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高さんと花束

この時期になると、大昔の同僚、高さんのことを思い出す。背が高く、足はすらっとしているのにガタイの良い上半身に大きな顔。サザエさんにでてくるマスオさんの同僚、穴子さんのような分厚いくちびると、ぎょろっとした二つの目。七三の坊ちゃん刈り(白髪まじり)というオリジナリティーあふれる髪型をしていた。

エネルギッシュな人で、とにかく声が大きい。リアクションも大きい。嬉しい時も怒る時も、感情をストレートに表す人だったので、見ていて飽きなかった。全身で喜び、全身で怒る、そんな印象を抱かせる人だった。

業務上、高さんは何さんとペアで仕事をしていた。何さんは、これまたなんというか、マンガのキャラクターのような顔をしていた。カワウソを人間にして、年とらせた感じ。目は小さく、頭はバーコード、小柄で小顔。高さんと並ぶと小粒感が増した。

寡黙で職人のように仕事をこなす40代半ばの何さんと、雰囲気も顔もしゃべりもにぎやかな30代前半の高さん。対照的な二人だった。高さんは日本語が上手かったので普段は活躍していたが、突発的な何かが起こると、圧倒的なリーダーシップをとって見事にその場を収めるのは、いつも年長の何さんだった。

彼らと働いて一年半が過ぎた頃、高さんの任期に終わりがやってきた。
お別れ会。まずは支店長が高さんの努力を称える。続いて何さんが感謝を述べる。他数人のスピーチが続く。お礼スピーチに立った高さんは、感動と興奮で、大きな顔が赤く染まっている。耳まで赤い。

大きな声とリアクション満載の、高さんらしいスピーチが始まった。あぁ、こんなふうに自分に酔っている彼を見るのももう最後なんだなぁ、そんな思いでしんみりする私。愛されキャラの高さんに皆似たような思いを抱いたのか、その場の雰囲気がちょっと湿っぽくなった。

そして最後の花束贈呈の時がやってきた。黄色やピンクや橙や白、高さんの賑やかなイメージで作ってもらった大きな花束を両手で持ち、うるうるとした瞳の高さんの前に進みでる私。高さんと私をぐるっと囲むように同僚達の輪ができている。

「高さん、いままでお世話になりました。本当にありがとうございました。高さんとお仕事させてもらえて幸せでした。これからもどうぞお元気で、たくさん活躍してくださいね。」

真っ直ぐに花束を差し出す。感動に震え、潤む瞳で私を見つめかえす高さん。そして花束を受け取った彼はこう言った。

「ありがとう!なんてきれいなたなばた!

高さ~~~ん!!!! 感極まっちゃったのね~~~!!!
日本語がわかる人間はみな爆笑し、みんなの涙が瞬時にひっこんだのは言うまでもない。

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