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Book Review|神さまたちの遊ぶ庭

読んだ人が、みんなこの本を大好きになってくれる。
だからぜひ読んでほしい。

――著者自らそんな風に表現する本って、なかなかない。
そして、まんまと私も大好きになってしまったのが、「神さまたちの遊ぶ庭」。


著者の宮下奈都さんの代表作と言えば、本屋大賞も受賞し映画化もされた「羊と鋼の森」。まさに私が「じぶん実験」を始めた3年ほど前、この1冊をきっかけに宮下さんワールドにどっぷりはまった時期があります。が、その時は「神さまたちの遊ぶ庭」は読まなかったんです。図書館で見当たらなかったからとか、多分その程度の理由。

その後、じぶん実験に邁進した私は、心理学系の本とか、自己啓発本とか、役に立つ読書を優先して、小説やエッセイからは距離を置いてしまいました。が、「役に立つより、心躍る読書」をテーマにしている2024。また宮下さんの世界に舞い戻ってきたというわけです。

本書は、宮下さんご一家が北海道のど真ん中・トムラウシという場所に山村留学した日々の記録。”便利”と”スピード”に囲まれた街にはない風景と、人とのかかわりあい、時の流れに、生活。私も手帳のやりたいことリストに「いつか、トムラウシに」と書き込むほどには、遠い彼の地の日々を追体験させてもらいました。

が、この本の本質は、きっとそこではない。少なくとも、私にとっては。
何に心動かされた飼って、そこに綴られた1日、1日が、どれも輝いている。
もちろん、「事件」と読んでいいような出来事もあるけれど、多くは日常。そう、私たちが既に手にしている日常なのです。

もちろん、宮下さんの鋭い感性と筆力が土台にあってこそ、その日常を輝かしく、ユーモアとともに綴ることができるってわかってる。でも、それよりなにより、日常ってこんなに素晴らしいものなのだ、って、心を揺さぶられる瞬間がここかしこ……いや違う。全頁、全行に、確かにある。

日常こそすばらしい

――さっき私、こんなことサラリと書きました。こんな言葉もう聞き飽きてるし、表現としては使い古されている。ちょっとかび臭ささえ漂うかもしれません(私もそう思う)。でも、この本を手に取って、ページを繰るたびに、やっぱりそう思わずにはいられなかったし、ずっと驚いてしまったんです。私はどれだけのものごとを見落としていたんだろう、って。「え、生きてないじゃないか、私」って。そして、「私、既に、ものすごく面白くて楽しい日々を生きているんじゃないか」とも。

そんなところで暮らしているとネタが増えていいですね、というようなことを東京の人に言われる。
(中略)
「小説やエッセイのネタです。事欠かないでしょう」
 ネタという言い方もよくわからないが、なんというか根本から間違っている気がする。小説やエッセイのために人生があるわけではないのだ。

「神さまたちの遊ぶ庭」(宮下奈都・著)より

あぁ、この本を読んでいてうれしくなるのは、日常が愛おしくなるのは、これが理由だ。

手段として生きるのではなく、生きることが目的であることの豊かさ。その眼鏡をかけて、目の前にあるものをのぞき込んだ瞬間に、全く違う時間が流れ始めるのが、もうわかる。

ここではないどこかにいかなくちゃ、とか、何者かにならなくちゃ、とか、そんな思いをあなたが抱いているなら。気ままに何ページかめくるだけで、あちこちにあたたかな陽だまりが、きっと見つかります。


▼ Book Review Magazine「たくさん読むよりじっくり読みたい」
たくさん読むより、じっくりと。 今すぐ役に立つことより、じんわり効いてくる言葉を。 ライター・矢島美穂がゆっくり楽しんだ本をレビューします。

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