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カレー屋を始めてみたこと、実体験で伝える

初めまして。mijincoです。奈良のきたまちというエリアで「本とカレーのミジンコブンコ」の店主をしています。サラリーマンを辞めてミジンコブンコを始めて8年。サラリーマンの期間を店舗経営してきた期間が追い抜いてきたなあ、と、漠然と思っていたのですが、ここらで一度自分の整理とこれから何か始めたいと考えている人たちに向けて自分の体験をnoteに残していくことにしました。仕事をつくる、生き方の模索について色々書いていくつもりですが、基本ゆるゆるいきます。

 はじめに、僕の経歴と店を始めることになった経緯を少し(長くなりますが)。

 大学、大学院で遺伝子組み換えに関する技術を学び、民間企業の研究職として生物に関わる研究をしていた。もともと好きで入った業界だったし、今でも好きな分野である。しかしながら、働いていくうちにもっと生きることを俯瞰して見るような仕事をしてみたいなあ、漠然と思うようになる。もともと生き物が好きということ同じくらいに食べることが好きだったのもあって、衣・食・住(人間が生きる環境)に関わる仕事をしてみようと決心。7年勤めた会社を退職し、まずは「住」だ!ということで、大工の職業訓練校と夜間の建築の専門学校に入校する。そこで大工の基本的な技術や設計思想や図面の引き方を学ぶ。訓練校が終わると同時に京都の建築事務所でオープンデスク(のちにアルバイト)としてお世話になる。卒業後は建築事務所でと考えていたのだが、家のこと、これからの生活などなどで少しだけ悩んだりもした。深刻ではなかっだけれど笑。そんな時に研究職時代から通っていた奈良の古民家の飲食店が閉店することを知る。とてもお世話になっていたこと、そのお店が本当に好きだったこともあって「その場所を何らかの形で残していきたい」という思いから、借りたいと申し出る。その願いを汲んでいただき、大家さんにも繋いでくださって、晴れて町家で暮らし始める。最初の半年はとりあえず住んでみて考えようと、極寒の町家暮らしがスタート。まだ専門学校には在籍中だったので、白い息を吐きながら図面を引いていた、手が冷たすぎて手袋のまま過ごしていた。コンピューターでできるCAD作業なんかは近所のマクドナルドに避難して、そこで進めたりしていた(現代技術万歳)。卒業は近い、さてさて、どうする。

 時は少し遡って、実は研究職時代から奈良の古本市に出店し始めていた。その屋号が「ミジンコブンコ」。図らずも学びの時間と並行して、店を始める予行演習をしていたことになる。なぜ古本市に至ったかというと、本が好きだったから。かといってずっと本が好きだったというわけではない。小学生のころ、運動が苦手で休み時間のドッチボールやサッカーに混ざることが苦手だった。昆虫や動物、生き物、そして不思議なもの(UFOやUMAなどなど)が好きで、本も好きなものの一つだった。特に、別の世界へと冒険できるようなファンタジーやSF、おばけの話なんかが大好きで、休み時間にはたいてい一人で図書室に籠っている「おこもり少年」だった。でも中学生から大学時代はテレビゲームや他の遊びに興味が移ってしまって本とは疎遠になっていった。再び本に取り憑かれたのは、研究職時代。毎日会社に行って(仕事なので当然なのだが)、残業し、帰りにコンビニかファミレスで食事を済ます日々。たまたま仕事が少し早く終わった日、近所にできた大型スーパーの書店で何気に一冊の小説を手に取った。買い物を済ませ、同じ施設あるスターバックスで小説を読み始めた。なんて表現したらいいのか、読み始めた瞬間に風景が一変したように感じた。本を読んでる瞬間からその世界の中に没入していた。本というのは映像も音もないのに、脳内でその世界を構築してくれる最高のエンターテイメント装置なんだと改めて気づいた瞬間だった。ポッケに一冊の文庫本を忍ばせておけばいつでも別の世界に行けるのだから、本ってほんとにすごい。その日から仕事を早く切り上げては本を買って閉店時間まで読む日々が始まった。あっという間に部屋の中が本で埋まっていく。本の選び方はたいていは直感、言葉にするのは難しいけれど自分の好みの引っ張られるような感じ。その本の中に建築家の本があって、人が暮らす「住居」という物の本質に興味を惹かれた。デザインや家具も何となく好きだったものが本を通じて好みがより鮮明に具体化していった。(これがのちに建築の学校に入るきっかけになった。)好みの本を探しているうちに古本屋めぐりも始まり、たまたま見つけた一箱古本市「大門玉手箱」で本を選んでいると「出店してみない?」と誘われたのだ。魔がさしたのか何なのか、なぜか参加してみようと思ったのだ。僕は読み終わった本も手元に置いておく主義なので、売ることに興味はなかったので、小さな古本屋という意味を込めて「ミジンコブンコ」と名付けた。出店を重ねるうちに僕は個人の名前で呼ばれるよりも「ミジンコさん」と呼ばれることが増えていった。だから飲食店を始めようと思った時に、少しではあるが知名度が出てきたこの名前のままでスタートしよう、そして本を読む空間とカレーを合体させて「ブックカレー」にしようと決めたのだった。

 スパイスとの出会いは、高校時代。まだ将来何になるかなんて微塵も考えていない不登校気味の高校生だった僕は、父親の友人であるバングラディッシュ人のご夫婦の食事会についていくことになった。食べることは子供の頃から大好きで、好き嫌いもなかったことから、未知の料理を食べることができることを楽しみにしていたように記憶している。そこで出されたのが、スパイスを使った惣菜の数々。それを自由にご飯に盛り付けて食べる。もう全部美味しくて、でもなんの香りか全くわからない。今でも記憶の奥底にその時の香りが残っているように思うが、全く知識のなかったその時の僕には、初めて見るカルダモンの面白い形と特徴的な香りくらいしか覚えずに帰ってしまった(名前は聞かずに帰ってしまった)。でもその味は確かに衝撃的だった。パンチが強いわけではなく、僕たちが日常食べている食材がスパイスによってさっぱりとしつこくなく、それぞれの食材の味をうまく引き出されて調理されていた。その時代にはスーパーで手に入るスパイスなんて限られていて、実家住まいだった僕は食べる専門だったので(母も父もその時の料理は実は苦手だったみたい)、スパイス料理を作ることになるのは大学時代になる。

 大学で一人暮らしを始めた僕は、まだ全く料理なんてできなかった。ただ舌に覚えた味を頼りに、下手くそなりに料理を始めた。ある時大阪に遊びにいって、なぜだかインド料理屋さんに友人と行った(誰とどういう経緯だったかは全く記憶にない)、会計の時だったか、レジのところに手製のレシピブックとスパイスが売っていたのだ。その瞬間に高校時代の衝撃を思い出して、スパイスと本を買った。そのレシピで作ったカレーの味も覚えていない、まあ大して美味しくはなかったんだろう(笑)。ただ、それがきっかけで、スパイスを見つけては買って試すようになった。試すという言葉の通り、最初は適切な使用量なんてわからずに闇雲にスパイスを加えていた、当然すごくバランスの崩れた香りになってしまったりした。当時は近所の本屋さんにインド料理の専門書は見当たらなかったし、amazonなんて便利なものはなかった(と思う)。だから自分で試しては失敗し、だんだんコツを掴んでいった。一般的な「コツ」があるかはわからないけれど、自分なりのスパイスの使い方を徐々に習得していった。そうやって学生時代の6年、就職してからの7年、建築専門学校時代の2年間、自分なりのカレーを模索していた。特に専門学校に行っていた2年間は朝も夜も弁当だったので、昼は普通のお弁当、夜はカレーをお弁当にして持っていった。この時期、毎日カレーを作る、冷めても美味しいカレーを作る、短時間でシンプルな工程のカレーを作る、という3つの制約のなかでカレーを作っていた。後から思い起こすと、こういう制約の中でカレーを作っていたことがお店での調理に役立ったのだなあと思う。

 と、ここまで長々と書いてきましたが、みなさんにもなんとなく形が見えてきたと思います。高校時代のスパイスとの出会い、とりあえず住んでみようということで借りた大好きなお店の物件、本との再会、なんとなく趣味でやっていた古本屋、そして無職だったこと、これらがタイミングよく全部合わさってふわっとした感じで「本とカレーのお店ミジンコブンコ」が誕生したのです。だから雑誌の取材などで質問される「お店を開店するのが夢だったんですか?」という質問にはとても回答しづらくて(笑)。きっと夢いっぱいに希望に満ちた開業ストーリを期待されているんだろうなあと。でも実際には「なんとなく、色々と偶然が重なって」というのが正直なところなので、そういうのをまるっと一言で、「色々なご縁で」という一言に集約することにしています。

 さてさて、こんな感じでお店を始めたのですが、それなりに色々工夫しながらやってきました。このnoteでは店のコンセプト、ロゴ、web,SNSとの付き合い方、集客・知名度について、カレーや料理、内装工事、イベントの開催、間借りスペースの運営、他のお店とのコラボ商品開発などなどをランダムにお話ししていこうと思います。「おかしなカレー屋」のこれまでの苦労やコツなんかを「何か始めたい!」と思っているみなさんに向けて僕の実体験を書いていこうと思います。何かのお役に立てれば嬉しい限りです。

 最後に。僕は「成功論」を書くつもりはありません。今僕は人生を実験している最中です、生き方の実験。おそらく実験の終わりはなくて、きっと死ぬまでずーっと実験し続けるかと思います。このnoteもその一つです。そこで書くのは「成功論」でななく「失敗論」かも知れません。失敗を負けだと思っている人もいるかと思います。でも僕は違うと思います。失敗は知識・知恵の源です。怖がらずたくさんチャレンジしてたくさん失敗して、学んで次は成功して、小さな成功を積み重ねることで自分の理想とする生き方に近づいて行けばいいと思っています。「成功体験」だけを書いたビジネス書はたくさんありますが、「失敗体験」を元に書いた文章は少ないと思います。ですが成功体験というのはその人の行動の集約された結果でしかなく、非常にユニークで再現性のないものであることが多いんです。でも「失敗体験」はみんなで共有できるものだと思います。さあ、読者のみなさんも失敗だらけの楽しい人生に足を踏み入れませんか?

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