/20170112005480/ja/

作品の話に戻りましょう。
オープニングクレジット後のシーンから変態的なカメラワークがいきなり炸裂。
車内を助手席→運転席→後部座席とワンカットで回った後にそのまま窓の外へ!
どうやって撮ったんだ?
ガラスのエフェクトを後から足しているのか?
そこから貸し別荘に着くまでは上空から地上に降りていく空撮ワンカットで捉える。
極上のツカミ。

さらに別荘内の階段をジュリア・ロバーツが上がるシーンの回転カメラワーク!
どこからどう撮ってるのか全く分からないw
いつの間にかカメラは外に出て、2階に上がったら綺麗な横スクロールからまた窓をしれっと通過して屋内へ。
2時間ずっとこういう変態的な(※褒めてます)カメラアングル×カメラワークが続く。
どうやって撮ったの?のオンパレード。
もう最高。
ずーっと最高w

これぞ映画の醍醐味。
物語のテーマやメッセージも大切だが、これだけテレビドラマの秀作が溢れる時代には映画はまず画面で楽しませてほしい。
時間がものを言う深さの勝負ではテレビドラマに敵うわけがないのだから。
それをテレビドラマ出身のサム・エスメイルがしっかり実践してくれているのが嬉しいし頼もしい。

もちろんテーマや中身が薄いというわけではなく、テクノロジーや現代社会に対する批評性を帯びている。
この辺りは先日noteに感想を書いたドラマ『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』やデヴィッド・フィンチャーの最新作であるNetflix映画『ザ・キラー』にも通じるものが。

『ザ・キラー』も年間ベスト級の震えるほどの大傑作でした。

ただ、これらがあくまで個人レベルの話に落とし込んでいるのに対して国家安全保障レベルまで飛躍していくのが本作の面白さ。
直接的な武力を持たずとも国家を転覆させられるというスリラーになっている。
これをオバマ元大統領がプロデュースしているのだから空元気で笑い飛ばすことも出来ない。

そしてNetflix映画であの結末!
斬れ味抜群。
恐れ入りました。

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