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ものがたり) 夢路にて

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帝都の実力者・汐見子爵と人気役者・篠乃井冬月との出会いとその後のものがたり。
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記事一覧

ものがたり) 夢路にて#8

 冬月が心の中でため息をついていると、師匠、と青葉がそわそわと呼びかけた。  「ん、どう…

紺珠記
1年前
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ものがたり) 夢路にて#7

 汐見の車に送られて篠乃井座に帰ってくると、冬月の住む離れでは、弟子の青葉が唐唄をさらっ…

紺珠記
1年前
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ものがたり) 夢路にて#6

 車が緩やかに速度を落とし、楽の音がかすかに聞こえて、汐見は目を開いた。  着きましたよ…

紺珠記
1年前
2

ものがたり) 夢路にて#5

 汐見が先代子爵の遺言に従って留学に出立したのは、士官学校を卒業して間もない夏のことだっ…

紺珠記
1年前
3

ものがたり) 夢路にて#4

 「今日も篠乃井座ですか」  綜合企画院の正面玄関につけた車に乗り込むと、助手席から執事…

紺珠記
1年前
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ものがたり) 夢路にて#3

 昼間は花曇りの一日だったが、空は今も薄い雲に覆われて、朧ろな月の光が夜の街を照らしてい…

紺珠記
1年前
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ものがたり) 夢路にて#2

 ガス燈が照らす街路は、もう人影もまばらだった。深夜に近い大通りには、汐見と冬月を乗せた車のほかに、走っている車はほとんどない。  後部座席で汐見はさきほど終わったばかりの夜会のことを、というよりは、冬月の舞台のことを思い返していた。  汐見家の客館で行われた今夜の舞台は成功だった。  叔母の千津子をはじめ、女性客たちは冬月の姿を見ただけで狂喜していたし、芝居好きの財界人はもちろんのこと、さして興味のなさそうだったお歴々も、気がつけば冬月の優美な所作に釘づけになっていた。すべ

ものがたり) 夢路にて #1

 巷で話題の役者、篠乃井冬月を夜会の余興に招ぼうと言い出したのは、汐見子爵の叔母・千津子…

紺珠記
1年前
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