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#26 おばあちゃんだけど、時々転生代行救世主やってます

 ミクべ神宅に戻り、お台所をお借りして簡単な物を作ることにした私。調味料なんかも、私がよく知ってる日本の物とほぼ同じで助かったわ。
 そして、出来上がったいくつかの魚料理を、白ご飯と一緒に頂く。
 まさか異世界で、こんな純和食にありつけるとは思いもしなかった。
 孫達がやっていたゲームや見てたアニメでは、パンやスープだとかの洋食だったから、異世界はどこもそんな食生活だと思っていたし。
 そんな事を考えつつ、お箸が苦手な猫ちゃん達のために焼き魚をほぐしてあげたり、お刺身を小皿に取り分けてあげる。その小皿を猫の姿になった2人の前に置いてやると、ハクハクと美味しそうに食べ始めた。
「なんだか本当にお母さんみたいだねぇ」
 背後から声を掛けられ振り返ると、ミクべ神が面白そうにこちらを見ていた。
「見た目は小さな女の子なのにね」
「まぁ中身は90を過ぎたお婆ちゃんだもの」
 そう言う貴方も、見た目はどこにでも居る海が似合いそうな若者じゃあないの。きっと言われなければ誰も神様だなんて思わないわよ。
 そんな事を私が考えてるだなんて気付いてるかどうか分からないけれど、ミクべ神は私の作ったカレイ(みたいな魚)の煮付けを口にし、「これがオフクロの味ってやつか」と感慨に耽っている。
 その姿が、家を出て働きに上京した息子が、初めて帰省した日の姿と重なり、ふ…と口元が綻んだ。

 その夜、疲れて眠ってしまったシロちゃんを見て「せっかくだし今夜はうちに泊まっていきなよ」というミクべ神の言葉に甘え、私達は彼の部屋で一晩休ませてもらう事にした。
 肉体的疲労は無かったものの、精神的には疲れていたのか、瞼を閉じるとそのままゆっくりと眠りに落ちた……が、やはり年寄りの性なのか、夜中にふと瞼が開いた。
 室内は当然のように薄暗く、微かにシロちゃんとクロ君の寝息が聞こえる。そんな中、窓の方がボンヤリと明るい事に気付いた。
 ゆっくりとそちらへと視線を向けると、開いた窓に寄り掛かるミクべ神の姿があった。
 どうやら窓から外を眺めているらしいけれど、その表情は慈しみに溢れ、とても穏やかで…更に差し込む青白い月光に照らされた横顔が、とても幻想的で綺麗だった。
(ああ…やっぱりこの人はこの世界の神様なんだわ)
 寝ぼけた頭で今更な事を再確認し、私はゴソゴソと身を丸め再び瞼を閉じた。

「またさ、遊びにおいでよ。観光がてらにさ」
 翌朝、私達はまだシャッターが閉まったままの商店街に来ていた。
 まだ開店してない静かな店と店の間にある簡素な扉…最初に私達がこの異世界に来た時に通った扉の前だ。
 この扉は普段は鍵が掛けられているらしいけれど、今はミクべ神によって解錠されている。
「観光って…異世界ってそんな旅行気分で行く場所かなぁ?」
 もっともな事を言うシロちゃんを「まぁまぁ」とミクべ神が宥めすかし、笑って誤魔化す。
「観光は冗談として、何か困った事があれば、閻魔を通していつでも相談してよ。こっちも助けて貰った身だし、できる限りの事はするよ」
「ええ、分かったわ。ありがとうね」
 深々と頭を下げると、クロ君も私に倣って会釈する。それを見たシロちゃんも慌てて頭を下げた。
「では、そろそろ帰りましょうかね」
「はい」
「はぁい!」
猫ちゃん達の返事を待ち、私はドアノブに手を掛けた。
「またね」
  そう言って手を振るミクべ神に私達も手を振り返し、開けた扉をくぐり抜けた。その先にあったのは、コーヒーの香りとこじんまりとした喫茶店のカウンター。そしてカウンター席に座って1人コーヒーを啜る中年男性…閻魔様の姿。
「おかえり。無事救世主としての任務を果たせたようだね」
  カップを持ち上げたまま、閻魔様は私達に労いの言葉をかけた。
「で、あちらの世界はどうだった?」
「はい、お魚美味しかったです!」
「魚?」
「あ、いえ、そうじゃなくてですね…」
 クロ君に口元を押さえられ引き摺られていくシロちゃんに代わり、私はミクベリアで経験してきた事を閻魔様に説明した。
 私と閻魔様は知識が共有されているのだけど、思考や記憶までは共有されてないようで、閻魔様はミクベリアの地上界と地下界での出来事を、とても興味深そうに聞いていた。
「なるほど、あの世界での問題事はミクべ神から聞いてはいたけど、そんな解決方法があったんだな。やはり貴女に頼んで良かったよ」
 クシャクシャと私の頭を撫でる手が思ったよりも大きくて、暖かくて、ちょっとこそばゆい。
「それじゃあ、次の世界での活躍も期待しているよ。でも今はゆっくりおやすみ」
 そう言って、閻魔様はカタンと椅子から降り喫茶店から出ていった。


END
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いったん、この連載はここで終了します。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
続きは他サイトで掲載予定となってるのですが、アップ再開は5月下旬以降になるかと思いますので、再開時は連携してます私のXアカウントをご参照下さいませ。


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