マガジンのカバー画像

小さな神社

69
運営しているクリエイター

記事一覧

新年

日が変わる頃には参拝客はほとんど来ない。
近所は老夫婦が多いため、夜中に2年参りはうちは少ないのだ。
「それでも、誰か来るかもしれないからねぇ」
女神様はお茶を飲みながら静かに待っていた。
ぼくはテントと椅子で小休憩できるスペースで護とタカシくんと3人で話ながら参拝客待ち。
「来ないねぇ」
なんて言いながら。
「まぁ、ご近所さんも少ないしね」
女神様も言う。
ぼくはふと空を見上げる。
今日は曇って

もっとみる

年越し

先ほどの話が終わった後も、タカシくんは神社で明日の準備や掃除を手伝ってくれた。

「ありがとうね、3人とも」
ぼくたちが一休みしていると、女神様がお茶を出してくれた。
「温かくて美味しい」
「久しぶりにちゃんとしたお茶を飲んだよ」
一人暮らしだとペットボトルで済ますからね、とタカシくんは言った。
境内も綺麗になったし、明日というか、今夜というか、まぁ、準備もできた。
「ちょっと早いけど、蕎麦でも茹

もっとみる

見回り

コマ兄と境内の掃除をしていると、タカシくんが来た。
「1日、2日はバイトで来れないからね」
そう言って年末の挨拶をし、話が世間話になる。
学校がどうだ、とか、バイトがこうだ、とか…そして…
「そういえば、最近、この町でウルトラマン関連グッズが売り上げ伸ばしてるらしいけど知ってる?」
「いや…クリスマスシーズンだからとかじゃなくて?」
そういえば、なんとなく聞いた覚えがある。
今月初めくらいから急激

もっとみる
秋

大分、気候が良くなった。
朝と夜は寒いくらいの日もあるが、日中は過ごしやすい。
ぼくは境内で背伸びをする。
そこへ美子が来た。
「気持ちいいね」
そして一緒に背伸びをした。
ぼくは洗濯物を干し、美子は花壇に水やりをした。
大体終わったころ、女神様が出てきた。
「朝食の片付け終わったから、ちょっと休憩に散歩に行かない?」
ぼくたちはすぐに出かける準備をした。

行き先は神社と道を挟んだところにある公

もっとみる

虫の声

最近、急に涼しくなった。
昼間に外に出るのが気持ちいい。
「さてと」
ぼくは言った。
神社の裏に外用のテーブルと椅子を準備する。

中に入ると、ちょうどご飯が炊き上がっていた。
エビとキノコと銀杏の入った炊き込みご飯。
ぼくはおにぎりを作り始める。
そこへ、美子がハムとレタスとトマトとパンを持ってくる。
「あ、コマ兄はおにぎり作ってるのかぁ」
美子はそういうとパンにバターを塗り始める。
「私はサン

もっとみる

夏祭り

午後6時ごろ、ご近所さんが集まって来る。
大体が裏のアパートの住人達だ。
「こんばんは、スイカ持って来たよ」
「うちはお肉を持って来ました」
みんなでバーベキューの準備をして、6時半ごろスタート。
結局、うちの夏祭りはご近所さんとみんなでバーベキューなのだ。
最初は女神様が皆さんにご挨拶。
そのあとで、ぼくと護で各テーブルに挨拶回り。

一通り、ご近所さんに挨拶を終えて、ぼくはタカシくん達、仲のい

もっとみる

準備

「これっくらいのっ!お弁当箱にッ!!」
「コマ兄…それ…通販の大きな段ボール…」
美子が不安そうに言った。
「おにぎりッ!おにぎりッ!」
女神様が苦笑いしながら言う。
「赤ちゃんの頭くらいの大きさね…」
「ちょっとつめてッ!!」
「ドンっとつめたぞ…」
弟が頭をかきながら言った。
「今日の夏祭り用だろうが、誰もそんな大きなおにぎり食えないと思うぞ」
「…そうかなぁ…」
ぼくはおにぎりを取り出し、し

もっとみる
そろそろ

そろそろ

ようやく、植えていたひまわりが咲いた。

水をあげながら、自分より高いひまわりを見上げる。
そして、そろそろだな、と思ってコマの方を見た。

洗濯かごからシャツを出し、パンパン、と伸ばして干す。
洗濯は楽しい。
真っ白な洗濯物と青い空。
もうすっかり夏だなぁ、と思った。
そろそろかな…
その時、足音が聞こえて石段の方を見る。

座敷童子のお仕事が終わって、帰る準備をしていました。
帰りに、市松さん

もっとみる
初夏

初夏

5月は空の青と木々のコントラストが一番綺麗に見える時期だと思う。
ぼくは鳥居の横の桜を見上げながら思う。
すっかり花は散り、葉が出揃っている。
「すっかり初夏になったねぇ」
後ろから女神様が言った。
「空も新緑もすごくきれい」
そして思いっきり背伸びをしていた。
そこに美子も来た。
「今日は暖かくて気持ちいいね」
そう言うと女神様の真似をして背伸びをする。
せっかくだからぼくも背伸びをした。
季節

もっとみる

焼き鳥

「一人で焼き鳥屋さんでお酒飲んでみたいなぁ・・・」
なんとなく言ってみた。
興味はあったが、やってみる気はない。
本当に、ただなんとなく言ってみただけなのだ。
「ん・・・そうねぇ・・・」
女神様がそれを聞いて考え込んだ。
「門限決めてたけど、もしかしたらお友達とのみに行く機会ができるかもしれないからねぇ・・・」
かなり真剣な様子だ。
とてもじゃないけど今さら冗談です、なんていえない雰囲気。
「社会

もっとみる
桜

今日は天気が良く、暖かい。
ぼくは境内に出て深呼吸。
こんな日は…
「お花見しましょう」
後ろから女神様の声。
振り向くと、お菓子と水筒を持った美子がいた。
考えることはみんな同じだ。

ぼくは外用のテーブルと椅子を準備し、女神様は簡単な料理を作る。
美子は女神様の作った料理を運び、お菓子をパーティ開けして…
「どこで覚えたの、その開け方」
おかしくなってぼくは聞いてみた。
「座敷童子講座その4、

もっとみる

なぞなぞ

「上は大水、下は大火事、な~んだ?」
「…えっと…」

美子が本を読むのは大抵ぼくのひざの上だ。
最近、美子はなぞなぞの本が好きだ。
だから美子のなぞなぞに答えるのもだいたいぼくの役目になっている。
ただ、ぼくは人間の考えがいまいちわからない。

「そういえば、タカシくんの通ってた小学校はね」
美子は不思議そうにぼくを見上げた。
「学校の屋上にプールがあるんだって」
美子はさらに首をかしげた。

もっとみる

大雪

今朝は雪が積もっていた。
このあたりでは珍しいことだ。
外を見ると、近所の家の屋根や駐車場や木々の葉が真っ白になり、朝日で輝いている。
滅多に見られない、美しい光景。
ふと、電話が鳴った。
出てみると、今日は仕事はお休み。
この天候で仕事にならないそうだ。
電話を切ったあと、外に出て深呼吸。
冷たい、でも気持ちのいい空気が体を満たす。
そのまま、鳥居近くまで行くと、女神様が朝日を見ていた。
「あら

もっとみる

元旦

今日の朝は忙しかった。
神社だけあって、ご近所さんが立ち替わり入れ替わり参拝に…ならよかったんだけど、結局、みんな休憩スペースで立ち話。
まるで同窓会だ。
女神様はそれを微笑ましく見つつ、新しく来る参拝客にご挨拶を…という感じ。
そして休憩スペースには…
「こんにちは、温かいお茶をどうぞ」
お盆を持ったうさ耳美子がお茶を配っている。
「おやおや、美子ちゃん、お手伝いえらいねぇ」
「頑張っているねぇ

もっとみる