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Book Review|さみしい夜にはペンを持て

おみくじで言ったら、「吉」以下。
こんなはずではなかった毎日。

――生きていけなくはないけど、心のどこか開いた穴から零れ落ちるものの方が多くて、なかなか満たされない。誰かに手を差し伸べてほしい。そんなあなたにおススメしたくなったのが、「さみしい夜にはペンを持て」。


……誰かに手を差し伸べてほしい、なんて言ったものの、この本、突き詰めていうと「自分でとことん考えろ」が一つのメッセージだと捉えております。

誰かと話しながらではなく、自分ととことん時間をかけて向き合え。
「そうかもしれないね~、でもそうじゃないかもしれないね~」なんて、答えを出さないという選択肢に逃げるな。

いや、古賀さんはこんなことは言ってない。大いなる意訳です。

とはいえ――
ですよねーですよねー……甘ったれたこといわないで、自分の人生自分でどうにかするしかないですよね……と思ったあなたは、ご安心ください。

あなたを場外押し出しで冷たく終了にしないのが古賀さんのお仕事。「日記を書く」という方法を、柔らかくあなたの前に差し出してくれます。

自分を好きになるには、今の困難や小さなモヤモヤから脱するには、「努力する」のでも「挑戦する」のでもない。「言葉にする」ことが始まりであり、突破口であるのだ、と。

小さい頃の私は、祖父に「上沼恵美子みたいだなぁ」と言われるくらいにはおしゃべりでした。曾祖母を筆頭に4世代が同居する7人家族の一番ちびっことして育った立場上、まぁいろんな揉め事も起きるわけでして。そんなときにチビ恵美子は振舞いを考えるわけです。
ある時は大人が言いにくいことを祖父母にあっけらかんと指摘して、またある時は子どもながらの無邪気さに本質をくるんででその場を和ませて。

クラスで、部活で、会議でもその調子で振る舞うものだから、ムードメーカーとして重宝はされても、失態も多かった。言わなければよかったひとことの記憶は、私の周り半径15センチくらいの範囲に、探さなくてもすぐ手に取れるほどには転がっています。

それが理由の一つのなのか、敵が多い人生でもありました。
崇めてくれる人と、矢を放つ人が、あっちとこっちに常に両立するような毎日。

以前目にした雑誌で、作家の川上未映子さんが話していたのはこんな言葉でした。

ひとりの時間は、人間にとって大切という以上に必要なもの。というのも、人は誰かといると言葉など何かを出し入れしていますが、サービス精神のようなものが働いでテンションが上がり、思っていることと口からでる言葉がずれていってしまう。

&Premium特別編集「ひとりの時間は大切。」より

そして今回の「さみしい夜にはペンを持て」では、こんな文章が。

おしゃべりのことばをどれだけ重ねても、考える習慣にはつながらない。

おしゃべりは、ひとつの場所に立ち止まらせてくれず、一つの考えに集中させてくれないんだ。だから自分の考えを深めていくためには、ひとりになる必要がある。ひとりの場所で、ひとりの時間に、自分一人と向き合って書くからこそ、一つの考えが深まっていく。誰にも合わせず、『返事じゃない言葉』を書いていくことでね

「さみしい夜にはペンを持て」より

しゃべることで開く扉もあるけれど、むしろ「自分との乖離」を生むことだってある。集中力を削いだ自分が、誰かを傷つけることも。

ホスピタリティをそっと畳んで。調子に乗ってはしゃぐうちに鼻先までずり落ちためがねを、くいっと戻してかけなおす。きっとそれが、書くこと。



稚拙ながらも書き始めて数年たった今、敵はちょっとずつ減った気がします。確かに、ちょっとだけ安心して生きられるようになった気もします。

別に何物にもならなくても、別の場所に行かなくても。
「こんなはずではなかった毎日」が、「これもまたなかなか良き毎日」になる。そのために、ペンをもつ。
「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいに聞こえるかもしれないけれど、そのからくりが明らかになるはずです。


▼ Book Review Magazine「たくさん読むよりじっくり読みたい」
たくさん読むより、じっくりと。 今すぐ役に立つことより、じんわり効いてくる言葉を。 ライター・矢島美穂がゆっくり楽しんだ本をレビューします。


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