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対話は自分の幹を育てることから

今回は泉谷閑示著「あなたの人生が変わる対話術」を読んでの自分の解釈と学んだことを紹介させてもらいます。これまで紹介した本と共通する部分もあるので、その辺りもリンクさせていきたいと思います。

本を最初に見たとき、人間関係は対話で変わるというキャッチフレーズに目が行きました。
コミュニケーションのテクニックの話かとも思っていましたが、読んでいく中でもう少し深いテーマが主になっていることが分かってきました。
私自身、理学療法士として対話というのは患者さんやご家族はもちろん、スタッフ間、他事業所など様々な場面で必要なので、仕事に役立てていける内容だと思います。

本の紹介

著者は精神科医です。はじめはカウンセラー向けの本の予定が一般に役立つ技術的な内容へ変更することになり、悩んだ結果、対話の前提から説明していく必要性に気付いたそうです。そうした経緯からか読んでみるとテクニック的な内容よりも「対話とは何か」「対話への構え」といった対話に臨む前の部分が重視されている印象で自分自身、そこが特に勉強になりました。

同質の空気を読むコミュニケーションから対話へ


これまでのコミュニケーションはいわゆる「空気を読む」「何となく察する」といったものに頼ってきていました。これは同質的なムラ的共同体の中だから成立してきたことで、社会的にも個性を重視している現代ではこのムラ的共同体のコミュニケーションは通用しなくなってきています。そこで、違う考えの者同士が対話のコミュニケーションへとシフトする必要があります。
本書では対話の説明のために根本的な生き方に触れる必要があり、対話の技術論に留まらず生き方につながる内容が特徴と書かれています。

対話の心構え 他者の認識

対話のために相手を他者として認識する必要があります。
この例として
「美味しいから食べてごらん」なのか「私は美味しいと思うけどあなたはいかが?」
なのかを挙げています。
前者は自分と同じ感じ方をするだろうという前提、後者は自分とは違う他者という前提に立っています。前者ではもし「美味しくない」と感じても言い出すことが難しくなります。この問題がみんな同じ考えという空想、違うと言えないムラ的共同体のコミュニケーションにあります。

まず他者を理解することへの絶望があり、だからこその対話の必要性に辿り着きます。みんな同じであろうとすることは結局は変化しないことなので、対話を始めるにはそのぬるま湯的な関係から変化していく覚悟が必要になります。
他者との対話は自分の常識を壊すかもしれない、その不安から他者を避けてしまうことは少なくありません。自分自身の経験として身についていない借り物の考えや知識では他者の違う意見の前で脆く崩れ去る(何にしてもいずれは崩れる)ことがあります。真に自分自身の考え、知識ではないものに違う考えが向けられた時、脆いものを守ろうと防衛的に相手の話を遮る、感情的になるといった反応をしてしまいます。これでは対話へと進むことができません。なので対話に向かうためには自分で作ったしっかりした土壌が必要になります。 

自分の幹を育てる土壌

自分の幹を育てるためには多くの経験が必要になります。この本で言われている経験は、自分自身が体験してそこから学び取ったことを実践したことの経験です。単に体験したのみでは身につきません。これは本を読んで満足するのか、実践して身につけるのかということと同じですね。そしてこの経験は自分を変化させていきます。そうして幹が強く育っていきます。当然、この経験には他者との対話で違う考えに触れて、自分を変化させていくということも含まれます。こうした強い幹を育てることで新しい考えに触れた時、崩れ去るような恐怖を感じずに受け入れることができるようになります。

対話とは?

対話とは違いを認めて、相手の考えを理解するための聴き方、話し方でやり取りをして相互理解を深めることです。
これは自分の言いたいことをただ話す井戸端会議のような一方通行のモノローグではなく、キャッチボールをして一緒にステップアップするダイアローグのコミュニケーションと表現されています。井戸端会議は基本的に互いに言いたいことを言い合うので、相互作用的なステップアップは生まれません。
また、前述したように話す中でつい相手の話を遮る、怒るなど反応的になる時には自分のよく理解できていないことや不安定な借り物の考えを守ろうと防衛的になっている現れで、当然一緒にステップアップすることにはつながりません。
ディベートやディスカッションも対話とは違います。ディベートは自分の意見の主張、ディスカッションはグループとしての結論が相互理解よりも重視されると思われます。そういう意味でディベートは対極に近いかもしれません。
他者の考えを素直に聴くにはどんな相手でも新鮮な感想や指摘があるかもしれないと考えることが大切です。
聴くとは自分が「分かること」と「分からないこと」を丁寧に聞き分けていくことです。方法としては相手の考えを掘り下げて問うwhy?で内省を促します。そして理解するためには自分の考えを混ぜずに聞く必要があります。これは難しいことなので無色透明な自分の分身に聞いてもらうというのが良いと紹介されています。
対話は自分のありのままが現れると言う意味では痛みも伴うプロセスかもしれません。ですが、その痛みも含めて自分の経験としていくことが自身の成長につながっていきます。そうして自分の考えに根を張って、太い幹を育てていくことで違う考えで傷が多少ついてもびくともせず、それをまた成長に変えていきます。
そういえば果物も傷が多い方が日光によく当たる部分なので甘いですね。外からの刺激を受けながら栄養を蓄えていく、私たちも対話によって甘い実をつけられるようにしていけると良いですね。

感想


まず自分と他者が違うことを認める、自分にはない気づきを与えてくれる相手と思って傾聴することが大切だと感じました。
あまり触れませんでしたが、対話術としては相手の内省を促すような聞き方、問いかけで相互理解をするというのが印象に残りました。コーチングに似たところを感じたので、改めてコーチングの本を読んでみると新たな気づきが得られるかもしれないと思っています。
他者理解という部分で心理的安全性における新奇歓迎の部分であったり、「意見の衝突って大事」で紹介した本のストーミングと共通する部分が多いように思います。
対話で思い出したのは「嫌われる勇気」の哲人と青年のやり取りです。哲人はまさに対話をして他者の考えに触れることに喜びを感じていました。他者の課題と自分の課題を分離するという考えとは一見すると真逆にも思えますが、実は課題の分離ができているということは全く考えの違う他者を受け入れている状態なのだと思います。それができているからこそ相手の言葉を受け入れて、自分の経験として身につけていくプロセスにつながっていくのではないかとも思えました。

今回まとめた内容もまだ自分自身借り物の考えに過ぎないので、これから自分の経験として身につけていけるようにして、ちゃんと身についた時には改めて自分の確信を持った言葉で整理して書くことができるかもしれません。
他者との対話を学ぶつもりで読み始めましたが、冒頭で生き方に触れると書かれたように自分自身を見つめ直すきっかけをくれる一冊でした。

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