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音楽レヴュー 2

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#映画

2022年のポップ・カルチャーを振りかえる

 2022年もポップ・カルチャーに触れていて感じたのは、自身の背景を強く滲ませた正直な表現が増えたということです。音楽作品でいうと、リナ・サワヤマの『Hold The Girl』は、これまで以上に自らの切実な想いが込められた素晴らしいアルバムでした。ロイル・カーナーの『Hugo』も、人生を振りかえりながら、自分の怒りや憎しみと向きあう痛みが顕著な作品と言えます。
 この傾向は今年突然始まったことで

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2021年のポップ・カルチャーを振りかえる



 おそらく、他の方々と比べてかなり遅いタイミングでのベスト記事発表でしょう。いつもは年末に発表していたんですが、例年よりも仕事とプライベートの忙しさが凄まじく、書く時間をなかなか取れなかったのが遅くなった主な理由です。とはいえ、年度で見ればぎりぎりOKかな?と思うので、どうかご容赦を。

 アルバム、トラック、映画、ドラマ、本のベストを選んだのは従来通りです。ただ、前回は選ぶ作品数を増やしたの

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“色”でポップ・カルチャーを楽しむ



 映画やドラマを観るとき、あなたはどこに注目していますか? 役者の演技、制作陣のスキル、脚本のおもしろさなど、さまざまな楽しみ方があると思います。

 今回筆者が取りあげるのは、“色”の視点から楽しむことです。徳井淑子さんによる著書『黒の服飾史』(2019)などが示すように、“色”は時代ごとに異なるイメージを纏っています。たとえば、中世以前の黒は“貧しさ”や“醜さ”を象徴する色でした。ところが

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Will Bates『Depraved(Original Motion Picture Soundtrack)』



 多くの音楽ファンにとって、ロンドン出身のウィル・ベイツは多面的な男に映るだろう。ザ・リンスの一員だったときは、ベルカ・アンド・ストレルカの“Stethoscopics”(2006)をリミックスするなど、2000年代のダンス・ミュージック・シーンを賑わせた。かつてLCDサウンドシステムのサポート・メンバーを務めていたフィル・モスマンと結成したフォール・オン・ユア・ソードでも、DFAからリリース

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Fatima Al Qadiri『Atlantics (Original Motion Picture Soundtrack)』



 マティ・ディオプ監督の映画『アトランティックス』は、セネガルの少女アダ(ママ・ビネタ・サネ)と少年スレイマン(イブラヒマ・トラオレ)の数奇な運命を描いた映画だ。霊、搾取、移民などさまざまな要素が盛りこまれた内容は多くの賞賛を浴び、黒人女性監督作品としては初めて第72回カンヌ国際映画祭のグランプリに輝いた。

 もうひとつ、『アトランティックス』には大きなトピックがある。ファティマ・アル・カデ

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