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#21 おばあちゃんだけど、時々転生代行救世主やってます

 ピシリ、とヒビの入った宝石から幾筋もの光が溢れだし、私はギュッと目を瞑った。
 周りの状況は分からないけど、瞼越しに光に包まれている事は分かる。そして、天井がガラガラと音を立て崩れようとしている事も…
「カミヤ!」
 入口方向からクロサキさんの叫び声が聞こえ、私は咄嗟にそちらへと目をやった。
 そこには秘書さん(恐らくカミヤさんと言うのだろう)が立っていた場所に1匹の狼が立っており、その体から黄緑っぽい色をしたモヤが出ていてクロサキさんの体にまとわりついていた。そしてクロサキさん本人は何か小さな声でモゴモゴ何か言っていたかと思うと、天井に両手をかざした。すると、今にも崩壊しようとしていた天井が嘘のように止まった。
「お嬢さん、早くこっちに戻ってきなさい。カミヤも私もそんなに長い間それを止めていられない」
 どうやらクロサキさん達が不思議な力…魔法?みたいな物で私を助けてくれたようだ。しかも、カミヤさんから逃れたらしいクロ君がいつの間にやら近寄ってきていて、ニャアと逃げるよう促している。
 実のところ、あの天井が落ちてきたとしても私やクロ君が死ぬ事は無いんじゃないか?と私は踏んでいる。とはいえ、私が引かなければクロサキさん達も巻き添えになってしまうかもしれない。しかしミクべ神の体が…
「え?」
 宝石をかざしていた手を、棺から伸びた手がガッチリと掴んでいた事に今更ながら気付いた。更にその手の主が落ち着いた声音で話しかけてきた。
「老女をこちらへ寄越すと地上の私が言っていたが、なんだ?年端もいかない幼女ではないか」
 華奢な女性の口から飛び出たのは、随分と場違いな言葉だった。そもそも、もっとお嬢様な雰囲気の神様だと思っていたのだけど。
 棺の中にあったゼリーのような物はいつの間にやら消え、横たわっていた女性はゆっくりと身を起こし、改めて私の事をじっくり観察し始めた。
「おや、少女と思ったら違うのか?そこの黒い毛玉の子も普通の猫じゃないね。君たちは一体何者なんだい?」
「いやあの」
「ん?どうした?」
「今はそれどころじゃなくてですね?」
「んー?」
 ミクべ神はゆっくりと辺りの惨状を見て、最後に入口付近で頑張ってるクロサキさん達に目をやり、少し目を細めた。
「黒崎に狼谷か。久し振りだな。私が居ない間もちゃんと頑張ってるようだな。エラいぞ」
「あんたな…」
 他にも何か言いたげだったけども、今は瓦礫に集中すべきと判断したようで、クロサキさんは黙り込んでしまった。
 それを見てミクべ神はフンと鼻を鳴らし、再度私へと視線を戻す。
「さて、せっかく救世主様が私達の世界を救いに来てくれたんだから、私もそれに応えないとな」
 ミクべ神がサッと腕を上げると、パラパラと降っていた粉塵が空中で止まった。そして巻き戻しボタンを押した時みたいに、天井へと破片やら石片やらが舞い上がり、ヒビが消え元通りになっていく。
「あらぁ…」
 すっかり元通りとなった部屋に、思わず口をポカンと開けてしまう。
 しかしそれをやってのけたミクべ神自身は何事も無かったかのように、「よっこらせ」と棺から立ち上がった。
「さ、地上界から来た救世主さん。アイツらの所へ行こうか」
  ス…と指さされた先では、先程の魔法で力を使い果たしてしまったらしいクロサキさんとカミヤさんが、床の上でへたりこんでいた。
「あらあら大変、2人とも大丈夫?」
 足元に居たクロ君を抱き上げ、私は2人の方へと駆け寄った。
 カミヤさんは伏せの状態のままだったけど、クロサキさんは「大丈夫」と言うように軽く手を上げ応え、少しホッとする。
「瓦礫から守って下さってありがとうございます。でも私たち、敵同士だったんじゃないかしら?」
「目の前でこんな小さな子が瓦礫に潰されるのを黙って見てる訳にはいかないだろう?」
 まぁ、確かに。というか、思ってたよりもこの方達は悪い人じゃないのかしら?
「それに、神の力が消えたら世界が崩壊するなんて初耳だ。そうと知っていたなら、こんな無茶なんてしなかった」
「あら、そうなの?でも何故ミクべ神様に反抗しようと思ったの?」
私の問いかけに、クロサキさんは 私の背後に立っていたミクべ神をチラリと見て
「それは……ミクべ神が…美しすぎたからだ」
そう、言いにくそう目を逸らしつつ答えた。

#22につづく


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