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そんな自分がちょっと好きだったりする(書評)ADHDでよかった 立入勝義

ADHDでなければ、どれだけ生活が楽だっただろうと思うことはあるけれど、ADHDでない自分のことを想像することができないのも事実だ。ADHDは自分そのものなのだ。だから、今ある自分がいるのも、たどっていけばADHDのおかげだとも思える。このなんだか、わけのわからない感覚を自伝の形で書き表した本を見つけた。

アメリカ在住20年の起業家・コンサルタントの立入氏だ。彼がADHDの診断を受けたのは34歳の時。それまでは浮き沈みの多い「波乱万丈」な人生を送ってきた。それでもADHDと診断されたことによって、その特性を受け入れることができ、コントロールできるようになってきたのだ。自慢話でも武勇伝でもなく、ADHDの生の声を聴ける貴重な本だった。

ADHDゆえのキャリア

立入氏は、大学受験に全敗し、破れかぶれの気持ちで渡米する。そして、そこで、出会った人の助言で米国の短大に入り、やがてUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に編入を果たす。この辺から、地頭の良さを思わせるエピソードだが、単身での渡米に代表されるように、思いついた時点ではやっちゃっている「衝動性」は、まさにADHDならではだ。

卒業後も様々な仕事に就き続ける。トータルで50以上の職種・肩書を経験し、一つの会社に3年以上勤めたことはないという。本人曰く「多動の極み」の社会人人生を送ってきた。計画的ではないものの、その都度、新たなチャレンジを繰り返してきたのだ(ちなみにアメリカでは上昇志向の転職はキャリアに悪影響を及ぼさない)。会社経営も、経営の失敗も経験する。まるでジェットコースターのような人生だ。

立入氏は、自分の人生を振り返り(反省と後悔が多いが)、それでも「今のキャリアはADHDであるゆえに手に入れたものなので複雑な気分だ」と述べる。この本を読むと、立入氏が本当に努力家であることが分かる。ADHD傾向は若い時からはっきりしているが、それでもあきらめずにチャレンジし続けたからこそ、今がある。そして、彼の自伝からは、前のめりで進み続けるなら、人生は思わぬ方向に転がっていく教訓を学べる。

ADHDをネタにしながら、自慢話に走ることもできそうなレベルの著者だが、行間からはADHDゆえの悲哀が伝わってくるので、低スペックの私も十分共感できた。

ADHDの診断を受けて良かった

立入氏が診断を受けたのは34歳。米国なので、すぐに投薬治療を開始したそうだ。その治療は功を奏したようだが、現在は経済的な理由もあり治療を中断している。しかし、その後、かなりの程度、自分の人生をコントロールできるようになったことも述べている。

立入氏が診断を受けてよかったと感じたのは、それにより、自分の障害をまともに受け止めることができるようになったこと。具体的に言えば、「自分を責めなくなったこと」「自分の強みを活かせるようになったこと」だ。いくつかの会社では、衝動性ゆえの対人関係の緊張や、判断のミスで損失を被っている。

しかし、ADHDであることを自覚してからは、自分の強みを活かすために、フリーランスの道を選んだ。

ブログを「天職」とし、そこから「出版」にこぎつけ、やがて、ソーシャルメディアに関するコンサルなどを行うようになった。アメリカ在住で日本よりはるかに進んでいるソーシャルメディアに強かったことや、語学力が彼の成功を助けたのだろう。しかし、何よりも大事なのは、自分の限界を知り、自分の「強み」で戦ったことだと思う。

立入氏は、自己分析能力に優れている。自分の「弱み」もよく理解している。それを克服しようと苦しんだ過去があるようだけど、ADHDを受け入れ「強み」に特化した時にブレイクしたというわけだ。だからこそのタイトル。「ADHDでよかった」(ADHDだと気づいてよかった)と言いたいのだろう。

ADHDはフリーランスに向いている

ところで、私がこの本を読み終えて感じたのは、やっぱりADHDはフリーランスだなということだった。向き不向きで言うとガチガチの会社勤めではなく、フリーランス(もともとは「傭兵」を意味する言葉)が向いているのだ。自由自在に動きを変えることができ、時代に合わせて即応していく人材として、活動し続けることが自分を活かす道だ。

私も、どんどんキャリアアップならぬ、キャリアダウンして、ついにフリーになってしまったが、自分の居場所をようやく見つけた感じだ。活動的で、飛び回る傾向をうまく活かせるなら、それに越したことはない。

ADHDでの人生は楽ではないけれど、それでもADHDとしての過去を消し去りたいかというとそうではない。やっぱり、これが自分なんだという、ちょっとした自己愛を感じて共感する一冊だった。

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq