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『当事者研究』ってよく聞くけど何? 改めて学んでみた(1)


大好きなシリーズケアをひらくの本。

「『当事者研究』めっちゃいい!!」と、何も知らないくせに当事者研究のファンの1人だったが、この本を読んで当事者研究についてきちっと勉強してみた。

東大の科学哲学の先生、石原孝二先生編集の本。
「編」、ということで他に誰が書いているのかな、と目次を見てみると……。
べてるの家の向谷地さん、(私の中で)「当事者研究といえば!」の人の熊谷晋一郎先生&綾屋紗月さん、とそうそうたるメンバーのなか、

池田喬先生!!!!!
ケアをひらくに書いてるほど偉い先生だって知らなかった……。現象学の授業を選択科目で取ったら私に95点をくださった(神)です。もっと色んな教えを乞いておけばよかった。

というわけで備忘録として、学んだことは忘れないように、改めて印象に残ったことや感じたことをここにメモしておく。
じっくり内容を噛みしめるために一章ずつ。

まずは、第一章、石原孝二先生による『当事者研究』という研究の概説
当事者研究の理論的背景とべてるの歴史 → 研究の当事者/研究者双方についての意義 → 当事者研究への批判、と論点をもれなくわかりやすく紹介してくれる章だ。
中でも独断と偏見でぐっときたポイントについてメモ。


【ぐっとポイント(1)】そういえば、当事者研究って「自分を語る」ことでもあったのか

「研究」って言葉とは非対称に、当事者研究って自分について自分で詳しく語ることでもある、ということを忘れてた。忘れさせる所こそが当事者研究の1つの特徴かもしれない。

多くの場合、精神疾患を持つ当事者が自分の病気をおおやけにすることは難しい。とても仲の良い友達ですら。
それが、「研究」という形で自分の症状(特徴)を対象化することで、それを一種の公共財として公共空間に引っ張り出してくることができるのだ。
これはまさに公的スティグマをなくしていく1つの方法と言えるだろう。

その他にも「自分を語る」ということは当事者自身にとってドラスティックな効果がありますがここでは割愛。
当事者研究は「自分を語る」方法の中でもとても秀逸だと私は感じます。


【ぐっとポイント(2)】当事者研究の背景にフランクル先生の実存分析があったなんて(゚д゚)!

浅学の身ゆえ知らなかった…。
V.E.フランクル先生は強制収容所での経験を書いた傑作『夜と霧』を書いたことで有名な精神科医。大ファンです。(好きな本は?と聞かれたら迷わずこれを答える)


どうすることもできない絶望的な状況に押しつぶされて打ちひしがれるのではなく、そのような状況にどのような態度をとるのか。これからも続いていく人生に今の私は試されているのだ、というのがフランクル先生の理念。

まさに同じような状況に置かれているのが精神障碍者たちである。フランクル先生が言うように、そんなしんどい運命をみんなで一緒に引き受けようじゃないか、っていうのが当事者研究の一側面なのだ。(自分で自分の病名をつけよう、というのもその一つ。)


【ぐっとポイント(3)】『弱さによる連帯』


私の求めていたものはこれだ…。『弱さによる連帯』

当事者研究は、治療空間の外で自分の弱さを堂々とみんなでシェアして、その弱さによってつながる場を作り出す。うらやましい……。
なぜって、今の時代、「明るく元気な人は好かれる」みたいな風潮があって、具合の悪さを抱えた人は虚勢を張って生きていかなきゃいけないような気がするからだ。

私は以前ロンドンで先進的な地域精神保健を学びにいって、「これはすばらしいぞ!!」と思うかたわら、どこかで息苦しさを感じていたのがまさにこの問題である。
向こうでは今、(日本でもそうなるかもしれないが)"Strength-based"が新たなスローガンである。簡単に言えば、「患者さんの強みに注目して、強みを活かして生活できるようにサポートしよう」というものだ。

……じゃあ、「自分に強みなんてない、と思ってる人は?」「今まさに保護室で暴れてる人は?」という疑問が生まれる。
そういう人に強みを見つけろ、というのは酷である。(強みがない、と言っているわけではない。それを見つけられない時や状況もあるということ)

強さ、前向きさ……。そういうのが息苦しい人もいる。
世界のトレンド『強さによる連帯』ではなく、べてる流『弱さによる連帯』は私の好みにぴったりだ。


【ぐっとポイント(4)】当事者研究にも同化圧力がかかるのではないか

マイノリティを語るにあたって無視できないのが、当事者の間にもものすごいバラエティがあるよ、ということ。統合失調症の1人が当事者研究を発表したからといって、その研究が統合失調症の人全てに当てはまるわけではない。
それなのに、そのコミュニティに属していることで、誰かが発表した「統合失調症の体験」になんとなく自分も合わせなければいけないような気がする、というのが同化圧力である。

この力を排除するのはなかなか難しいが、そのための可能性を示しているのが熊谷先生&綾屋さんの『つながりの作法』らしい。

今度読もう。マイノリティの「代表性」の問題(マイノリティのある人の発言はその他の仲間を本当に代表しているのか)についてはまたきちんと学びたい。

と、こうしてきちんと課題も提示してくれるところが学術的で良かった。

石原先生の第一章だけでだいぶ心を掴まれてしまった。
続きの章はまた今度。

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