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無職引きこもり日記から

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無職引きこもりの日々。 一部だけを再投稿しました。
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記事一覧

夜中のサイレン

 救急車のサイレンの音で目が覚める。窓に赤い光がチカチカ映る。近所でお年寄りでも倒れたのだろうか。心臓発作か。硬くなって上向いたまま救急車に乗せられ、運ばれていく老人を頭に思い浮かべる。雨が急に激しさを増す。窓に打ち付けた雨が列をなしてガラス上を滑り落ちる。絶え間ない雨音に耳が麻痺する。ずっとこの音が流れ続けていたのに、今まで聞こえていなかっただけではないか。水の中に閉じ込められて、仰向きのまま背

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 猫のナナちゃんがケージの金網の隙間から私の顔をじっと見ている。ご飯を入れてほしいのはわかっている。すぐ入れたら吐くから時間をおいて、小分けしてあげているのだ。「もう少し待ってね!」と言う。それでもナナちゃんは私の顔をじっと見るのやめない。私の顔に何か変化が現れてご飯をくれる瞬間を見逃さないようにしているみたいだ。私の顔は空の雲のように一瞬ずつ変化する。何らかの感情が兆して、少しずつ流れて、ちぎれ

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無職引きこもり日記 ラッキー 9月17日

無職引きこもり日記 ラッキー 9月17日

 夕方同居人が慌てている。「私の青いバッグ見なかった?」という。どうやらバッグがないらしい。バッグには今月の生活費数万円やクレジットカードなど貴重品が入っていた。家中あらゆるところを探すも、見当たらない。これはもうどこかに落としてきたに違いない。イライラし始める私。「なんでボディーバッグなのに身につけてないの!本当にアホやし!」

 同居人は注意力欠陥が目だち、これまでにも数え切れないほど財布やお

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無職引きこもり日記 染みる夜 9月12日

無職引きこもり日記 染みる夜 9月12日

 日曜日の夜ランする。陸上競技場のランニングコース。人は少ない。カップルもいない。数人の男たちが走っているだけ。蝉ももう鳴いていない。どこへ行ったのか。鳴いているのは叢の秋の虫たちだ。季節は少しずつ巡っている。夏が終わって、秋が来た。やっと夏に慣れたところだったのに。日本に、春夏秋冬の四季があるのは良いことのように言われているけれど、違うと思う。変化は疲れる。ずっと同じならもっと楽だと思う。

 

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無職引きこもり日記 造語 9月11日

無職引きこもり日記 造語 9月11日

 夜9時を過ぎて、カロリーの高い肉や焼きそばやアイスやラーメンを食べることを「デブ活」と言うそうだ。今日もピカッチはデブ活中。「お母さんもデブ活する?」と聞かれたけど断る。私はデブ活はしない。中年太りしたくないから、気をつけているのだ。それにもう歯磨きしちゃったし。

 猫が3匹いて、家の中に3つのトイレがある。誰がどれを使うかは決まっていなくて、猫たちはトイレを共用している。トイレ掃除をしている

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無職引きこもり日記 マリンちゃん 9月10日

無職引きこもり日記 マリンちゃん 9月10日

 子猫の名前はピカッチがつけた。8月の終わりにうちに来たので、「夏にちなんだ名前がいい」と言ったら、ピカッチがマリンちゃんを思いついた。マリンブルーのマリンちゃん。
 
 今年の夏も海水浴には行かなかった。海に行って泳いだのはいつのことだろう。おそらく20年前か、それくらい。でも、海を見るのは好きだからときどき見に行く。その海の青さを名前に持つマリンちゃんは、今日も元気に走り回っている。

 ぱっ

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無職引きこもり日記 そわそわ 9月9日

無職引きこもり日記 そわそわ 9月9日

 朝から騒動が持ち上がる。昨日、友だちと大型ショッピングモールに遊びに行ったピカッチが、勝手にポケットWi-Fiを契約。月1万円もするという。「だって、会社の電波悪いもん」。会社の休憩時間は昼が45分で、午後が15分の計1時間。その短い間にスマホを触りたいということらしい。
 
 その話を聞いて、音信不通の友だちのことで、もともと落ち込んでいる私は余計に精神的ダメージを食らう。げんなりしちゃって

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無職引きこもり日記 ピカッチの誕生日  9月4日

無職引きこもり日記 ピカッチの誕生日  9月4日

 ピカッチの誕生日に私はケーキを焼いた。買い物に行き、レシピを見ながら作る。ハンドミキサーで卵を撹拌して、グラニュー糖と混ぜ合わせる。ドロドロした液体は撹拌されるうちに、空気が入ってどんどん膨らみ、黄色のふわふわしたスポンジになる。

 21年前、新潟の産院でピカッチを産んだときのことをよく覚えている。夏の終わりのとても暑い日だった。当時、古いマンションに住んでいて、エアコンは壊れていた。私は夏中

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無職引きこもり日記 日曜日の夜ラン 9月3日

無職引きこもり日記 日曜日の夜ラン 9月3日

 夜ランする。陸上競技場の周辺のランニングコース。日曜日の夜だから、人は少ない。みんな明日からの仕事に備えているのだろう。私は、無職だから平気で日曜の夜にも走ることができる。

 空には月が出ていた。今日は黄色い月の周りに暈がかかって、輪郭は二重にも三重にもぼやけている。いつもの白いランニングシューズを履いて、ゆっくりと走りだす。

 友だちが音信不通になって二週間。友だちのことを思わない日はない

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無職引きこもり日記 行ったり来たり 9月1日

無職引きこもり日記 行ったり来たり 9月1日

 夕方、ピカッチが銀行でお金をおろしたいというので、車を出す。自転車でも行けるけれど、ちょっと遠いから面倒くさがっているのだ。出がけに「通帳がない」と言って騒いでいる。ようやく通帳が見つかって、銀行に行く。駐車場に着いて、銀行のATMに向かうピカッチ。しばらくして戻ってきたが、車に乗り込むなり不機嫌。「財布忘れたし!」「は?」「財布忘れた。」「キャッシュカードがないってこと?」「そうだね」「何しに

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無職引きこもり日記 ある土曜日 8月31 日

無職引きこもり日記 ある土曜日 8月31 日

 土曜日。休日でピカッチが家にいる。朝から「なにわ男子」のDVDをテレビで流している。私がうるさいのが嫌いなのをよく知っているので、一応遠慮しているのだろう。ヘッドホンをつけて見ている。赤色のかわいいヘッドホン。ところが、寝転びながら見ているものだから、コードの長さが足りないと言う。「短いし。なんでこんな短いの買ったんだろう?誰だ?これにしようと言ったのは。」人のせいにしようとしているらしい。「

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無職引きこもり日記 あかねちゃん 8月29日

無職引きこもり日記 あかねちゃん 8月29日

 親戚の集まりで、父母と一緒に一日中実家を空けた。帰宅してふと水槽を見ると、金魚が一匹腹を上に向けて浮いている。父親が水槽に貼り付けた、特徴と名前が書いてある紙を確認した甥っ子が「あかねちゃんが死んでる!」と叫んだ。同じ水槽に入れられているレモンちゃんと茶茶丸が、浮いたあかねちゃんの尾をつついている。「今日一日暑かったからじゃない?」と妹が言う。西日が当たって、水温が上がったのだろう。いつもなら、

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無職引きこもり日記 海日和 8月28日

無職引きこもり日記 海日和 8月28日

 認定日で朝からハローワークに行く。もう何回も来ているので、慣れてしまっている。受付で「認定です」といって書類を渡す。番号札を持たされ、呼ばれたら行く。今日の職業相談の相談員は若い男性だった。二十代半ばだろうか。優しい物腰で口調も丁寧なので好感を持つ。恥ずかしいのか目を見ないで話してくる。「前回相談にいらっしゃったとき温泉施設の求人票をお持ちになったようですが、その後どうですか?」「山の上だから、

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無職引きこもり日記 夢ー白いタイル 8月26日

無職引きこもり日記 夢ー白いタイル 8月26日

 私とピカッチは 日曜日の夕方、山の方に向かって車を走らせている。信号待ちをしていると、すぐ前を突っ切って行った一台の車が私の車のフロントバンパーのあたりにコツンとぶつかる。あっと思っているうちに、車は止まらずそのまま走り去ってしまう。「何あれ、今ぶつかったよね」とピカッチは言う。「いいの。大したことないと思うから。」そう言ったとき、正面からさっき走り去った車が猛スピードで戻ってくる。水色の外国製

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