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27歳

ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリンのように、27歳で死にたいとか、逆に27歳まで”生き延びてしまった”みたいな発言をするような、「27歳」を特別視する一部のムーブメントが苦手である。今の若い方たちの中に、この27歳を特別視する人間がどれほどいるのかは不明だが、わたしが20代の時には「俺は27歳で死ぬ」と豪語する者、無事27歳を迎えた事実を何かしら含みを持たせてアピールする者などがいた。

「27歳」とは若くして他界した才能あるミュージシャンやアーティストの代名詞のようなものである。そんな享年27歳のアーティストたちを一覧にしたリスト『27クラブ』や、書籍『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』といったものも存在するくらい、この27歳という年齢は特別なものとして流布されていた。

本日はわたしの大切な友人の命日である。
享年26歳。当時、彼は約一ヶ月後には27歳になるはずだった。そしてわたしは彼の死を知った時、薄ぼんやりと”彼は27歳まで生きなかったのだな”ということを考えた。知らず知らずのうちに、わたしもどこか「27歳」という年齢を意識していたのかもしれない。以来、自分の中で「27歳」の印象が少し変わった。27歳で死にたいだとか、27歳まで生きてしまっただとか、そんな考えや発言をなんだか疎ましく感じるようになった。そうやって27歳という数字にばかり固執する人間のもとに、都合の良い死などやってくるものか。
友人は26歳でこの世を去った。それはあまりに早すぎる死であった。

最近本屋で手に取った本に、この「27歳」にまつわる一文で始まるものがあった。主人公の祖父や父親は27歳で他界した。まるで27歳で必ず死ぬ呪いをかけられている一族のようだ。そしてそんな父親の息子である主人公も、つい先日27歳を迎えた…そんな話から始まるストーリーである。
その冒頭を見た瞬間わたしはまたもやウンザリしてしまい、本をもとの棚に戻した。どうやら「27歳」をドラマチックに扱う描写にイライラしてしまうらしい。この本は買わないだろうと思い、別の本棚を見て回ることにした。
そうして本屋の中をぐるぐると徘徊するも、なかなかピンとくる本が見つからない。しかし、その日はどうしても本屋で本を買いたかった。普段、古本ばかりを読んでいるので、たまに本屋で買った真新しい本が読みたくなる。絶対に1冊は買って帰りたかった。
そして結局、先ほど本棚に戻したあの本を買って帰ったのである。一度難癖をつけたものの、その本はなかなか面白くすぐに読み終えた。読了後、27歳に関する表現を毛嫌いするのは良くないかもと、少しだけ反省した。

話は戻って亡くなった友人の話。
わたしにとって彼は短大時代の数少ない学友であった。出席番号が前後である我々は、調理実習だとか、実験だとかのグループワークでは必ず一緒の班になり、彼はわたしとの無駄話に興じながらも、実習や実験での自身の役割をいつもしっかりとこなした。わたしはというと、比較的楽な役回りを任され、その場に参加している”格好”を取りつつ、彼のルーズリーフに書かれた実験結果をありがたく写したものである。在学中のわたしの成績は散々なものだったが、サークルでの音楽活動と、友人である彼との交流は非常に楽しいもので、彼とは短大卒業後もその交流は続いた。

社会人になってから、わたしは現在活動しているバンド・カタカナの一員となる。学生の時分からわたしのバンド活動を見ていた彼を、もちろんカタカナのライブに招いた。それどころか、バンドのアルバムリリース時に敢行した地方ツアーのドライバーを任せたこともある。あの時、わたしは自分の自慢の友人をバンドメンバーに紹介することができて嬉しかった。そしてバンドメンバーたちが彼を慕ってくれたこと、そんな魅力的な友人を持てたことが非常に誇らしく、幸せだった。

彼の死因は自死である。
その原因や当時の彼の心境について、もう何度ともなく考えたが、結局納得できるオチも情報もない。ただ諦めの悪いわたしを見かねてか、友人が何度となく夢枕に立って、自身がもうこの世ではない遠くの場所にいるということを伝えてくれたので、現在は現実を受け止めることができている。
今でもたまに彼は夢に出る。その時の我々は短大生、場所は大学であることが多く、一緒に授業を受けていることが多い。わたしは楽しくてたまらなく、取り留めのない冗談や悪口を彼に言う。すると彼もまた、当時と変わらない含みのある笑みを口元に浮かべながら、わたしのふざけたお喋りに付き合ってくれるのだ。我々は決して悪友ではない。だけど一緒にいると、いつもニヤニヤと悪だくみをしているチープな悪友のような雰囲気が醸造される。そうして、ある事ない事のべつまくなしに、くだらないお喋りに興じる。当時も、夢の中でも、わたしはその時間が大好きだった。

明日はカタカナのライブがある。恐らく、年内最後のライブとなりそうだ。
そういえば、彼が亡くなってから作った「インタビュー」という楽曲。この歌詞は、友人のことを考えながら作った。明日も、この曲を演奏する。
彼がこの先も「インタビュー」を聴けないのは当たり前だけど、なぜ、という不思議な感じがする。聴かせてあげたいくらい、なかなかカッコいい曲だ。おまけにMVは非常にユニーク。もし視聴したら、笑い転げてくれるだろう。
天国にテレビはあるだろうか。YouTubeは観られるだろうか。彼の「インタビュー」の感想、いつか聞いてみたいな。

※本来は明日更新のnoteでしたが、明日はライブで終日取り込んでいるため、1日早倒しでの更新となりました。

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