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花日和

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私が撮った花の写真と、その花にまつわる小さな話
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花日和 さくら

花日和 さくら

会社を辞めて
一番やりたかったことは
花見だった。

花見って言っても、みんなでワイワイやるやつじゃない。
名所の桜をみにいきたいわけでもない。
ひとりで近所の桜の下を歩くだけでよかった。

そんなの、会社に勤めてたってできるだろうと思われるかもしれないけど、それは違う。
断じて。

ベストな天気で、ベストな時間帯に、ベストな桜がみたかったのだ。
よく晴れた暖かい昼間、混雑していない場所で、満開の

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花日和 朝顔

花日和 朝顔

朝、起きること。

学生のときから、日々の一番の目標はこのことだったと思う。

とにかく朝起きることが苦手で、いつまででも寝ていられる人生だった。
寝坊もしょっちゅうで、
バス停まで必ず全速力で走って行った。

更に、社会人になると、夜中まで仕事するようになり、その時間が増えれば増えるほど、朝はどんどん重たくなっていった。

あまりにも朝が苦痛なので、
まあいっか、苦手で…死ぬわけ

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花日和 紫陽花

花日和 紫陽花

紫陽花が、色褪せはじめた。

紫陽花は、終わり方がしぶとい。
だんだんと色が抜けて
茶色く、しなしなになって
枯れ果てるまでそこにいる。

散り際が潔い桜と真反対だなあ…
とよく思ったものだ。

紫陽花は好きだけど、
その枯れ果てた姿を少し見苦しいと思って
紫陽花が色褪せはじめると
私は目を逸らすようになるのが常だった。

なんだか、私の未来のようだと思うのだ。

私は、本当は、桜のように美しいま

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花日和 ノウゼンカズラ

花日和 ノウゼンカズラ

「あの花って、なんていうの?」
ばあばにそう尋ねると、大抵は正解が返ってきた。
『あれはノウゼンカズラ』

ばあばに名前を教えてもらった花は、
何故か、いつも少しだけ特別な花になる。

私の実家のまわりは、マンションよりも一軒家が多かったので、それにともなって庭から見える木や花を目にする機会も多かったように思う。

そのなかでも、夏になると鮮やかなオレンジ色の花をつけるノウゼンカズラは馴染みの存在

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花日和 くちなし

花日和 くちなし

くちなしの花の香りは、私を取り戻すために必要な魔法だった。

学生の頃は、1時間半の電車通学をしていた。
携帯のパケ放もない時代。
窓から見える空の色の移り変わりが小さな幸せだった。

でも、社会人になったら、空の色を気にしてる余裕なんか一瞬でなくなった。

毎日くたくたになるまで働いて、
帰り道は電車では携帯をいじり、
電車を降りたら、今日うまくいかなかったことを思い返しながら俯いて歩く。
仕事

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