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モモカツと退職とわたし。

この間の日曜日、両国でライブをした。終演の頃にはもうお腹がぺこぺこで、自宅の最寄り駅に着くと、吸い込まれるようにとんかつ屋さんに入ってしまった。「トマトモモかつ定食」というのが、そのときわたしが頼んだメニュー。柔らかいモモ肉かつの上に、トマトとチーズの合わさった酸味のあるソースがかかっているというもの。サクサクの衣の上に、赤い温かそうなソースが湯気を出している。機材トラブルもあったけれど、今日は何だかしっかり歌えていた気がするし、ご褒美だよなあ…と、香ばしいそれを口に運んだ。

すごいヤケドした。

もうめちゃくちゃヤケドした。ヤケドというレベルじゃない、これは大怪我。大事故。上顎ズルムケですわ、上顎ズルムケトライアングル。たこ焼きなどもそうなんだけど、一度口に入れてしまったものは、それが死ぬほど熱くても吐き出せない性分なのです。ああ、しかも口角炎の左口角も援護射撃をしてくる。

あれ?食事、ゼンゼン、タノシクナイ!

食欲よりも痛みが勝っていく。青じそドレッシングで左口角がしびれ、カツの鋭利な衣がただれた上顎が削る。こんなに好きなのに、とんかつこんなに好きなのに…!!涙で視界が歪む。あれは本当に修行のような食事だった。

次の日、なお上顎に翻弄されているわたし。昼食はコンビニでゴマ豆腐などを買って食べる。仕事帰り、退職する職場へのお菓子を買いに行った際も、試食に勧められるクッキーを三度に渡って断る。「あの、食べたい気持ちはあるんですが、口がその…荒れているもので…」店員さんの乾いた笑い。無念。


そんな上顎ズルズルの状態で、本日わたしは無事に職場を退職した。ざっくり言うと“お手洗いで人に会いたくない”ことが、退職の決め手となった。お手洗いにいるときって、とってもナイーブだし、極力人にも会いたくない。もし個室の外で盛り上がっている人々がいたら、彼女たちが去るまで居座ってしまいたいくらいだ。(いや、実際それで30分間個室に籠ってしまったこともある)もちろんこの言い分はバカバカしいし、自意識過剰だし、お前は何様だ!ということは重々承知している。しかし、わたしには「お手洗いは社交場」=「会社が社交場」という文化の人々の中で、週5日間を過ごすことが本当に憂鬱になってしまったのだ。

社交場に出ないことには、お金も手に入らない。そこで、在宅で仕事をはじめることにした。それまでは中途半端なコピーライターをやっていたが、在宅の方では大手求人媒体の原稿を扱うため、本格的なライティング業務が必要になる。望むところだ!と1月半ばころから案件をもらっていたのだけど、週5勤務+原稿週1~2本というペースなのでとにかく忙しく、今日にいたるまで、noteもエッセイ漫画も全然描けずにきてしまった。

とはいえ、この在宅だけでは食べていけないのが実情。しかしもう週5日は会社に行きたくない…屈強な気持ちで仕事を探していると、運よくライターを必要とする会社への仕事が決まった。3月からは週3日出社し、週2本ほど原稿を書く。ワガママにワガママを積み重ねて、ついにはこうなった。


今日、職場のみなさんから餞別の品をたくさんいただいた。正直、わたしはみなさんが苦手で、空気のような存在で日々原稿を書いていた。悪い人たちではない、それは分かっていたが、明るく無神経なみなさんが好きになれず苦しんだ。逆も然りで、わたしは仕事に対しては熱心に取り組んだが、コミュニケーション面では努力をしなかった。不快に思われても仕方がないと思う。だから、何やらみんなが一言書いたと思われるノートを開くのは勇気が要るし、いただいたお菓子やら何やらも非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だけど、今やお手洗いで人に会いたくないことよりも、ちゃんと書く仕事をしたいことの方が重要、という移ろいやすい乙女心なものだから、もう堂々と退社して行こうと思った。

駅前にはいつもマイクを持ったインタビュアーと、カメラを持ったテレビ局風の人がいた。だけどわたしは一度もインタビューをされたことがない。OL感を微塵も感じさせない出で立ちが原因だと思われるんだけど、それでも彼らの前をゆっくり歩いてみたり、時間がある風に見せてみたりしたものの、やはり少しも相手にされなかった。そして最終日の今日も、結局インタビューされなかった。いろいろあったけども、最終的にはそれが一番切ない思い出かもしれない。


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