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#5 パリに飛んで自由を手に入れたおはなし


28歳になる春、

5年ぶりにフランス語の辞書を開いて、フランス刺繍で最も有名な学校、École LESAGE(エコール・ルサージュ)に入学希望メールを送りました。

学校と言っても、お教室のようなところなので、入学日は学校側と本人とのスケジュールの都合が合う日に定められます。
人気の学校なので、私の入学日はアポをとった2ヶ月以上先の、6月でした。


3月末に退職し、出発までにビザを申請したり、お小遣い稼ぎに派遣でアルバイトをしたりと、留学の準備を少しずつ進めていきました。


天職だった仕事を辞めたことが、本当に良いことだったのかそうでなかったのか、正直はっきりはわかりません。
ですが、次の一歩を踏み出した私の心はとても晴れやかでした。

働いていた時よりも生き生きしているねと、先輩にもデザイナーさんにも言われちゃいましたしね。


それに、自分から行動を起こしたことによって一気に新しい出会いが増えて、
私の仕事に関わるものであったり、そうでないものもありましたが、それがすごく嬉しかったのです。

もちろん、会社にいた時だって何かしらアクションを起こせば色々な出会いがあったかもしれませんが、思考まで閉鎖的になっていて、行動しようという考えすらありませんでした。

このタイミングで退職をしたのは、私の人生の中で一度、心の休憩をするために必要なものだったのだと、そう思いました。



思い返せば、今までずっと休まずに走り続けてきましたからね。




留学先は、ルサージュのある、フランス・パリ。

苦手科目とはいえ、18年も学んできたフランス語と、自分の仕事が結びついた瞬間でした。

思い出せば、第一外国語を英語に選択する機会は何度もありましたが、それでもフランス語を学び続けたのは、フランスが芸術の国であるから。
芸術の才能を持つ自分には、いつか必要になるのではないかという先行投資的な気持ちがあったからでした。

フランス語を第一外国語に学ぶ学校に入れた両親も、昔から国際的になってほしいという願いがあったようで、残念ながら私の外国語の才能は破滅的でしたが、ようやくここで活かすことができると喜んでくれていたようです。


ビザは、まだ30歳になる(正確には31歳の誕生日を迎える)までに3年残っていたので、ワーキングホリデービザはとっておいた方がいいと勧められ(最初からワーホリで行くと、最初の数ヶ月は生活に慣れるのだったり、学校に行ったりで潰れてしまって、実際働ける日数が減ってしまうので、他のビザで行って現地に慣れてからまた帰国してワーホリビザを取り直して行った方が1年の期限丸々働くことができる可能性が高い、というアドバイスから)、学生ビザの条件も満たしていなかったので、ビジタービザを申請して行きました。

期間は5月末から12月末までの7ヶ月、ルサージュのカリキュラムに合わせてのスケジュールでした。


ルサージュのことについてはまた別の時に詳しくお話ししようと思っていますが、
私はレベルが1〜8あるうちの、1〜5の内容が凝縮された特別コース、授業時間数が150時間のプロフェッショナルコース、オートクチュール刺繍というコースを選択しました。
(本当は1〜8全て受講したかったのですが、なんせ授業料が高いものですから…基礎さえ学べれば、ということで。)

授業は150時間と言いましたが、一コマ3時間で習うことはほんの少しで、
そのほんの少し習ったことに対する宿題の量が5倍、10倍だったりして。
家で宿題をやる時間を余裕を持って見積もって、週に2〜3コマ入れるスケジュールにしてもらいましたが、今まで針を持ってきたというのもあって、思っていたよりもスムーズにいくことが多く、余った時間は美術館へ行ったり、パリ中の名所という名所を観光したりして充実した毎日を過ごすことができました。

大好きなスイーツを限られたお小遣いで買うのが些細な幸せだったり、
この仕事をするようになってから初めてのパリだったので、ただの旅行をする時とは視点が変わり、オシャレな街並みやモードの世界の近さに感動したりして、一日一日が刺激ある日々でした。


あ、それと、実は初めて一人暮らしをしたのもこのタイミングでした。

川崎市生まれ川崎市育ち、愛情たっぷりの両親に支えられ、ぬくぬくと実家に甘えていましたが、
一人暮らしに憧れがあった時期もあったので、パリという、初めてにしてはちょっとハードな場所になってしまいましたが、念願を叶えることもできました。

逆に今まで一人暮らしをしたことがなかったおかげで、パリの生活にすぐに慣れることができたと思います。



そしてパリでは、更にたくさんの素敵な出会いがありました。

さすがに世界に飛び出してくる人たちはすごいですよね。
みんな各々すごい経歴を持っていたり、強い意志があったり。
今まで、初めてあった人に自分の経歴を話すと、「すごいね〜!世界が違う!」と言われて来ましたが、パリでは、「そうなんだ〜!私はね…」と、同じ目線で話してくれる人がたくさんいたんです。

一方的に尊敬するとか、尊敬されるとかじゃなくて、お互い尊敬し合えるってとても素敵なことじゃありませんか?

そんな出会いがたくさんあったんです。
それがパリに来てよかったと思った一番の理由でした。




ルサージュで刺繍を学びながら、私は今後のことをずっと考えていました。

帰国したのち、私はどうなりたいのか。

選択肢はいくつかありました。



縫製職に戻る(ただし、ドレスをオートクチュールで作るという会社はほぼないので、ドレスのお直しか、普通のアパレルのサンプル作り等の仕事をする)

刺繍職人を目指す(ただし、刺繍の仕事の需要が日本は少ない)

両方とも中途半端になってしまう恐れはあるけど、縫製と刺繍を両立した仕事をする

全く関係のない仕事をして、縫製も刺繍も趣味の範囲にする



初めはどれもしっくりきませんでした。

ですが、ルサージュに来ている生徒の大半の人は今の自分の仕事などにプラスで刺繍を取り入れようとしている人たちで、服飾ではないという人もいたし、私のように縫製ができる人は意外にも少なくて、縫製もできて、刺繍もできるというのは私の強みになるのではないかと感じ始めました。

今はまだ、この仕事にする!とは決められないけど、色々なことを経験して、何が自分にしかできなくて、何を自分の売りとしていけるのか、こうして見つけていくのがとても大切なことではないか、と思うことができるようになりました。


最後は、ルサージュを修了してから帰国まで1ヶ月時間があったので、同じくフランス刺繍の学校、Ateliers Darolti(アトリエ・ダロルッティ)で、ウェディングドレスに活かせそうなレースへの刺繍をするコース、オートクチュール刺繍レベル7を修了させ、帰国しました。


このように、第一目的であったフランス刺繍の技術の習得の他、フランスの文化や歴史、生活習慣、一人暮らしの経験、色々な分野で活躍する友人との出会いなど、たった半年ほどの留学でしたが、様々なことを学び、多くのものを得、私の心のエネルギーは満タンになりました!




帰国して、さぁこれからどうしようと思った瞬間に、元会社のデザイナーさんから、ちょうど会社の繁忙期に入るところだったので、手伝いに来てほしいという連絡がありました。

退職をしたのに手伝いに来てほしいと声がかかるのは、私の技術を認めて必要としてくれていると、自惚れかもしれませんが、嬉しく、またオートクチュールのドレスを作りたいという思いもあったので、すぐに赴かせていただきました。


そして元会社で仕事をしながら就活をしようと考えていましたが、
幸いにも、何人かの知人からお仕事の依頼やお誘いを受け、
元会社のデザイナーさんからも、このまま、繁忙期は会社で、それ以外の時は在宅で、外注としてやっていかないかとご提案をいただき、
私が今まで培ってきたドレスの縫製や、フランスで学んだ刺繍の技術を活かせるのであれば、それが一番やりたいことであったので、お仕事をいただけるうちは挑戦してみようかなと、
フリーランスで活動をするという結論に至りました。


フリーランスで仕事をするということは、収入の不安定さであったり、自分で全て計画・管理して仕事を進めていくなど、不慣れなことも多々あって不安なことだらけですが、
なんだかんだじっとしていられない私には、自由に動けるスタイルで向いているんじゃないかなと思っています。

パリで、かなり度胸もついて帰ってきましたしね。
それにまたいつパリに行くとなるかもわからない(ワーホリビザも残していますし!)今、もう少し自由のままで仕事をして、今後もしまた会社に所属したいと思ったときは、しっかり覚悟を決めて務めさせていただこうと、そんな気持ちでいます。


貯金ゼロ、仕事がない時は、来月どう生きていこう?となる時もありますが、笑

何も妥協をすることなく、大好きなドレスに触れて仕事ができることは本当に奇跡的なので、
とても恵まれた状況であると思っています。


もちろん、好きなことをやっているからと言って、100%良いこと尽くしというわけではありません。
辛いこと、悩むこともたくさんあります。
何度もやめようかと思ったこともありました。

でもそんなことを思う時にいつも、お客様や依頼主様が喜んでくださったり、自分が製作したものがニュースやテレビに出たり、友人の結婚式で役に立てたり、とても些細なことでも、「あぁ、この仕事をしていてよかった」と思う瞬間があるのです。
その瞬間に、私はいつもいつも支えられています。




私の才能は神様がくださったもの。

私にはできないことがたくさんあるけれど、たったひとつあるこの才能を花開かせていくこと、

それが一番の社会貢献で、私の人生だと、


今強く、感じています。






ご拝読ありがとうございました!
最初考えていたより、ずいぶんと長い自己紹介になってしまいましたが、少しでも私のことを知っていただいて、廃れつつあるオートクチュールの世界にご興味を持っていただくきっかけとなればと思っています。

今後とも、どうぞよろしくお願い致します。



2018.4.17 まや

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