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居酒屋名店探訪! 門前仲町 魚三酒場 第1回(パロディ古今和歌集等付きです)

今日は久須美さんに誘われて門前仲町の名店「魚三酒場」にやって参りました。
久須美さんはフレンチ、イタリアン、中華、和食、なんでもござれ、年の頃40代半ばの腕っこきのイケメン料理人です。
彼のイケメンで優しげな「ますらおぶり」をお見せ出来ないのが残念です。

お店の外観はこんな感じです。週半ばですが若干並んでいる人がいますね。

中村先生! またまたタイトル画像にご登場下さいましてありがとうございます。
お疲れ様です。本当に感謝申し上げます。
これからもよろしくお願い申し上げます。

我こそは老舗の居酒屋なり!
遠からんものは音にも聞け 近くば寄って目にも見よ!
こんな感じで実に堂々とした店構えですよね。

久須美さんが言うには、2階の方が空いていることが多いとのことなので2階に来ました。こちらも並んでいる先客が4人いましたが、回転良くそんなに待たずにお店に入れました。

向かって左の方は満足げな表情で酒を口に運び、
右の方は酔眼ドロドロって感じでした。(笑)

店内はこんな感じです。ぐるりと紙の札の品書きが店中に貼り巡らされていて、まさに正しい老舗の居酒屋という雰囲気を醸し出しております。

ビールの大瓶をまずは頼んでから、つまみの選定に入ります。

はい! あっち見、こっち見、ぐるりと首を回して後ろ見て、はい!
もう一度! はい! 
あっち見、こっち見、ぐるりと首を回して後ろ見る。はい!
遠くの札には目を凝らす。はい! 目を凝らす! はい!

うーん、決められない。(汗)

むら札に飽きぬ目こちごちうちなびき心一つを何にや寄すらむ

左大臣時平公の歌をパロりました。

元の歌は多くの素敵な男性とかかわっているからなのですかね。揺れ動く女心を秋の風になびく女郎花に見たてたものだったのに、居酒屋のメニューを選ぶのにさんざん迷う歌にされちまったよ。(笑)

むら ⇒ 同類のものが群がっている様子。むれ。
飽きぬ ⇒ 飽きない。「ぬ」は打消しの助動詞「ず」の連体形です。
こちごち ⇒ あちこち。あちらこちら
何にや寄すらむ ⇒ (心を)何に寄せようか。 
         や~らむ ⇒ 係り結び(「や」は疑問を表す)
                                 らむ ⇒ 現在推量の助動詞「らむ」の連体形「らむ」
         この歌では単に推量を表しており、推量の助動詞「む」     
         と同義です。

あちこちに群がっている品書きの紙の札に目が引き寄せられて、眺めているだけで楽しくて飽きないです。あっちのメニューに心がいき、こっちのメニューに心がなびき、ほんと、どれを選んだらいいだろうかと悩んでしまいますよね。
(ここのところ上の歌を訳しています)

僕が決められないので久須美さんにお任せして注文してもらいます。

久須美さん、店員さんの方を見ます。気を発します。店員さんの姿勢がこちらの方に向いてきます。
さあ、目が合うか、目が合うか!?
ああっと残念! 店員さんはあっちを向いて向こうに行ってしまいました。

仕切り直しです。久須美さん、店員さんを見つめ直します。見つめます。見つめます。気を発して右手も軽く挙げました。
今度は合いました。合いました。しっかりと合いました。店員さんと目が合いました。視線をがっぷり四つに組んでいます。
「べったら漬け、むつの子煮つけ、このしろ酢締め、肝付きあわびをお願いします!」
「はいよっ!」
「あっ、それからコップ酒の冷や……、えっと松井さんも飲みます?」
うんうんと頷く僕。
「コップ酒の冷やを2杯お願いします!」
「あいよっ!」と、力強く店員さん。

さてさてここで、このコップ酒を頼むタイミングについて説明をしなくてはなりますまい。
実はこれ、飲む時の定石、「とりあえずビール戦法」のバリエーションの一つなのです。
皆様もご存じの通り、「とりあえずビール戦法」は飲みの戦法として優れた定石中の定石ではありますが、一つ弱点があります。
それは、酒の弱い人がビールを一通り飲んでから次の酒に移ると、酔いが回ってきて、せっかくの料理の味も酒の味もわからなくなるという問題があるのです。

僕は前職での駆け出しサラリーマン時代、よく先輩方から怒られました。
「おい、松井! ビールを全部飲み干してから次の酒に移れや。ごらぁ!」
つまみについては同時にいろいろ頼んであっちつまみ、こっちつまみするのに、酒については一つ一つ片付けていかなくてはならないという固定観念があるのです。
しかし固定観念にいつまでも縛られていては人間進歩はありません。
そこで僕は考えました。酒だって同時にいくつも頼めばいいじゃん。少なくとも同時に2種類頼むのは全然ありじゃん!
そしたら時間差でとりあえずのビールを楽しみつつ、別の酒もすぐに飲めるじゃないですか。
だからこの飲み方は、「とりあえずビール戦法」のバリエーションの一つなのです。
これは酒に弱いものにとっての福音です。僕は道を開いたのです。たとえ酒に弱くても、複数の違った種類の酒を味わいつつ、それぞれの酒と料理とのハーモニーを楽しむ道を。

しかしこの僕が艱難辛苦の果てに編み出したこの戦法を久須美さんがあっさりものにしていたとは。久須美さん恐るべし。恐るべし。
(て言いますか、大袈裟に語っておりますけど、誰でもこんなこと簡単に思いつきますよね。何いきっているんだい? という感じです。(笑笑))

コップと酒が運ばれて参りました。目の前で酒を注いでくれます。
これぞ正しい「冷や」の日本酒のコップ酒。

ほれぼれ~(^^♪

「冷や」というのは常温のことです。念のため。
最近は「冷や」と言ってもなかなか意味が通じません。冷蔵庫で冷やした酒のことを「冷や」だと思っている人が大半になってきています。
日本語の乱れはかかる有様。なんと嘆かわしい。
しかしこの店では「冷や」は「冷や」で通じます。
素晴らしいことです!

久須美さんが僕に声をかけます。
「松井さん。この酒一杯いくらすると思います? あちらの品書きを見て下さい。なんと今どき210円なんですよ!」

向かって右から4枚目の札を見て下さい。

おおおお! なんとすごい! スゴすぎる! 
刮目して見よ! コップ酒210円の札を!

これ、ニューヨークで飲んだら3000円はするんじゃないかな!?(笑)
アメリカの平均年収は日本の1.5倍とも2倍とも言われているけれど、そんなんじゃ全然割りに合わないね!
今僕は、日本に生まれた幸せをかみしめています。
「ぼくぁ、しあわせだなぁ~」 古い(笑)

門仲の老舗の飲み屋の片隅で我泣きぬれて酒とたはむる

石川啄木をパロりました。(笑)

だいぶ語ってまいりましたが、まだつまみは出て来ておりません。
まだかなあ~。

さてさてこれから出てくるつまみ達を僕達はどのようにして攻めていくのか? 怒涛のように押し寄せる「つまみ軍」の攻勢をいかにして受け止めていくのか? そして酒は? パロディ和歌もまた詠むのか?

続きは次回のお楽しみということで、居酒屋名店探訪!  門前仲町 魚三酒場 第1回 はこれにて終わりとさせていただきます。

ここまでお読みいただいた方々、ありがとうございました。ぜひとも門前仲町 魚三酒場 第2回 もお読み下さいますよう謹んでお願い申し上げます。
どうか以下のリンクから【門前仲町 魚三酒場 第2回】にお進み下さい。

https://note.com/embed/notes/n2dce8a40529e


女郎花秋の野風にうちなびき心一つを誰に寄すらむ

左大臣藤原時平 古今和歌集巻第四 秋歌上230

東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる

石川啄木 「一握の砂」


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