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今日も、読書。 |"泣き本"をお探しの方へ

メフィスト賞を受賞し、横浜流星さん主演で映画化もされた、『線は、僕を描く』。

著者の砥上裕將さんは水墨画家でもある。水墨画のディープな世界を掘り下げながら、心に傷を負った青年が成長していく姿を描いた。

私は本作を読み終えたとき、砥上さんが次に書く小説は必ず読もうと決めた。心が掴まれるとはこのことか、と思った。

次はどんな題材を取り上げるのだろうと、ずっと楽しみにしていた。そして、あえて事前情報を遮断して、真っさらな状態で『7.5グラムの奇跡』を読んだ。



砥上裕將|7.5グラムの奇跡


国家試験に合格し、視能訓練士の資格を手にしたにもかかわらず、野宮恭一の就職先は決まらなかった。後がない状態で面接を受けたのは、北見眼科医院という街の小さな眼科医院。人の良い院長に拾われた恭一は、凄腕の視能訓練士・広瀬真織、マッチョな男性看護師・剛田剣、カメラが趣味の女性看護師・丘本真衣らと、視機能を守るために働きはじめる。精緻な機能を持つ「目」を巡る、心温まる連作短編集。

あらすじ


『7.5グラムの奇跡』は、新人の「視能訓練士」の青年、野宮恭一が主人公。

視能訓練士とは、視能矯正や視機能検査などを行う、国家資格を持つ専門職だ。

水墨画家の次は、視能訓練士。砥上さんは、一般的にスポットライトが当たりづらい職を取り上げ、小説にするのがとてもお上手だ。


北見眼科医院に就職した野宮くんは、不器用で失敗を繰り返しながらも、様々な患者さんと向き合う中で、一人前に成長していく。

実は砥上さんの妹が視能訓練士とのことで、知り合いの眼科医の方とお話をしたときに、眼科医療に携わる人たちの物語を書くことにしたのだという。


砥上さんは、WEB本の雑誌のインタビューで、次のように話している。

『線は、僕を描く』の青山君は、ものを見ることに関して天才的な青年なんです。そうした天才的な能力を持たずに、前向きに一生懸命働いている人たちの話が書きたいと思いました。不器用な人たちが、自分はこれをやって生きていっていいんだって思える話が書きたかった。それで、一般的に社会に出て仕事をしている人ということで、この職業にしました。

https://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi236_togami/20211224_5.html


野宮くんは、良い意味で不器用なキャラクターとして描かれている。完璧ではないからこそ、目の前のことに全力で取り組む姿勢に感動を覚える。

しかし、「天才的な能力」こそ持ち合わせていないものの、野宮くんは「人の目を覗き込むことが好き」という、得難い特性を持っている。

患者の眼を真っ直ぐに見るからこそ、症状や感情の微妙な変化に、いち早く気づくことができる。好きなことや何気ない習慣が、ときに難題を解決する糸口になることもあるのだ。


まだまだ未熟な社会人(と言いながらこの4月からもう3年目になるのだが)として、本作から大切なことを学んだ気がする。

新人は、当たり前だが、知識も経験もない。新人にできることは、とにかく真摯に仕事に向き合い、丁寧に人と接することだけだ。

相手に寄り添う姿勢が、信頼を生み、肝心なときに助けてもらえるような関係性を築くきっかけになる。今一度初心を思い出して、真摯に仕事と向き合いたいと思った。


7.5グラムとは、人間の眼球の重さだ。

こんなにも小さくて軽いものが、私たちの見ている視界、世界の全てを支えている。

小さくて取るに足らない存在に思えても、必ず何かの役に立っている。それこそ新人だって、会社を支える重要な存在だ。


どの短編も、心温まる感動に満たされ、涙で視界が滲んだ。全ての短編で、漏れなくうるっと来た。こんな小説はめったにない。

"泣き本"をお探しの方へ。小説で泣きたいなら、本作を読んで損はない。

「7.5グラム」が見せる奇跡を、ぜひその目で確かめてほしい。



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