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春の雷はぬるくやさしい

"親愛なるあなたへ あなたは生きたかったですか"
しなないでと言わなかったあなたが好きだった。

飲み干す前に、半分捨てた。
こんなに欲しかったのに、途中でいらないと諦めたくなる衝動がおさえられない。
動く喉元を眺めていた。水は流れるから綺麗で良いなと思った。さっきまで聞いていたはずなのに、その喉から出る声は忘れた。
私は同じ形で復元できない。言葉も、声も、表情も、焼き付けたくても何も残らない。
記憶は綺麗でなんか都合が良いから好き。

気が変わる前に、心変わりさせてあげる。
私なんかに心変わりする奴は、すぐに他の人にも心変わりするだろうけどね。
助手席にテディベアみたいにお利口さんに座って、テディベアになったら退屈で時間流れるの遅そうだなと思った。

どんなに大切なものでも、ある日突然手放したくなる日が来る。手放しても手放さなくても同じ重みの後悔はのこることも、選んでゆくのが生きるということだということも、賢い私は幼い頃からずっと知っていた。それでも愚かな私はそれに抗って、見ないふりして逃げてきた。

本心なんてなにもわからない。上辺だけのコミュニケーションをしていると言いたいわけではなく、ただ、単純に、人の本心なんて当人にしかわからないよなと思うのです。それをかなしいことだと言える心のピュアさがヒリヒリと痛い。この人を信じたら幸せだろうなとはっきりわかる。薬は毒だ。光は槍だ。綺麗な街に、私は住めない。

ずっとあなたに嫉妬している。羨ましいと思っている。でもあなたになりたいと思ったことはない。それが答え。愛ではなかった。静かに離れるべき瞬間があることを知った。交わらなければ心が揺らぐこともない。

ずっとどこかが欠けている。欠けた破片も見当たらない。ずっと何かを忘れている。ぜーんぶ本当だと信じきっている私は幸福だ。嘘つかれたなんて思っていないから。全て本当のことだと思っているから。寂しさの川に小舟を浮かべて、ゆらゆら揺られて空を見上げる。空の広さは自由だと思いますか?それとも不自由?

「春だから」で済まされる嘘がたくさん行き交っていて、「春だから」と、わざと切った糸がある。気まぐれに春の雷が世間を賑わす。教えてもらったこと、全て記憶から消えればいいなあ。そっか、ちゃんと抱きしめ返せばよかったんだ。幸せになりたかった気持ちよりも、ずっとあなたと一緒にいたかったよ。住んでいる街の桜について、怠惰な私は何も知らない。




ゆっくりしていってね