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「私がこれまでに聞いた最上の話とは、要点のないものであったし、最良の書物とは、どんな筋だったか思い出せないようなものであったし、最高の人間とは、一緒にいても何にもならない人だった」(ヘンリー・ミラー) 2021/02/21

 日曜日はプールの送りなのだが、妹も連れて出ることに。待っている間公園で遊ばせ、佐々木中『アナレクタ2 この日々を歌い交わす』を読んでいた。ここのところエンタメ系の小説を多めに摂取していた反動なのか、ちょっと歯応えのある、かた焼き煎餅が食べたい、みたいな気分なんだと思う。

 天気もいいから、とりあえずカメラも持ってきた。まだ朝だというのに、ポカポカしていてアウターいらずの春の陽気で、いつもみている建物を撮ってみたり、止まっているトラックを撮ってみたり、何故か階段を撮ってみたり、していた。公園の木もなんとなく気になって撮った。カメラを持ち歩くとなんとなく気になるもので溢れるのが楽しい。そのほとんどが他人にとって無価値なんだろうなぁというのもなんだか愉快だ。

 カフカの文章は「順次繰り出し型である」と言っています。書き出してから思いつくまま、どんどんつなげていってしまうから、人り口と出口が全く違うものになっている。これは本当にいいことを言っていて、その順次繰り出しで、次々センテンスの中で気が変わっていってもいいんですね。
佐々木中『アナレクタ2 この日々を歌い交わす』P.14

 冒頭から保坂和志との対談で始まるので、いきなりトップギアというか、助走ない感じで始まったもんだから、ほぅっと軽く息を吐いて、娘の姿を探す。ブランコしているみたい。文章もAからBに向かって書かれるんだけど、Bに着くまでにもっと寄り道してもいいし、なんならBに着く必要すらないんじゃないかなって、そういう話ではなかったかもしれないけれど考えていたのはそういうことで、確かにこう散歩のような文章が読みたいし好きで、読んだあと何も残らないような、そういうものが好きなんだよなぁ、と思った。

「私がこれまでに聞いた最上の話とは、要点のないものであったし、最良の書物とは、どんな筋だったか思い出せないようなものであったし、最高の人間とは、一緒にいても何にもならない人だった」(ヘンリー・ミラー)
佐々木中『アナレクタ2 この日々を歌い交わす』P.106

とまぁ、こんな調子でヘンリー・ミラーも似たようなこと言ってるし、古井由吉もこんなことを言っていた。

「あなたが言ったように、読めば読むほどわからなくなる。本を読んで感銘を受けるでしょう、感銘を受ければ受けるほど内容を忘れるんですよ。気韻みたいなものばかりが波打っていて。 おれはなにに感心しているんだろう、と。」
佐々木中『アナレクタ2 この日々を歌い交わす』P.128

 という訳で、とにかく波打っている。何を読んでも楽しいけれど、波打つような読書はなかなかないし、ガツンとやられた感じで頭がくらくらする。満足。


自分の好きなことを表明すると、気の合う仲間が集まってくるらしい。とりあえず、読んでくれた人に感謝、スキ押してくれた人に大感謝、あなたのスキが次を書くモチベーションです。サポートはいわゆる投げ銭。noteの会員じゃなくてもできるらしい。そんな奇特な人には超大感謝&幸せを祈ります。