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#22 おばあちゃんだけど、時々転生代行救世主やってます

「…美しすぎる?」
 クロサキさんの言葉を思わず繰り返す。そしてチラリと背後に立つミクべ神に目をやる。
 私としては、美しいというよりも可愛い…うん、黙ってたらどこか良い所のお嬢さんという可憐さがあると思う。口を開いたら、とても男性的だったけども。
 地上界のミクべ神は、もう少し砕けた柔らかい口調だったと思うのだけど、もしかして首ごとに性格が違うのかしら?…って、今はそんな話じゃなくて。
「えっと、まぁ確かに綺麗な方よね。でも、それがどういう理由になるの?」
「そうだな…、お嬢さんは「カリスマ」って言葉を知ってるか?」
「その人の魅力というか、男女問わず人を惹き付ける能力みたいなものでしたっけ?」
 上手く説明出来ないながらも、クロサキさんは「そんな所だ」と頷いた。
「上に立つ者として、カリスマ性が高いのは重要な事だ。だが、それが行き過ぎると支持者でなく狂信者となってしまう。相手が神なら尚更だ」
…ああ、この方が何を言いたいのか分かったわ。
「つまり、ミクべ神様の巨大ファンクラブが出来てしまうって事ね」
「ファン…いやまぁ、崎島みたいなのも居たから間違いではないか」
 サキシマさんと言えば、私達に熱いミクべ神語りを披露してくれたあの方。あんな方が国中に溢れたら、それはそれは大変な事になるでしょうね。
 推し活自体は個人でやってもらうには問題ないだろうけど、政に関わるときたら問題となるでしょうし。
「話は分かるけど、だからって神様を手に掛けるのは、やり過ぎなんじゃない?」
「は?私はそんな事してないが?」
「あら、そうなの?」
 普通に考えたら人間と神様じゃ、勝敗は火を見るより明らかなのだから、クロサキさんが言うように人間から手を出すとは考えにくい。でも、何故こんな事に?
 私は答えを求めるように、背後に立つミクべ神へ向くとミクべ神はスっと視線を逸らし、私の足下に居たクロ君に「おいで~」と手を差し伸べた。クロ君はと言えば、面倒くさそうに欠伸をすると丸くなってしまった訳だけど。
「…あー、じゃあクロサキさん、詳しく話してもらっていいかしら?」
 クロサキさんは今迄で1番大きな溜息をついて頷いた。

 クロサキさんの説明を簡単にまとめれば、クロサキさんと口喧嘩をしてミクべ神はフテ寝をしたらしい。
 日本神話でも、拗ねて引き篭った神様が居たけれど、そんな感じだったのかしら?
 しかも、よほど怒っていたのか、ミクべ神はあの寝床で眠った後に、クロサキさん達に手出しされぬよう自らあの透明ゼリー(結界だそう)を作ってたみたい。ただ、その結界が思いの外頑丈に出来てしまったために、ミクべ神の力も遮断してしまい、地下界を支える力が弱まったんじゃないか?とクロサキさんは予測している。ミクべ神も特に否定しない所を見ると、その通りなんでしょう…。
 そして地下界のミクべ神の力を感じられなくなった地上界のミクべ神が、閻魔様経由で私達を派遣した、と。
「本当はもうちょっと早く起きるつもりだったんだけど、怒りに任せて作った結界が思った以上にいい出来でね、内側から壊せなくなって困ってたんだ。いやぁ、君が私の力のカケラを持ってきてくれて助かったよ」
 まるでレジ前で小銭が足りなかった所に代わりに出してくれてありがとう、みたいな気軽さに脱力してしまう。隣のクロ君も(猫ながらに)呆れ顔だ。
 とまぁ、それはいいとして…
「ミクべ神様、ちょっとそこに座りなさい!」
 ピシャリと怒鳴りつけると、勢いに呑まれたのかミクべ神がそそくさとその場で正座をする。
「あ…ぅ…、わ、私?」
「そう!ちょっとは反省なさい!貴女はこの世界を見守るべき神なんでしょう?なのに後先考えず、フテ寝をして世界崩壊寸前にまでさせるなんて!」
「だ、だって…」
「「だって」じゃないの!そりゃ貴女の言い分もあるんでしょうけど、なら何でクロサキさんと話し合わずにフテ寝なんかするの。もういい歳でしょ?」
 神様に年齢という概念があるかどうか分からないけど。
「あと、クロサキさん!」
「え、私も?」
 魔力を使い果たし人の姿に戻れないらしいオオカミさんを労わってたクロサキさんか、驚きに目を丸くする。
「そう!今回の口喧嘩の発端は「もっと神らしくしろ」とか「黙ってろ」というクロサキさんからの文句からでしょ?相手に要求するなら、何故そうして欲しいのかちゃんと理由を言わなきゃ駄目でしょ!でなきゃ、今回みたいにミクべ神様が、一方的に存在を否定されたように思って、嫌な気持ちになるでしょう?」
「は、はぁ…」
 私は2人の顔を見比べ、パンと両手を打った。
「じゃあ、まずはお互いにゴメンナサイしましょ。それからじっくりお互いの気持ちを話しあってちょうだい」
 私の提案に、ミクべ神もクロサキさんも戸惑っていたけども、最初に動いたのはミクべ神の方だった。
「黒崎、すまなかった。ちょっと意固地になっていたようだ」
 頭を搔いて反省の様子を見せるミクべ神に、クロサキさんも慌てて
「い、いえ、こちらこそ!人間風情が神に要求を押し付けようだなんておこがましい真似をしてしまい、申し訳ありませんでした!」
「人間風情なんて言うな。黒崎も大狼も崎島も、この世界の皆すべて私の大切な愛し子なのだからな」
 コホンと咳払いをすると、ミクべ神はゆっくりと立ち上がった。
「うむ、私はそもそも人々の成長を見守るべきだったのに、少しばかり干渉が過ぎていたのかもしれないな。これからは、あまり出しゃばらず、我が子達の生活をじっくり眺めていく事にしよう。ニヤニヤしながら」
「ニヤニヤ…」
 クロサキさんの顔に不安の色が滲んでいるけれど、それに気付いているのかいないのか、ミクべ神がニコニコ笑顔を浮かべ私の方へと振り返った。
「ありがとう、小さな救世主さん。君のおかげで人間と仲直り出来たようだ」
「いいえ、私もつい怒鳴ったりしてごめんなさい」
 神様を叱りつけるだなんて、後でバチが当たらなければいいけど…
「ところで、地上の私はどうやって世界を治めているんだ?」
 治めて…?見た感じ、ただの学生サーファーお兄さんって感じだったけど、実際どうなのかしら?
「うーん?あちらのミクべ神様は、神という事を隠して、人間として生活に紛れ込んでるみたいね。神殿があるから奉られてはいると思うのだけど、周りの人達も神様でなく近所の明るいお兄さんみたいな扱いだったし」
「ふぅん…紛れ込んでる、ね」
 何やら思案しているのか、しばし視線を泳がせていたかと思うと、イキイキとした目で宣言した。
「じゃあ、私も人間達に紛れ込んでみようかな?そうだな…クロサキがキレイだって言ってくれた事だし、いっそアイドルでも目指してみるとするか!」
 その時、この場に居た全員(ミクべ神以外)はきっと同じ事を考えたと思う。

───何言ってんだ、この神───

#23につづく


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